第14話
「月がきれいな季節だって言うけど。月が見えないね」
窓の外を見て、月を探す。
きれいな月が見えるらしいけど、今日は見えない。だからそこが少し寂しい。
「今日は曇っているから、見えないかもしれない」
夕占さんはきっと色々な夜に月を見ることができるから、今日の夜に特段拘ってないんだ、多分。
「そういえば秋といえば月見団子だよね。この前べにはがあずきが巻かれた月見団子を食べてた」
「関西の月見団子は、あずきが巻いているパターンが多いらしいよ。なんか昔そう聞いたことがある」
いつくらい昔かは分からない。だけど確かここで手に入る月見団子といえば、餡子のお洋服にくるまったものだったはず。
だからべにはも、そんな月見団子を食べてたのだろう。
「そうだ今日はかぼちゃでお菓子を作ったんだ」
月を見るのを諦めたのか、夕占さんは冷蔵庫から離れていく。
このまま外を見ていても仕方ない。私も夕占さんについて、冷蔵庫から離れていく。
「かぼちゃのお菓子?」
「そう、かぼちゃとレーズンのお菓子」
夕占さんが持ってきたのは、かぼちゃで作ったスイートポテトみたいなお菓子だった。そのお菓子には、アクセントのようにレーズンが飾ってある。
「これは夕占さんが作ったの?」
「そう。今日はお休みだから」
お休みだから、お菓子も作ってみたらしい。
基本的にはお菓子とかいった、食事ではないものを夕占さんは作らないはず。そこを考えると、かなり珍しい。
そこでフォークで慎重に、かぼちゃのお菓子を食べてみる。
「甘くておいしい」
なめらかで、甘くて。かぼちゃのお菓子はかなり美味しかった。
「甘すぎるかもと思ったけど、それならよかった」
夕占さんがにっこりと笑う。
「甘すぎるってことはないと思う。とてもおいしい」
なんだろう、かぼちゃに砂糖を少し加えただけの、ナチュラルな甘さが、このお菓子からはする。
ジュースとかであるような、加工された甘さじゃない。本当にナチュラルな甘さだ。
「秋になったから。秋っぽいお菓子作ってみたんだ。とはいえまだ暑いけどね」
「そうだね。まだ暑いね」
9月下旬に、今日なった。
でも半袖と冷房から切り離すことができないほど、暑さがまだ終わっていない。そんな気がする。
「でも来週から涼しくなって、秋っぽくなるんだって」
「じゃあ次目覚めたら、秋になっているのかな?」
ずっとずっと夏の世界を生きていた私。でも次に目覚めたら、世界はすっかり秋の涼しさで包まれているのかな?
そういえば窓の外から、虫の音が聞こえる。なんだろう、蝉じゃない、高くてきれいな虫の声。
きっと暑さがあるだけで、今は秋のはず。そう秋はもう、始まっているんだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。