第14話 黄金色のポーション

 アミラフは当たり奴隷だった。


 本来は金貨200枚という値段にも頷けるぐらいに。


 まず、戦闘能力が高い。身体強化の魔法を得意としていて、単独での狩りも全く苦にしない。


 カーチス武具店で買った大剣を軽々と振り回し、オークなんかも一刀両断してしまう。


 グラスと組めば更に凄まじい。狼の精霊が取り憑けば大体の魔物は動きが止まる。


 そこをアミラフが首を刎ねて回るのだ。


 二人が魔の森に三日も行けば、ポーションに必要な素材が集まるようになってしまった。


 次は器用さだ。


 戦い方は豪快な割に、アミラフは器用だ。素材の精製も難なくこなす。


 本人に聞くと「あーしは有名な盗賊やったからねぇ。鍵開けなんかもお手の物よ」と得意げに話した。


 そして一番は魔力。エルフは元々、人間に比べて魔力の多い種族らしい。その中でもアミラフはずば抜けていた。身体強化魔法しか使えない代わりに、普通のエルフの何倍もの魔力量があるとか。


 それが判明したのはアミラフを冒険者登録した時。魔力量を測る水晶が割れてしまったのだ。眼鏡の女職員の引き攣った顔を俺は忘れない。


 そして今、その膨大な魔力を使ってポーションを合成しようとしている。


『ニンニン。ポーションを合成するとき、魔法陣に注がれる魔力の量が多ければ多いほど、質は高くなるんだよな?』

『そうだよ。私が全力でやったら上級ポーションが合成できた』


 ニンニンとグラスは俺のベッドの上にちょこんと座り、神妙な顔をしている。その視線の先にはポーション合成魔法陣と精製された素材の入ったビーカーがある。


『あーしが全力でやったら、どーなるんやろうねぇ』


 机の前に立つアミラフが不敵に笑った。胸を張って自信満々の表情で魔法陣を見下ろしている。


『じゃあ、やってくれ』


 俺が合図を出すと、アミラフは魔力を練り始める。


 普通、魔力は目に見えない。しかし、ある一定以上の魔力が一か所に集まると、可視化する。


 アミラフの右手が輝き始めた。拍動するように点滅しながら、どんどん光は強くなる。


 その手が、魔法陣に触れる──。眩い光で一瞬、視界が白くなった。


『……すごい……』

『……ウォン……』


 ニンニンとグラスが小さく漏らした。アミラフがビーカーを手に取り、高く掲げる。その液体は黄金色に輝いている。


『どーよ? これ、上級ポーションの更に上を行ったんちゃう?』


 俺が飲んだ上級ポーションは紫色だった。アミラフが手に持つポーションは黄金色。期待感が増す。


『ニンニン。ポーションの性能を試すにはどうしたらいい?』


 うーんと考える。


『魔物で試すのが一番いいんじゃないかな?』


 なるほど。それが一番現実的か。


『よし。魔の森に行こう。アミラフ、ビーカーの中身を小瓶につめてくれ』

『まかせときー。いや~楽しみやなぁ』


 逸る気持ちを押さえながら、俺達は宿を出た。そして、魔の森へ。



#


  

 魔の森は弱肉強食の世界だ。弱ければ、死あるのみ。それは魔物にも人間にも共通している。


 一歩足を踏み入れるだけで、死を身近に感じられる場所。緊張感をもって進む。


『ん。何かくる』


 すっかり霊話になれたアミラフが警戒を促す。身体強化魔法は視覚や聴覚まで強化するので、索敵にも役に立つ。


 アミラフが大剣を構え、油断なく森の先を見つめる。現れたのは──。


「おっ! ツボタじゃないか!」


 B級冒険者のハッサンとその仲間二人だった。三人とも仙人水を契約している壺会員だ。


「よお、ハッサン。整っているか?」

「へへ。ばっちり整っているぜ!」


 壺会員同士があった時は「整っているか?」と尋ね合うのが通例となっている。俺が広めた。これにより、連帯感が増すのだ。今後は会員特典の「壺バッチ」も配るつもりだ。


「この辺で魔物を見なかったか?」

「うーん。生きてる魔物はいないかもな。俺達が狩りまくったからな!」


 ハッサン達は素材でパンパンになったリュックを得意げに見せる。


「この先に魔物の死体があるのか?」

「おう! ゴブリンやらコボルトやらオークやらが転がっているぜ! じゃ、俺達はヘルガートに戻るから! またな!」


 そう言って、ハッサン達は魔の森の入り口へと向かっていった。


『よし。ハッサンが倒した魔物で新作ポーションの性能を試そう』

『うん』『それがえーね』『ウォン!』と同意が返ってくる。


 少し歩くと、ハッサン達が暴れた跡があった。下半身が消し飛んだゴブリンがいる。今にも死にそうだ。


『ニンニン。回復魔法やポーションで死んだ者が蘇ることはあるのか?』

『それは無理。アスター教の教皇でも死者を生き返らせることは出来ない。大怪我を治すのが精いっぱい』


 なるほど。死んでしまう前にポーションを試そう。


『大怪我を治すって、どの程度まで治るんだ?』

『切り離された腕がくっついたりはするけど、なくなった腕が生えたりはしない』


 欠損は治せないと。


『アミラフ。そのゴブリンにポーションを飲ませてみてくれ』

『あいよー』


 アミラフは血を吐いて息絶えているゴブリンの口に、黄金色のポーションを垂らした。緑の体がまばゆい光に包まれる──。


『うそでしょ……!!』

『ウォンウォンウォン……!!』

『ええぇ……気持ち悪~』


 ニンニンが叫んだ。グラスが吠えた。アミラフが嫌悪した。


 死の淵からギリギリのタイミングで生還したゴブリンは、不思議そうに自分の体を眺めている。そう、下半身が生えたのだ。


『アスター教の回復魔法やポーションでも、欠損は治せないんだよな?』

『無理よ』


 ニンニンに念押し。


「おい、ゴブリン。立ってみろ」

「ギャ!」


 ジェスチャーを交えて言うと、ゴブリンは理解したようで恐る恐る立ち上がる。


『ゴブリンが……』

『立った……』

『ウォン……』


 何度か地面を踏みしめると、ゴブリンはぴょんぴょんと飛び跳ねはじめた。嬉しいのだろう。


「行っていいぞ」

「ギャ!」


 何度か頭を下げながら、ゴブリンは魔の森の奥に向かって走っていった。途端、辺りが静かになった。皆で顔を見合わせる。


『ツボタ。このポーションどうする? こんなの売り出したら絶対にアスター教に潰されるよ?』


 ニンニンが真剣な表情で言った。グラスとアミラフも頷いている。


『ちょっとやり方を考える……』


 俺は新たな商品の売り方に頭を悩ませていることになった。


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いよいよ、物語が大きく動き出します!

「よし! やっちゃえ!!」って読者の方は、ブクマと星をよろしくお願いします!!!! モチベーションになります!!!!

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