第33話 錯覚説


「――…というわけでして…」

「…そうだったんですね…」


 刑事からの説明を聞き終えて、僕は、いろんなことが腑に落ちるような感覚がしていた。


「刑事さん。僕は、隣人の殺人行為に…全然気がつきません…でした…」

「はい。しかし斑目ケンゴは、殺人現場の声を聞かれたと思い込み、その思い込みにより、あなたを口封じに殺そうとしていたようです」

「みたいですね」


 つまり、一歩間違えたら、僕は殺されていた…ということなのか…



「ともかく、被害がなくて何よりです。それでは…私はこれで」


 そう言って刑事は去っていく。




 何はともあれ、これにて一件落着ってことなんだよな。



 そのとき、着信音が鳴る。刑事は携帯を取り出し、耳に当てた。


「…何? 頭部の一つが、石像と入れ替わってる? …どういうことだ…?」




 廊下の途中で何やら電話していたが、遠く離れてたこともあり、内容までは聞き取れなかった。

やがて刑事は階段を下り、姿は消えていった。




 ま、いいか。


 僕は部屋に戻った。


 ……ところで。ふと思った。


 結局、分からないことがある。


 ……あの類似した夢は一体何だったのかと……。7人の女性を殺害した……あの夢。


 どうにも不安だった。…何で不安に思うんだろうか。もう事件は、解決したはずなのに…。


 そのことについて一応、医者にもかかってみた。


「あなたは…つい最近まで記憶喪失だった…みたいですね?」

「は、はい…」

「それで、病院で目が覚めたとき、テレビのニュースを聞いたと」

「はい…」

「なら…それがトリガーになった可能性があります」


「…え…どういうことです??」


 医者が言うには、こう解釈できるとのことだった。



 あのとき僕は。



「ニュースをお伝えします。


 昨夜未明――にある山林にて、頭部が無い遺体が発見されました。被害者は先週から行方不明となっていた、――サキさん。23歳、女性。今年に入ってから、頭部が切断された死体遺棄事件はこれで8件目に達しており、警察は一連の事件を同一人物による犯行として捜査を………指名手配として、――ケンゴ容疑者、26歳を………」



 という、ニュースと思しき音声を聞いたのであるが。



 このとき……



 “サキ”


 “ケンゴ”


 といった、印象の深いキーワードが発端となり、夢を見てしまったらしい。あたかも自分が、その“ケンゴ”と同じと錯覚し…


 …死体遺棄事件の犯人であると錯覚してしまった。


 特に……


 あのときの僕は……


 ……記憶喪失で……


 自分が何者なのか分からない状態だった。


 ゆえにそんな状態でキーワードを聞いてしまったがために、容易に脳内に刷り込まれ……それを夢として見てしまったんだと。


 ま、要はただの錯覚から来る、ただの夢だったのである。僕とは何の関係もない。


「そうだと分かれば安心だな」


 …それにしてはリアルな夢だったな…。



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