第28話 殺意があったとしても
「早紀…本当にいいのか…? 泊まってもらっても…」
「うん…」
この日、早紀に家に泊まってもらうことを…僕は承諾することになった。
やがて、夜になる。
「早紀……薄着なんだな」
「だって、寝るときはいつもこんな感じだし…」
まぁ、寝るときというのは、身体への負担がないほうがいいのかも…しれない? 寝間着というのも…またゆったりしたものが多いことを…思い出す…
「ところで…謙吾くん。ストーカーのことで、他に気づいたことって…ある?」
「他に…」
……
早紀を不安にさせたくなくて、殺気を感じたとまでは言ってなかったけど。
実際に今、家に来てもらってるんだから、もう今更だよな…。僕は殺気のことも含めて言うことにした…
「そうなんだ…。つまり、殺されそうに思ったってこと?」
「あ、あぁ……そうなる」
そんな状況なのに、早紀にそばにいてもらうなんて、僕はなんてやつだと思った…
だから僕は…せめてストーカーを部屋に入れることだけはないよう細心の注意を払って戸締まりを行った。
そうしてベッドへと戻ると、早紀がナイフを取り出しているところを目撃する。
「な、何をして…?」
「何って、何かが起こってもいつでも対処できるようにしたいから」
そう言って早紀は、ナイフを自分の枕の下敷きにしていた。おそらく、寝てるときにいつでも取り出せるようにするためなのだろう。
自分や僕を守るために…というか、相手を返り討ちにするつもりすらあるのかもしれない。
「何かがって言っても、さすがに部屋に侵入するのは考えにくいが…。戸締まりもしてるしな」
「何言ってるの…。あたしに侵入されたくせに」
「いや、それは…」
そのときのことを思い出す。
「けど、その方法で侵入は考えられない。だって、合鍵は今早紀が持ってるし、二つ目は作ってないからな」
「でも…万が一があるかもしれないから」
「まぁ…そうだな」
万が一を想定してたほうがいいというのは、まぁそうだろうとは思うけれど。
「ね。もう深夜だから、そろそろ寝よ?」
「あぁ」
早紀が、僕のベッドに入っていく。
「……」
「……? 謙吾くん…?」
僕のほうを見つめて、横たわっている早紀を見て、思った。
……ストーカーのことで頭がいっぱいだったが…
そういえば今から、早紀と一緒にベッドで……
「な、なぁ。僕だけ床に寝てもいいんだが…」
「…それだと守れない。…なるべくなら近くにいたい」
「早紀…」
……僕は明かりを消し……ベッドに入った。
…僕は思った。いくら早紀のことがタイプの女性じゃなかったとしても、だとしてもベッドで一緒に寝てる薄着の女性を目の前にして、何も感じないはずはなかった。
けれど、それ以上に僕は、何かがあったときに早紀のことを守らねば…!という思いでいっぱいだった。
「謙吾くん…。今、何考えてる…?」
暗がりでよく見えなかったが、なんとなく緊張した表情をしていた気がした。
「早紀に何かがあったら嫌だ…!と思って…」
「そっか…。ごめん、逆に心配かけちゃってる?」
「そんなことない…! むしろ一緒にいて…心強く思ってる」
「…そっか。なら、よかった」
記憶喪失になって不安を抱いてたときから、早紀の存在は、なんだかんだ僕の心の支えだった。たとえそこに殺意があったとしても、僕は…接することで不安が薄らいでいたのは事実だったから。
そのときだった。
ベランダの戸が、ガタッと鳴った。
僕はとっさに、かばうように早紀のことを抱きしめていた。
な、何だ!? …誰か…ベランダにいるのか…??
それから…何事もなかったかのようにシンと静まり返る。
先ほどの音が、まるでウソのように静まり返ってた。
「今の…何だったんだろうね」
吐息とともに早紀の声が感じられる。
「…確認してくる」
「え…謙吾くん…?!」
「大丈夫。カーテンを開けるだけだから」
もしこれが。僕一人しかいない状況だったら。
カーテンを開けるなんて行動は、絶対にできなかっただろう。
でも、今は早紀が一緒に。そのことが僕を奮い立たせる。
そうして…
僕はカーテンを…
静かに開けた。
……
…ベランダには誰もいなかった。
…本当に? 一応、ちゃんと確認したほうがいいんじゃないか…?
僕は戸を開けて、外に出てみた。
「ちょ…! 何やってるの…?!」
心配そうに声をかける早紀だったけれど、僕は…
…正直、今でも自分はもうどうなってもいいと思ってるところがあるが、早紀に何かあったら嫌だったから…
だから、確認したいと思った。
……それで。出て見てみたんだが、結局、外には誰もいなかったのだった。
「さっきのは…風の音だったんだろうな」
再び戸締まりをし、ベッドに入る。
「…もう。カーテン開けるだけならともかく、ベランダに出ちゃうなんて」
呆れた感じで早紀に言われる。そして…しばらく見つめ合った後で。
「…寝れそう?」
「…あぁ」
「大丈夫。眠ってもいいよ?」
「早紀…」
僕は心地よさを覚えながら…いつのまにか眠りに落ちていった。
そうして翌朝を迎えた。
ベッドには早紀が横たわっていて。
「何もなかったね」
「あぁ」
「あたしとも…何もなかったね」
早紀は小さく笑うけど、なんとなく寂しそうな表情をした気がしたのだった。
「僕は、女性に手を出す資格はないと思ってて…」
「謙吾くん…」
そう言って早紀はキッチンのほうへと行って。
「朝食、作ってあげる。ホットミルクとかどう?」
「早紀…ありがとう…」
「ううん。別にこれくらい」
僕に対する早紀の気づかいを…感じた。
そのときだった。
ふいに 僕は
廊下のほうへと 目が向いていた
「…謙吾くん?」
「あ、その……なんか、玄関の外に、誰かがいる気配が…して…」
「え…玄関の…外に…?」
早紀は玄関のドアを見つめ、それから…心配そうな表情で言った。
「あたしが出よっか?」
「そ、それはダメだ…!! 僕が出る」
早紀を危険にさらしたくないと思った。
そして僕は、緊張していたせいか、ドアの覗き穴から見ることも忘れ、そのまま玄関のドアを開いてしまった。
そこには。
「おはようございます」
警察官と刑事と思しき人物が数人いた。
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