第3話市場

当然、俺に追い込まれていた義賊は階段に目を取られているすきに腕をすり抜け階段を下りて行った。

「なんだなんだ?」

俺は正直言って、この突然の出来事に戸惑いを隠せずにいた。なんで絵を叩いたら階段が出てきたんだ?階段の奥には何がある?等々。しかし、ぼうっとしていたら義賊を取り逃してしまいそうなのでその先へと進んでいく。階段は石で作られていて、コケと水のにおいがするが、案外不快なにおいはしなかった。等間隔で明かりが置いてあって奥まで見えるようにしてある。義賊はもうずいぶんと先へと行っているのが見えた。少し進むと階段の終点が見えた。そこには扉があって、武装した兵士(商人の私設兵だろう)が二人ほどたっている。そして、義賊を見つけると叫び出す。

「て!……」

おそらく敵襲とでも叫ぼうとしたのだろうか、けれども義賊は慣れた手つきで叫ばせることもさせず二人の意識を落とし中へと入った。

俺が全速力で扉へと向かっている中、近づいていくと段々と部屋の中が盛り上がっているのがわかった。人々の歓声や嬌声が様々聞こえてくる。

これでは義賊が入り込んだとしても気づかないだろう。

倒れている私設兵の命に別条がないことを確認して、俺も遅れて中へと入る。重い鉄製のドアを開けると中はライブ会場のように人が詰め込まれていて、異様な盛り上がりを見せていた。照明は薄暗く、先にある小高いステージの上だけが明るく照らされていた。

「五百万!!」

誰かが目の前に向かって叫んでいる。目の前の人の波をかき分け、ステージが見える位置へと行くとそこには小さな女の子が首輪をつながれて、表情を浮かべることもせずただそこに座っていた。

「まじか……」

流石にここまで情報を出されて何もわからないほど俺はバカではない。なかなか

見つけれられないようにことが隠された入り口、地下であったのに常に整備されていることがわかる通路、なかなか開けられないような思い扉とそれを守る重装備の私設兵。そして、数字を叫ぶ客に目の前の首輪をつけられた少女。これは、

「「人身売買」」

いつのまにか俺の横にはあの義賊が立っていた。目の前の首輪がつけられた少女を周りの客たちはここでやっているオークションで競り落とそうとしているのだ。最後に付け加えると、十年前にこの国アーリエスでは奴隷という身分そのものがなくなり人身売買が完全に撤廃されている。特に主犯、つまり主催者は見つかったら死刑が確定するような重い罪だ。

「いやー、ここが前々から怪しいと思ってたんですけどね。まさかこんな隠しギミックがあるとは、さすがS級ですね」

「お前、人身売買の場所を探るのが本当の目的だったのか?」

そう聞くと、義賊はホームレスの姿で軽くにこりと笑った。

「それで?あなたはどうするんですか?私を捕まえる?それとも人身売買を止める?」

面白いものを見るような目でそのホームレスは俺を見た。

「もちろん、どっちもやるさ」

そういって俺は刀を抜いた。

「その前に目の前の奴らは倒すがな」

いつのまにか(義賊も含めてだ)は重苦しい装備を着ているわけではないが、参加している者たちに紛れるような服装で武装している男たちに囲まれていた。おそらくこいつらも私設兵なのだろう。

「捕まった場合、お前らの主人はおそらく死刑だろう。だがお前らはせいぜい一生分ほどの懲役で済む。だが、ここで俺には向かってきた場合容赦はしないぞ。死ぬよりひどい目に合うかもしれない。俺がS級隊員であるということをよく考えてかかってこい」

「言いたいことはそれだけか」

リーダー格と思わしき男はそういうと右手を振り下ろした。8人ほどが一斉に遅いかかってくる。

言葉を交わさずとも義賊と俺は自然と背中合わせになってお互いの背中を守りあっていた。

会場の喧騒はいつの間にか、静まっていた。

「はっ!!!」

目の前の女がナイフで襲いかかってくる。刀で切る、とみせかけて己の拳を腹に叩き込む。その女は前へと倒れこんだ。

「一人目」

もう一人の男は刀で腹をさす。

「うぐっ!!」

「二人目」

後二人は素手のまま殴りこんできた。それぞれの眉間に刀と左腕を叩き込む。

「四人目」

自分の担当分は終わったようなので義賊に加勢しようかと思ったが、義賊のほうもすでに四人ほど倒しているようだった。

「お前ら、何者だ?」

リーダー格の男は怒りで歪んだ顔で聞いてくる。

「リベルタS級隊員アギアス」

「義賊マンキュー」

目の前の男はその言葉を聞きながら義賊の魔法と俺のこぶしを受けて倒れていた。





そして、ひっ捕らえるべくさっきまで義賊がいたところに俺が目を向けたとき、その時にはもう義賊は逃げ惑う群衆に紛れてどこかに行ってしまっていた。

「逃げられたか……」

今日は疲れたので俺はリベルタに電話をし、後始末だけ頼んで帰ることにした。



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