第3話 ニンニンの家で……
『なんで馬鹿にされっ放しだったのよ……!?』
ギルドから出た途端、ニンニンが怒り始めた。素直な性格だな。
『侮られていた方が行動しやすいだろ? 警戒されるよりも遥かにいい』
『あれだけ言われて、悔しくないの?』
『あそこで喧嘩を始めても、なんの得にもならない』
『んんん……』
ニンニンは納得いかないらしい。
『そんなことより、ニンニンの家に案内してくれ。ポーションを作るのには道具が必要だろ? それを回収したい』
『えっ……⁉ アスター教をやっつけるだけじゃなく、【安価なポーションを世界に広げる】って私の夢を、ツボタは引き継いでくれるの……⁉』
『まぁ、そんなところだ。ただし、俺のやり方でな』
『ありがとう……‼』
ニンニンは後ろから俺の身体を抱きしめようとする。もちろん、霊体なのでするりとすり抜けた。
『気持ちだけ受け取っておく。で、どっちにいけばいい?』
『……次を左に曲がって真っ直ぐよ。ちょっと遠いけど……』
申し訳なさそうにする。
『俺は足で稼ぐタイプの霊能者だから、気にするな』
『レイノウシャって何?』
『普通の人が見えないモノを相手にする人のことだ』
『それって、儲かるの?』
『めちゃくちゃ儲かる』
『儲かるのか~』と不思議そうにするニンニンに指示に従って、家を目指した。
#
『ちょっとこれ…!? どういうことよ……!!』
ニンニンの家に足を踏み入れた途端、脳内に悲鳴が響いた。
確かにひどい有様だ。
あらゆる引き出しの中身が床に散乱し、ソファもベッドもひっくり返され、おまけに天井の板まで外されていた。
『お前、部屋の掃除が出来ないタイプだったのか?』
『そんなわけないでしょ! 私を殺した後に教会の奴等が家探ししたのよ! きっと!!』
俺の頭をバンバン叩きながら、ニンニンは怒る。霊なのでもちろん痛くない。
『ポーションとそれを合成する魔法陣を狙っていたのか? あの箱の中にあった』
『間違いなくそうよ! 家のどこかに隠していると思ったんでしょうね! ざまぁみろだわ!』
腰に手をあててドヤる。殺された癖に……。
『この辺に散らばってるフリフリの服。高級品か?』
『そうよ! 私、レースのついた服が好きだったの! 王都で買った一点モノばかりなんだから!』
『ふむ。売ろう』
『えぇぇぇ……!』
ニンニンは叫び声が脳内で響く。
『もう死んだんだから、着られないだろ? 少しでもアスター教の奴等に仕返しする為の資金にさせてもらう』
『……しどい!』
口元に手をやって抗議しているが、無視だ。
『で、錬金術で使う機材はどこにある?』
『作業部屋よ。寝室の奥の扉』
言われた通りの扉を開けると、ずらりと器具が並ぶ棚が見えた。ビーカーやフラスコ、漏斗やすり鉢、まるで理科実験室だ。
『ここはあまり荒らされていないな』
『作業台や棚に引き出しもないしね」
落ち着いたニンニンは、懐かしそうに作業部屋を眺めている。
『とりあえず持って行けるものは全部持っていく』
『いいわ。そうして』
俺は寝室で見つけたリュックの口を広げ、器具と売れそうな服を突っ込んだ。
『あまり長居して誰かに見られるのもまずい。そろそろいこう』
『そうね……』
物憂げな表情のニンニンを連れて、俺は家を後にした。
#
ニンニンの服は意外なほど高値で売れた。一点ものの高級品というのは本当だったらしい。安宿になら十日程泊まれるぐらいの金が手元に残った。
そして今、俺はその安宿にいる。名前は野兎亭。コスパが良くて駆け出し冒険者に人気らしい。
ベッドと小さな机、椅子だけの部屋だが、清潔感があってなかなかいい。
一つだけある窓からは夜風が吹き込み、カーテンを揺らす。
俺は屋台で買った夕食──パンと串焼き──を頬張りながら、ニンニンと今後について相談していた。
『ポーションを作る工程をざっくり教えてくれないか?』
固い肉をやっと飲み下してから、質問した。ニンニンは張り切って話始めた。
『先ずは素材集め! 私は素材屋で購入してたけど、お金のないツボタは自分で採取することになると思う。次に精製。集めた素材からポーションに必要な成分だけを抜き出す。そして最後に合成。精製物を魔法陣の上に置いて、魔力を流してポーションの完成よ!』
うん……? これは不味いな。
『ポーション合成には魔力が必要なのか?』
『あっ……⁉ ツボタ、魔力0じゃん!』
俺をカスと呼んだハッサンの顔が脳裏に浮かんだ。ニヤニヤ笑ってやがる。
『何か手はないのか?』
『うーん、魔物からとれる魔石で代用する方法もあるけど、低級ポーションしかできないよ』
低級……。
『それはそれでありだな。むしろ最初はその方がいいかもしれない』
『えっ、低級がいいってことがあるの?』
『ある。品が良ければ喜ばれるってのは、思考の停止だ。低品質で喜ばれることこそ、至高』
ニンニンは難しい顔をして首を捻っている。
『まぁその内、魔力を持った人間を仲間に引き入れればいい。ちなみに、この世界には奴隷制度とかあるのか?』
『あるよ。お金さえだせば、誰でも奴隷は買えるよ』
『ならば、奴隷でもいい。ただ、当分先だな。しばらくは低級ポーションの作成を目標にして行動する。いいな?』
『うん!』
すっかり俺の背後霊に収まったニンニンは希望に目を輝かせている。当分、こいつが成仏することは無さそうだ。
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