第5話 写真の中にいる彼女
スマホの電話帳や写真に…何か手がかりがあるかもしれない…よな…。そう思いながら…タップして操作を……
すると、大量の女性の写真が見つかった。
あまりの数の多さに僕は面食らった。尋常ではない数…。
……これがもし。複数の女性のブロマイドだったら、僕もそこまで驚かなかった。世の中には、そういうのを収集する男もいるだろうと思う。
が、これは。
一人の女性なのである。
特定の一人の女性の写真が、大量に内蔵されていたのである……
異様に思ったが、次の瞬間には僕は幸せな気持ちに包まれていた。
なぜかというと……まさしく自分の理想の女性像である大和撫子そのものだったから。
長い黒髪に、清楚な様相……あぁ、見惚れるとはまさにこのことか。…服装こそ洋服であったが、着物を着れば、きっと似合うのだろうという予感がしていた。…素晴らしい。あぁ、素晴らしい…
「………?」
一瞬、目つきが似てることもあって早紀かと思った。
が、なんとなく身長が違う気がした。早紀は155cmくらいだが、この写真の女性はなんとなく160cmくらいある気がする。いや、写真からは正確な身長は測れないのは分かってるから、あくまでなんとなくだが…。
というか、あることに気づいた。
どの写真も、視線がこちらを向いていないのである。
…?
マンションから出てくる写真、繁華街を歩いてる写真、デパートに入っていく写真、ベンチに座ってる写真、店の中で食事をしてる写真、駅構内を歩いてる写真、スーパーで買い物をしてる写真、マンションに入っていく写真などなど……
そのどれもが、視線がこちらを向いていない。
……まさか……
これ、全部盗撮写真なのか…?
と思っていたら、写真の中にいる彼女が、こちらを向いた。
「え…?」
一瞬、心霊現象かと思ったが、次の瞬間にはもとに戻っていた。やはり女性の視線は、僕と合っていない。
……改めてその女性を見つめる。本当に…見れば見るほど…理想の女性像すぎて……
『あぁ!! キミの体の一部に生まれたらよかった!!』
そんな声が脳内で聞こえた。体の一部にって、何だよ。さすがに狂人の発想すぎて笑ってしまった。
…それにしても。これだけではまだ、僕の過去の全容を知ることはできない。
そこで今度は…電話帳を見てみることに。
すると――
上司という人物を見つけた。
「上司って何だ…?」
まさか、今僕はどこかの会社に…勤めていたりするのか…?? もしそうなら、のんびり家でVtuber配信をしていてよいのだろうか。
今現在の事実を確認するためにも僕は、上司なる人物に電話をかけた。すると十数秒後にその人物は、なんというかメンドそうに出た。
「…おい。今更何の用だ?」
「え、えっと…僕はそちらの職場で、働いていたりしますか…?」
「…はぁ!? 半年前にやめたくせに何言ってんだ??」
「え……」
その上司の話によると。僕は過去に工業系の会社でデザイン関係の仕事をしてたらしい。しかし、無断欠勤を何週間も続けた挙げ句に、退職したらしい。半年前のことである。
「あの…なぜ僕はそんなことをしたんでしょうか?」
「そんなの知らねぇよ!! 自分に聞けや!!」
荒々しく言われ、電話を切られる。
自分に聞けやというのは、ごもっともな理屈で。しかし僕には記憶がない。自分に聞くことはできないのである。…半年前の自分に、一体何があったんだろうか…?
そんな疑問を覚えつつも、気づけば僕はスマホを操作していた。
まるで中毒患者であるかのように、無意識のうちにスマホをタップし、先ほどの女性の写真を…画面上に映し出す。いつまでもいつまでも……眺めていたくなる……
…おっと。延々と見つめてる場合ではない。なぜなら、もうすぐ時計は19時を指し示すから。配信を、しないと…。彼女である早紀と約束したんだ…。
…まるで義務感とでも言うべきものを抱きながら、僕は配信した。Vtuber配信を。
…相変わらずというか、パソコン上に映ったスーツに赤ネクタイの男が、リアルの僕の表情と連動している。
「ははっ」
笑えば笑うし、楽しそうにすればそれ相応の表情になるのだ。まさしく、Vtuberってやつで。
……
…
『いい加減 思い出せよ。お前の本当の彼女を』
「え…?」
スーツに赤ネクタイの男が 暗闇の中にたたずんでいた。僕のVtuberとしての姿だった。
…正直、驚いた。Vtuberというのはリアルの自分と連動するはずだが、僕はこんなに不敵な笑みを浮かべられたか…?
…気づくとベッドの上だった。…夢か。
そういえば昨日は、配信をした後に寝たことを思い出す。
…夢だ。それが分かっていても僕には、嫌な汗が流れていた。
…起きて、思わずつぶやいた。
「本当の彼女って…何だよ…」
本当も何も、彼女は…早紀なんだろう…?
早紀…なんだろう…?
……
ついに僕は、自信が持てなくなった。
早紀が彼女だという自信が…持てなくなった。
その理由は明白だ。
僕は、知らないことが多すぎた……。
半年前に勤めてた会社のことすら知らなかったんだからな…。
そもそも僕は、白谷早紀が何者であるのかすら、よく知らない。
だから、自分についてはもちろんだが、早紀のことも……もっと知っておきたいと思った。
僕は早紀に……電話をかける。
「もしもし…?」
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