第4話 視線の正体


 殺気ある視線は続いてた。


 体に穴が開きそうな強烈な視線。


 なんだ?


 どこから…?



 たまらず後ろを振り返ったが、誰もいない。


 …もしかして。僕が立ち止まった段階で、どこかの死角に入ったのか? だから…誰もいないように見える…ということなのだろうか。



「手…つなごっか?」


 そのときだった。早紀が、そんなことを言ってくれた。



 ひょっとしたら…僕の不安そうな表情が伝わって、心配してくれたのかもしれない…


 優しい笑みで、手を差し出してくれる。それは…まさしく恋人と言うべき表情。不安が少しでも解消される思いがした。


 こうして僕たちは、手をつないで歩いていくことに。早紀の手は小さく温かかった。


 …再び僕以外の足音が聞こえる。早紀のものではない気がした。



 それから十数分後。休憩がてら、近くの公園に行くことに。僕たちはベンチに腰を下ろす。


 ……足音はなくなったが。今も誰かがストーカーして覗いてるのだろうか? 例えばそこの茂みとかから…。


「…謙吾くん。さっきからどうしたの?」


 心配そうに見つめられる。やはり、さっきから早紀は僕のことを想ってくれていたのだな。……僕はその好意を受け入れて、正直に話すことにした。


「誰かが…後をつけてる気がして…」

「誰かが…? 謙吾くんの勘違いとかじゃなくて?」

「そりゃ、僕もそう思いたいけどね」

「…謙吾くん…」


 気のせい、と言うには、どうにも…。明らかに僕の動きと連動しすぎてる。歩みを止めれば、音は消えるし。歩き出せば、音が聞こえるしで。少なくとも不審な状況であるのは間違いない。



 仮に誰かに後をつけられてるとして。僕はその理由を…考える。



 さすがにまだ僕は人気Vtuberというわけでもないのに、もうストーカーがつくとも思えない。それは、さすがに確率が低すぎるのでは…?


 それよりも、過去の自分が何かしてしまって、それが原因で誰かに後をつけられてると考えた方が、まだ可能性が高い気がして。


「…なあ早紀。教えてくれないか」

「教える?」

「記憶を失う前の僕は、何かをしてしまったんじゃないか?」

「…だから、誰かにストーカーされてる…ってこと?」

「あぁ…。何か心当たりはないか?」


 坂島謙吾の彼女である早紀なら…過去の僕について、いろいろ知っててもおかしくはない。

しかし…



「…いや、ないけど」



 そう言われてしまう。

…本当だろうか? しかし、ここで疑っても仕方ない。早紀のことは信じたいとは思うから…。


 ……そこで僕は、発想を転換してみることにした。


「じゃあ、早紀は自分がストーカーされてるって心当たりはある?」

「え…」


 …つまり、さっきから僕が感じてるストーカーは…

僕ではなく、早紀のほうを狙ってるのではないか?という考えだった。


 実際、客観的に見て早紀は……美人で可愛い女性で。スタイルもいい。ストーカーが出現する可能性は排除できない。が――


「そういうのはないと思うけど」

「本当に? 過去にそういう経験もない?」

「いや、別に…。本当にないよ…?」

「…そっか」


 そのような覚えはないとのことだった。


 こう表現すると失礼かもしれないが、正直意外だった。早紀のような見た目の女性は、過去に様々な異性と付き合っててもおかしくないと思ってたし、それに付随する問題があったとしても、むしろ僕は驚かずに話を聞いてたと思う。


 もしかしたら早紀は、恋愛にあまり深入りしないタイプなのか? まさか、奥手? いや、そんなわけないよな…。僕にまたがったりしてたし…。



 …まぁ、早紀がどういう女性かはともかくとして、これは困った。ストーカーが僕と早紀の、どっちを狙ってるのかが分からないな…。


「あのさ。行きたいとこあるんだけど、いい?」

「謙吾くんの? うん、いいよ♪」


 そうして僕たちは歩き出す。

やはりというか、再び足音がした…。


 ……やがて、ショッピングモールにたどり着く。


「何か、買いたいものとかあったの?」

「別にそういうわけではないけど…」

「じゃあ…ウィンドウショッピングとかしてみる?」

「そう、だな」


 そういえば、デート中だったことを思い出す。恋人とのウィンドウショッピングというのも、また楽しいのかもしれないな。



 が、僕がここに来た目的は、別のところにあった。


 つまり…ここなら人が多くて安心だ、と。ストーカーも変なことはできないよな?と。


 だからこそ…ストーカーがどっちを狙ってるのか、安全に確かめるのに…都合のいい場所で。


「…ごめん早紀。ちょっと用があるから、ここで待ってて」

「え…?」

「すぐ戻るから」

「う、うん…分かった」


 納得してない感じの早紀を、僕は置いていく。

そうして、一人で適当に…モール内を歩いた。



 ……すると……ストーカーは僕のほうについてきてるのが分かった。等間隔を保ったような足音と、相変わらず強烈な視線を感じる。


 とはいえ、いろんな客の足音や喧騒かもしれないと思い、僕は……確かめるためにある行動をとった。


 それは いきなり振り返ることだった。


 すると、人影が壁に隠れる瞬間を目撃した。



 確信した。確実にストーカーはいたし、そして僕のほうを狙っていたのだと…。


 それが分かってから、早紀のいるベンチへと戻る。


 早紀はおとなしく座っていたのだった。なんかスマホをいじってた。


「あ、謙吾くん…!」


 僕に気づいた早紀が、こちらへとやってくる。


「いきなり彼女置いてくなんてひどいよ」

「ご、ごめん」


 僕は謝った。確かに、適当な理由つけてデート中の彼女を放置したのは失礼な行為ではあるよな…。


「いいよ。その代わり、今から楽しも?」

「あぁ」


 そうして僕たちはウィンドウショッピングしたり、飲食店に入って食事をとったりしたのだった。



 その後。家に帰って、今日の早紀との思い出を振り返りながら……


 改めて僕は、自分のことを知りたいと思った。


 何者かがストーカーしてるのが事実と分かった今、その原因を早く知ったほうがいいとは思うし……


 そのためには、過去の自分が……記憶を失う前の自分が何をしていたのか、どういう人間だったのかを…知る必要があると思ったから。


「…どうしようか」


 過去のいろんなことを、今から電話で早紀に聞いてみることも考えたが。


 まずは、自力で過去を調べようと思い、とりあえずスマホの中を見てみることにしたのだった。電話帳や写真に…何か手がかりがあるかもしれない…よな…。そう思いながら…タップして操作を……



 すると、大量の女性の写真が見つかった。



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