9-2

 石の階段を一つずつのぼっていき、宝山寺に到着する。


 宝山寺に着いたら、線香を供える。10本50円の線香を20本購入して、大きな火鉢みたいなところで火をつける。それをあちらこちらの仏様に供えるのだ。


 それから絵馬を書く。何を書くか少し悩んだ末に『会社が未払い残業代を払ってくれますように』みたいなことを書いてみた。いや無給の時間に終礼をやってきた、そのことに関する会社からの説明がまだ無いんだよな。これは会社、労働基準法的にヤバい労働を障害者にさせたことをばっくれる気だな。それ以外考えられない。


 線香を供えて、絵馬も書いて。それからあちこちでお参りする。もちろん願うのは仕事のことだ。職場であまり話しをしなくていいようにとか、他の人に話しかけられないようにとか。なんかもう話すことがしんどい以外の何物でもないから、仏様にどうしても叶えて欲しいんだ。


 そういうわけであちこちお参りした後で、お土産屋に行く。そこでクローバーのお守りを買う。このお守りは会社へ持っていくようだ。なんせ会社にはよどんだ、何か息苦しさしかない。そこでこのお守りで、少しでも空気をよくするしかない。


 こうして宝山寺での用事を済ませた後に、帰宅する。仕事で脳が疲れているから、あちこち行く余裕なんてない。そこで宝山寺から東生駒駅まで歩いてから、家の近くにあるスーパーへと向かう。 


 少し前まではクリスマスだった。イルミネーションがあちこちの家にぽつんとあり、お店の中にもクリスマスの飾りがあった。


 クリスマスを祝う余裕なんて、私にはない。確かクリスマスイブの日に面談があって、上司と会話をしなくちゃおけないのがしんどくて辛かった。


 やっぱり会話なんてどこであっても、できるだけしないに限る。話せば話すほど、人との距離は離れていく。そこで人と関わるなんて、しない方がいいんだ。


 とまあクリスマスイブには、いい思い出なんてない。ブッシュドノエルを食べることができたのは、いいことかもしれない。でもそのいいことを台無しにしてしまうくらい、仕事がしんどかった。


 そんな会社の事を考えても仕方ない。スーパーで買い物をする。


 夕ご飯の材料を選んだ後、アーモンドミルクのくるみ味、それから野菜ジュースやペットボトルのお茶を選ぶ。


 スーパーの中には、お正月で買うような物が一杯ある。おせちの材料になりそうな物、それからお正月飾り。


 母の姑が亡くなったから、我が家は喪中。そんなわけでお正月を祝うことが、想像できない。いや喪中であろうとなかろうと、お正月は別かもしれない。今年もお正月、祝う感じになるかもしれない。


 とまあ買い物を済ませると、家へと帰る。帰宅してから冷蔵庫に買ってきた物をしまった、部屋へと戻る。そして部屋着に着替えてから、スマートホンでYouTubeの動画を見る。


 もう何も考えていたくなかった。宝山寺とは違い、線香の匂いがほとんどない中で、ひたすら動画を見続けている。

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