第12話

「台風ってもう関西から通り過ぎたんじゃないの?」


 先週は火曜日から水曜日に、台風10号が通過するって話だった。


 そこで金曜日の今は、台風が通り過ぎているはず。


「実はね、台風の進路が先週の金曜日から変わったの。それでね、台風は明日からくるってことになったの」


 夕占ゆううらさんがきんぴらごぼうをつまみつつ、のんびりと答えた。


「だから今日は台風のニュースばかりなんだ」


 きんぴらごぼうをおはしでお皿に移動させつつ、テレビを見る。


 バラエティ色の強い買い物コーナーをしないで、夕方のニュース番組はひたすら台風に関するニュースばかり流している。これは明日に台風が関西に近づくからか、台風のニュース以外する余裕がないのかもしれない。


「そうそう、だから今週は台風のニュースばかりだったんだよ。台風から離れた場所でも大雨が降ることがあったし、この1週間は災害が多かったかも」


 1週間の台風のニュース、それは絶対気が滅入る。


 べにはだって気が滅入っていたに違いない。特に平日は仕事があってしんどいから、なおさら。


「早く落ちつくと良いね」


「そうだね」


 早く台風が関西から、日本から立ち去れば良い。そして大雨による災害もなくなればいい。


 そこからはテレビを見つつ、黙ったきんぴらごぼうとからあげをおかずにご飯を食べる。


 最近は米不足で、お米がないらしい。でも我が家の食卓にはまだ米を使ったご飯が出ているから、実は米不足はそこまで深刻ではないかもしれない。なんちゃって。


「今日は8月最終金曜日だから、すいか食べよう」


 食事が終わってから、夕占さんが冷蔵庫からすいかが入ったプラスチックの容器を持ってくる。


「いいね。久しぶりに食べる」


 夕占さんが用意したすいかは、最初からカットされている物だ。


 人がこれだけきれいに切るのは難しいだろうな、そう思うほど丁寧な四角のすいか。それを私はおはしでつかんで、口に運ぶ。


「やっぱり夏はスイカだよね」


 夕占さんはカットされたスイカをおはしで更に小さくして、少しずつ口に運んでいる。


「そうだね」


 私はおはしで小さくしないで、そのままかぶりつく。


 水分が多くてジューシー、そして砂糖過多ではなく自然な甘さがそこにはある。それでこのスイカはとてもおいしい。


「来週から8月が終わるんだよ、8月が。9月になっちゃって、秋が始まるんだろな」


 すいかを食べつつ、小さな声で夕占さんは話す。


「そうだね。9月だね」


 確か明後日が9月1日だから、明日までが8月ってことかな。私にはそこら辺あんまり関係ないけど。


 でも夏が終わると思えば寂しいかもしれない。理由は今、思い出せないから、どうしてかは分からないけど。



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