第13話
「あっ『空の境界』だ」
机の上に置かれた、文庫本。その本が『空の境界』の中巻だった。
なんとなく状況が似ているところがあるからか、私はこの小説が好きだった。いや別に以前はそうじゃなかったから、この物語が純粋に好きなのかもしれない。
それにしてもなぜこの本が机の上に置いてあったのだろうか? たまに文庫本が机の上に乗ってあることがあるけど、それと一緒かな? うーん私には理由が分からないや。
とまあ起きたので、部屋から出る。うんこれから夕ご飯の時間だ、そのはず。
「おはよう、もみじ」
夕占さんが、キッチンで料理をしている。
「夕占さん、おはよう」
私はそう挨拶をして、テレビに目を向ける。
テレビではちょうどニュースをやっていた。いやいつも起きたときに見ているのはニュースだから、変わらないことのない日常かもしれない。
「総理大臣変わるかもしれないんだ」
テレビでは、自民党の総裁選についてニュースをしていた。
あんまりなじみのない人達が、色々話しているらしい。自民党員じゃない私にとって関係ないので、気にしないでおく。
「同性婚を成立させてくれるような人が総理大臣になって欲しいけど、それは難しいかもね」
夕占さんがテレビに目を向けて、つぶやく。
「そうかもしれない」
政治家にとって、いやおじさんにとってか。自分の理想とする家族以外はいらないからな。すなわちあーいう政治家って家族に対して妙なこだわりを持っているんだろうな。
そこで家族がなくなりそうなことになっても、家族とはこれ以外許せないんだ、そんなことを言ってそうなおじさんなのだ。そういうおじさんが同性婚の成立を認めるのか、それは無理だろうな。
「奈良県でも行政に働きかけてくれた人がいたから、同性パートナーシップ法案ができたし。国でも同じような感じになれば良いけど、難しいね」
料理が終わったらしい、夕占さんはフライパンから焼いた肉をお皿に移動しつつ話している。
「そうだね。訴訟とかも起きているらしいけど、やっぱり難しいよ」
本当は同性婚ができたほうがいい。私も夕占さんと結婚できたらいい。
同性同士が結婚できる世界、そうなれば私にとって生きやすい社会になるのは当たり前。そこで私は早くそうなるといいなと思っている。
「夕ご飯の時間だよ。今日はえのきと豚肉の炒め物と、めんつゆの煮物だよ」
「なんでめんつゆなの?」
普段はめんつゆじゃなくて、しょうゆと出汁で煮物を作っていると思うのだけど。
「そうめんを作ったときに使った、めんつゆが余っていたから」
そうなんだ。そうめんのあまりのめんつゆ、それは夏の終わりに残った、暑さと同じなのかもしれない。もうすぐ夏が終わるから、必要性が減ってしまうってことで。
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