第31話 口封じ
×月○日
「…新たな入居先でも殺してやるぞ…」
僕はその場所に、8人目を呼び出した……
中手川サキさん、23歳を……
…女性会社員。
職場でのクレーム対応に疲れ果て、しかも、直接的な担当者でもなかったのに部下だからという理由でその責任まで取らされ、うつ病になってしまったんだとか。
「それで…ついには自殺を…考えるように……なってしまって……」
「そうだったんですね」
ではいつものごとく、睡眠薬で……!と思った、そのときだった。
「アレ……何です……?」
声のトーンが微妙に変わったかのように、女性は声をしぼりあげるように出した。
…アレ…? アレとは…?
そう思い、女性の視線を追いかけると…そこには…
頭部の入った容器が……
あぁ…。ああー…。しまったなぁ。微妙に生首が見えてしまっている。
本来であれば、ふろしきがかかってるはずなんだが。
引っ越しのどさくさで、ふろしきが…完全に容器にかかってはいなかったのか。ホルマリン漬けの顔が、目が、こちらを向いている。それがよく分かる。
どうする? あれは模型です、とごまかそうとも思ったが。
開き直ることにした。
「生首ですよ」
僕は7つ全ての容器にかかっていたふろしきを、完全にはがし、女性の視界に映したのであった。
「……は……?」
何が起こったのか分からないと言った具合に、女性は呆然とした表情を浮かべている。
「あなたも、この中の生首になるんですよ」
「……ま……待ってください……っ」
声は震えだし…目は見開き……次の瞬間、女性は立ち上がり…玄関のほうへと体を向けるが――
「逃げられないんですよ、もう」
僕はその廊下に立ちふさがった。…逃げようとしてそちらに向かうのは…すでにG子さんっていう前例があったために、わりと僕はすんなり対応できて。
「や……や…やめて…っ!!!」
もはや逃げ場が無くなったサキさんは、おそらく苦渋の選択だったのだろう、ベランダへと駆け出す。
そうしてベランダの戸を開けようと立ち止まったところで、僕は追いつき、手を伸ばし……首を思いっきり掴み…――
「あ゛あ……っ!! あ゛……ぁ…っ!!」
絞め上げた。G子さんのときと同じように、絞め上げた。思いっきり。素手で…絞め上げた。
やがて彼女は動かなくなった。崩れるように…倒れていった。息は…なかった。……絶命していた……
「はっはっは…」
このまま何人でも、女を殺害していけるんじゃないか? と僕は高揚感に満ちあふれた。
そのとき…
ふと冷静になった。
「…そういえば…」
ここのアパートには…引っ越してきたばかりで。隣に…誰が住んでるのかとか、確認してなかった…。
今の騒動……隣に聞こえてないよな……?
そう思いながら映った視界に、僕は驚く。
「この女…ベランダの戸をわずかに開けやがったのか…」
……
…まさか。
…外に…聞こえてないよな…?
僕は念のため…ベランダの手すりから少し身を乗り出し…隣をわずかでも確認しようと思った…そのときだった。
「……」
…ぼーっとしたような顔で…洗濯物をベランダに干していた…男を目撃した…
…504号室の…住民か…
それが分かり、静かに僕は…自室に戻って、ベランダの戸を…ゆっくりと閉めた…。
「実際に……どうだったんだ……?」
その判別が…難しかった。果たして…聞かれたのか。聞かれてないのか。
この自室から、ベランダを経由して…隣の504号室に…声や音がどれくらい聞こえるのかは…正直なところ…分からなかった…
仮に聞こえたとして、どこまで聞こえたのかも分からない。
……もし、事件性のある音だって判断されたら…どうなる…?
…通報される…?
……え……通報されるのか…?
「あの男……どこまで聞きやがった……? どうするつもりだ……通報するのか……?」
そんな自問自答を何度も心中で繰り返し、もはや分からなくなった僕は、男に直接確かめようと…夜、504号室の呼び鈴を鳴らした。
直後、僕は隣の自室に逃げ帰った。
今の行動は……あまりに迂闊すぎた……
…「今日の昼頃、何か音を聞きましたか…?」と尋ねたところで、男が本当のことを答えるとは限らない。
万が一、殺人現場のやり取りを聞かれていて、通報するつもりだった場合…警察により情報提供しやすくなるだろう……僕の顔を見たことによって……
そういう意味でも、呼び鈴を鳴らして尋ねに行くのはまずい……
「じゃあ…どうする?」
結局、疑わしきは罰するの精神で…あの男を…
口封じに殺害することを決意した…
……その翌日……
ドアがバタンと閉まる音とともに、外廊下を歩く足音が聞こえてくる。
「……あの男……外出したみたいだな……?」
もし、男が
そうして…後をつけてたんだが…そばに女がいることに気づいた。
…あの女…今日はずっとそばにいるつもりか…? だとしたら今日殺害するのは都合が悪い…日を改めるか?
だが、できれば早いうちに殺しておきたいんだが…
そんなことを思っていると、男が急に立ち止まる。
…?
まさか…尾行に勘づいたのか…?
念のため死角に入ると、直後、男がこちらを振り向いた。
…死角に入って正解だった。…この位置なら…僕のことは見えないだろ??
そのときだった。
「…何だあの女…?」
僕は 予想外とも言える光景を目撃していた。
そばにいた女が…
ナイフを取り出していた。
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