第11話 二つの封筒


 玄関に何かが落ちてるのが映った。

僕は近づく。


 そこには二つの封筒……


 問題は、差し出し人が一切書かれてないことだった。



 ……嫌な予感がしたが。とりあえず中身を確かめることにした。


 二つの封筒……茶封筒と白封筒があったが、まずは茶封筒から開けてみることに。



『口外したら殺ス』



 …は?


 僕は目が点になる。


 それは…おそらく新聞に載ってたと思われる文字が切り抜かれ、一つずつ貼られた文章で。


 …脅迫文というやつだろうか。



 ……それにしても意味がよく分からなかった。


 『口外したら殺ス』とあるが、口外したら殺すってことなんだ??


 そう思いながら……封筒の中にまだ入っていたものを取り出す。


「ティッシュ?」


 なんだか厚みがある。不審に思いながらも僕はティッシュを開いてみた。


 虫の死骸があった。バラバラにされてる。



 …どういうことだ?

もしを口外したら僕はこの虫のようにバラバラにされて殺されるってことか??


 薄気味悪いものを感じながら、今度は白封筒のほうを開いてみた。


「ひっ」


 思わず僕は声を上げる。


 というのも、そこには……僕の部屋の写真が、何枚もあり…


 ……


 何者かがいつのまにか僕の部屋で写真撮影してたという事実に震撼した。


 …だが。何か違和感を覚えた。


「……?」


 その室内写真は、僕が普段見てる風景とはなんだか違う気がした。何がどう違うのかは、自分でもよく分からなかったが…



 …もう一度、改めてその写真を見てみる。


 暗い部屋をフラッシュで撮っている。おそらく夜……僕が寝てる間に部屋に侵入して撮影したのだろう。


「…いや、どうやって…?」


 単純にそんな疑問が浮かぶ。…だって僕は…寝る前にはいつも、玄関のドアにカギをかけてる…。なのに、どうやって侵入できたんだ??



『おはよ。起きて?』



 ふいに、僕の体にまたがった早紀の姿が浮かんだ。


 ……そういえば。あの朝…早紀はどうやって部屋に入ってきた??


 目が覚めたら、ベッドの上で…僕の体にまたがっていた。


 それだけじゃない。頭部の模型に赤い液体が付着してたときも、気づいたら部屋にいた。ノックやピンポンを鳴らして、僕がドアを開けたわけじゃないのに、心配する早紀の姿が…


 もしかしたら合鍵あいかぎのようなものを持ってるのかもしれないと気づく。



 なぜ今までこんな事実に気づかなかったのか。記憶喪失になったのもあって注意力が散漫になってたのかもしれない。



 …正直、今までも早紀のことを、本当に彼女なのかとか、怪しいと思ったことは…あった。けど一方で…そう思いたくない自分もいた。


「……早紀……」


 これ以上、白なのか黒なのか分からない灰色の日々を続けたくはなかった。いい加減もう、白黒はっきりさせたかった…。早紀を疑ってるからというより、むしろ早紀のことを信じたいからこそ、本当の彼女だと証明したかった。


 …どうやったら証明できる?

…そうだ、本当に恋人だったのなら、プリクラの一つや二つ撮っててもおかしくないのでは?と考え、スマホのフォルダをあらかた探してみるも、そんなものは見つからなかった。


 相変わらず、そこにあるのは…黒い長髪の大和撫子のような女性の写真だけである。



 …本当に誰なんだろうなこの女性は。


 とにかく、何か証明できる方法はないのか。恋人であるか確認する方法…そもそも恋人とは…


 そこで気づく。


「そういえば早紀とは…まだキスしてない」



 少なくとも、記憶を失ってからは、したことは一度もない。本当に恋人だったら…できる…よな。


 もちろん、恋人だからといって、TPOもわきまえずにいきなりキスしようとすれば相手から拒否されることは当然あるだろう。それくらいは僕にだって分かってる。


 …ただ、その拒否の仕方は。判定材料にできるのではと、ふと思った。


 例えば恋人に対して「今はちょっと…」のように拒否するのと、見ず知らずの他人にされそうになって拒否するのとでは、温度差は違ってくる。


「……」


 正直、こういう方法を使うのはどうかと思ったが…。かといって、他に分かりやすいやり方も浮かばないのもまた事実だった。



 もちろん、本当に早紀にいきなりキスしたりはしない。早紀の意思は尊重したい。ただ、思わせぶりな態度を僕が取るだけである。そうして早紀が…どんな反応をするのか…。


 そこまで考えたところで電話が鳴る。相手は、まさにその人物で。


「もしもし…謙吾くん?」

「あ、早紀か。どした?」

「えっとね…謙吾くんって、ゲーム実況ってする予定ある?」

「…ゲーム実況か」


 配信者というのは、ゲーム実況をする人は多い気はする。Vtuberを今やってる僕にとっても有力な選択肢の一つではあるのだろう。


「まぁ、するかもしれないな」

「そう? だったら…練習ついでに一緒にゲームしてみない?」

「早紀と?」

「うん。家デートも兼ねて…♪ どうかな?」



「いいよ」



 断る理由はなかったし、というか、思いがけず絶好の機会が訪れた気がする。早紀に…キスの素振りができそうだよな…。


 こうして…翌日。


「遊びにきたよ…♪」


 早紀が家にやって来る。


 …僕はもう覚悟を決めていた。


 今日のうちに…絶対に彼女なのかどうか確かめてやる…と…



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