第13話 除霊
「ミャーオ」
奴隷商の元から野兎亭の部屋に戻ると、女奴隷はベッドの上に飛び乗り、ご機嫌に鳴いた。
『ねえ、ツボタ。このダークエルフ、猫の霊に憑かれていない?』
『ウォンウォン。ウォンウォンウォン、ウォンウォンウォンウォン?』
ニンニンとグラスが女奴隷を睨みながら言った。
『その通り。かなり格の高い猫の霊に取り憑かれている』
俺の目には女奴隷の身体は二重になって見えている。褐色の肌をもつダークエルフの身体と、人と同じサイズまで大きくなった蒼く輝く猫の体だ。
『なんとかなるの?』
『当然だろ? 見込みがなかれば買わない』
俺はベッドの上で丸くなり、寝息を立て始めた女奴隷に近付く。右手に霊力を込め、その背中を撫でるように【祓う】。
『ミャ~……』と少し切ない声を残し、猫の霊は消え去った。途端、女奴隷が目を開いた。
「……えっ、ここどこよ?」
「目を覚ましたか? ここはベイル王国の辺境の街ヘルガート。俺の泊まる宿の部屋だ」
「ベイル王国……!?」
女は跳ね起き、取り乱す。
「落ち着け。何も覚えていないのか……?」
「ええとぉぉ、猫人族の集落に盗みに入ってそれから……」
こいつ、犯罪奴隷か。
「首を触ってみろ」
「えっ、奴隷の首輪!? なんで!?」
「お前が盗みを働いたからだろ……!!」
女は俺をじっと見つめる。
「あんたが、あーしの主人?」
「そうだ。ツボタという。お前の名前は?」
「アミラフ。てか、ツボタ。落ち人じゃない?」
アミラフは俺を珍しそうな目で見ている。
「あぁ、そうだ。俺にはいろいろと秘密事があってな。裏切らない仲間が欲しくて奴隷、アミラフを買ったんだ。よろしく頼む」
「ほうほう。なんか訳アリってことやね。まぁ、こうなってしもたら暫くはツボタのお世話になるしかなさそーやなぁ」
訛りの強いダークエルフのアミラフは部屋の中をぐるりと見渡し、ぽつり。
「ツボタって、壺売ってるの? 壺で部屋がいっぱいやけど。あーしの寝るとこないやん」
「あぁ、そうなんだ。アミラフには別の部屋を借りてやるから心配するな」
「おっ……! なかなか太っ腹やん。で、あーしに何をさせるつもり?」
探るような視線。もう猫は憑いていな筈なのに、アミラフは鋭く野生的な表情を俺に向けている。
「アミラフにお願いしたいのは二つ。錬金術に使う素材の採取と、魔力の提供だ」
「魔力の提供?」
「あぁ。俺は特殊な体質で魔力がゼロなんだ。だから今まで、魔法陣には魔石から抽出した魔力を注いで、いろいろと合成していた。しかし、それだとどうしても品質が悪くなる」
アミラフは頷く。
「なーるほどね。魔法陣にあーしの濃厚な魔力を注いでほしいってことやね。もしかして、錬金術で作ってるのって壺の中のやーつ?」
なかなか鋭い。盗みを働いて奴隷になった割には馬鹿ではない。
「話が早いな。その通りだ。ちょっとこれからする詳しい事情を伝える。手を貸してくれ」
アミラフは首を傾げながら、手を出す。俺はそれを握って、一気に霊力を送り込んだ。
「……!?」
『どうだ。見えるか?』
「どうなってんの? 女と、くっそデカイ狼が見える。てか、ツボタの声が頭のなかで直接入って来てる……」
『これは【霊話】だ。俺の霊力を渡したから、アミラフも出来るはずだ。喉に力を込めて、声を出さずに話してみろ』
眉間に皺を寄せ、アミラフは唸っている。
『こんなんでいいの? 聞こえてる?』
『聞こえてるよ! アミラフはじめまして! 私はニンニン! 錬金術師よ!』
『ウォンウォンウォンウォン!』
ニンニンとグラスが挨拶をした。
『さて、俺達が何をやっているか教えよう』
俺は低級ポーションの原液が入った壺をテーブルの上においた。そして、腰のナイフを抜いて、左手の人差し指に刃を滑らせる。つーっと血が垂れた。
『えっ? 何をやって──』
『見ておけ』
俺はスポイトで壺の中の紫の液体を吸い、切ったばかりの人差し指に垂らす。傷は巻き戻るように塞がる。
『……ポーション……』
『そうだ。俺達はアスター教が独占しているポーションの合成を行うことが出来る』
『やっば……』
アミラフはしばらく目を見開いたままだった。
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