第12話 あ…


「遊びにきたよ…♪」


 早紀が家にやって来る。


 …僕はもう覚悟を決めていた。


 今日のうちに…絶対に彼女なのかどうか確かめてやる…と…


 キスの素振りで…早紀の反応を確かめられるような、そんな雰囲気の良い時間が訪れることを…祈ってる。


「そうそう、謙吾くん。今日のゲームだけど…声に出すの、意識してみよっか」

「声に出すのを?」

「ん。ゲーム実況の練習というか?」

「あぁ。確かに」


 ゲームプレイの腕のみならず、話すという行為もできるに越したことはなさそうではある。


「…よく考えたらさ。ゲーム実況って凄いよな。話しながらゲームするって」

「そうだよね。コメント拾いながらだと、尚更大変っていうか」

「だな…」


 配信者というのは、同時に何かをすることが多そうだと認識する。


 そう考えると、これから一緒にゲームしてくれる早紀には感謝したい気持ちだった。誰かいることで自然と会話が起きて、ゲームしながらでも話しやすくなる感じがする。練習に…つながっていく。


 もちろん、二人の時間を楽しんでもいきたいと思った。早紀と二人の…。


 こうして…ゲームはスタートしていった。


 それは…

二人で協力しながら次のステージへと進む…テレビゲームみたいだった。




 その画面上に表示されてる床に……ボタンがある。


「乗ってみよっと♪」


 早紀が乗ると、ドアが開いた。が、早紀がボタンから降りるとドアは閉まってしまった。


「あ、これ、一度押したらOKなんじゃなくて、ずっと押してなきゃいけないんだ??」

「そうみたいだな」

「じゃあ、私が乗って押さえとくから。なら謙吾くんは進めるよね」


「いや、そうなったら早紀だけ部屋に取り残される…」

「あたしは大丈夫だから」

「そう言われてもな…」


 何か、早紀の代わりにボタンを押さえられるものはないのだろうか。例えば箱とかと思って周囲を探してみるも、そんなものは存在せず。



 ……これが現実世界だったら女性を一人置いて行くのは抵抗があるが、まぁ、これはゲームだからな…。


「じゃ、置いて行くとする」

「本当に置いていくんかい」


 早紀の笑いながらのツッコミを受けながら僕は次の場所へと進むと…何やら壁に意味深なスイッチがあったので、ポチッと押してみた。



 すると音がし、先ほどいた部屋の壁に穴が開いていた。そこから早紀がこちらへとやってくる。


「ありがと、謙吾くん!」

「あ、あぁ。よく分からずにスイッチ押してよかった」


 つまり…このゲームは一人でも先に進めたら、取り残されたもう一人も次に進めるシステムになってるのだなと理解する。とりあえず、二人で進むことができて僕は安心した。


 ……ところで話してて思ったんだが。僕なんかより早紀のほうが、実況者に向いてそうな気もするな。案外Vtuberをやってみたら反応も可愛かったりでとても人気が出るかもしれないと、なんとなくそう思った。



 さて。そうして次のステージに来たが…。


 この場所には…先にドアらしきものがなく。代わりに、ガラスが貼ってあって。そのガラスの向こうに、何やら場所があるみたいだ。


「もしかして、このガラスを割って進むのか?」

「そうかもね? 何か割れそうなものないかな」


 そうして周囲を探してみると、等身大サイズの人形が落ちていた。


「あ、これ、一人だと持てないのか?」

「二人でなら持てるかも?」


 僕は頭部に手を回し、早紀は足をつかむ。すると人形は持ち上がり、運ぶことができた。そのままガラスの前まで移動し、人形をそこへ軽く当てる。直後、パリーンという音とともにガラスが粉々になる。


「人形ってこんな使い方するんだ?」

「いや、違うと思うけど」


 早紀につられて僕も笑いながら、次のステージへと進む。



 こうして…二人で協力しながらどんどん次へと進んでいく。早紀と一緒に様々なギミックで攻略していく…そのことに僕は純粋に楽しいと感じていた。


「これはこれで…変わったデートみたい…♪」


 早紀も…なんだか楽しそうで。良い雰囲気に思えた。


 ……恋人であるかどうか確認するタイミングが訪れたんじゃないかと…僕は考えた。


 もちろん、良い雰囲気だからといってもキスしていいとは限らない。もしキスしそうな素振りを僕が見せたことで、早紀が不機嫌な表情をとることがあれば、そのときは甘んじて非難を受け入れようと思う。


 僕は… コントローラーを持っていた早紀の手に、自身の手を置いた。


「あ…謙吾くん…」


 そうして少し顔を近づけた、そのときだった。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る