第2話義賊マンキュー
というわけで俺は義賊マンキューに狙われそうな商人の隠し金庫がある建物を見張っている。
一日目。何もなかった。カフェに一日中居座っていたのでカフェの店員に少し迷惑そうな顔をされた。コーヒーを一杯しか頼まなかったのがよくなかったのだろうか?それともおにぎりを持ち込んだのがよくなかったのだろうか?リベルタの手帳を見せることで追い出されることはなかったが……まあいいや。
二日目。今日も張り切ってコーヒーを一杯注文し、サンドイッチをもって隠し金庫をじっと見張っていたのだが……15時ぐらいのことだ。;なにか店が騒がしいなと思ったら店員が禿げ頭の男を連れてきていた。依頼書に写真が載っていた男だ。俺が見張っている金庫の持ち主である。どうしたんだろう?依頼を受けてくれたお礼を言いに来たのだろうか。
「えーと、お客様。いつからそこにおられますか?」
「?9時からだが」
そういうと禿げ頭の商人は手を自身の眉間においた。困っているようだ。
「どうしたんですか?困っていることでも?」
もしかしたら義賊の仕業かもしれない。
「ふーーーーー。ええ、お客さんコーヒー一杯でそんな何時間もいられちゃ困るんですよ」
今にも怒り出しそうな表情である。
リベルタの手帳を見せても効果はなく結局追い出されてしまった。かなしい。というわけで今度はアパートの一室を貸し切り、見張ることにした。ちなみに義賊のほうは動きなし。
事が動いたのはその夜のことだった。三日目に入ったかというとき老いたホームレスが現れた。この時間にホームレスが町を歩いているのは不思議なことではない。けれども、ホームレスにしては仕草がおかしい、気がする。ただほんの微細な違和感程度でそれを裏付けるものはなにもない。論理ではない、感覚。俺はこういう時は感覚に頼ると決めている。
俺は自分の感覚を信じて町に降り立った。音もなく降り立った俺にホームレスは驚く。
「な、なに?」
老いた声を上げているホームレスに向かって俺はこぶしを振り上げた。
「っつ!!!」
ホームレスはこぶしを俊敏に避けた。もちろん、ホームレスではありえない動きだ。
「急に何ですか???誰?」
その声は老いているわけではなく、若い女の声だった。
「正体を現したな……お前が巷で話題の義賊か……」
ホームレスのほうは黙ってこっちを見ている。
「おとなしく、お縄についてもらおう!」
俺はホームレスに素早く近づきキックを放つ。そして、当たることには当たった。のだが……相手は両手をクロスに組んでガードしていた。手ごたえはあるが効いた様子はあまりないな。こいつ、強い。A級では相手にもならない訳だ。
「強いですね、あなた。A級最上位、またはS級ですか」
「依頼を受けたS級のアギアスだ、よろしく」
そういって、俺は自分の腰から刀を引き抜いた。刀といっても今回は切れ味を鈍らせてあり斬ることを目的としたものではない。気絶させることを目的として使う。
「礼儀正しい……どちらかというとバカ真面目といったほうがいいでしょうか。私は義賊、巷ではマンキューと呼ばれています」
「やはり、お前がマンキューか。聞きたいことがたくさんあるんだ。じっくり聞かせてもらおう」
義賊は俺の言葉になにも返すことなく手のひらをこちらに向けた。
「水よ、顕現せよ」
途端、俺の足元周辺の地面が水を含み動きずらくなる。
「じゃあ、また会いましょう」
そういうと義賊は商人の隠し金庫がある建物へと真っすぐ走っていった。さすが義賊だ、足が速い。魔法を使っているのかもしれないが俺よりも全然速そうだ。
「おい、待て!」
そういって、彼女の後を追うものの追いつく見込みはない。もともと足が速いほうではないのとぬかるみに足を取られているのでなかなか足が進まないのだ。もちろん俺の声に構うわけもなく、義賊は隠し金庫がある建物の中へと入っていった。
俺がその建物の中へと入った時には義賊は隠し金庫をピッキングによって開けていた。
「さすが、手際がいいな」
「褒められるまでもないですよ」
そういって、彼女はなにか球体のようなものを投げつけてきた。
「ちょっとまぶしいしれませんよ」
球体が俺の前の地面に当たった瞬間、爆発的な白い光と凄まじい音が発生した。
「閃光手榴弾!!!!」
何度か食らったことがあるがそのたびに思っている、ああ耳栓を持ってくればよかったなあと。ずんずんと頭が痛い。こういう時、無理に動いてはならない。方向感覚からすべてが狂っているのだから状況を悪化する可能性のほうが高いのだ。けれど、今動かなくてはあいつをとらえられなくなってしまう。雁字搦めだな、この状況まで予想していたとすればやはり目の前の義賊は強い。
「動かないんだ……やっぱりS級は違うね」
「動けないんだよ……」
三十秒ぐらい経つと頭痛も落ち着いてきた。
目を開けると義賊はドアから出ていくところだった。
「やるな、でも逃がすわけにはいかない」
俺は刀を振るいドアノブを切り落とした。
「な、ドアノブを……」
「惜しかったな、あと一歩だった」
そういって、こぶしで相手の腹を狙った。相手は紙一重のところでよけ、付けていた洋服越しに俺はそこに飾ってあった絵を殴ってしまった。
「げ」
高そうな絵画だ。料金を要求されたら面倒くさいなと思った。しかし、直後に建物から歯車が回るような音が聞こえてきてそちらに気を取られる。
「まさか……」
数秒後、床には地下へと続く階段が現れていた。
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