母の姑が亡くなった朝
カーテンで作られた闇。その中をかん高いスマートフォンの音が響く。これは母のスマートフォンの音だ。だって、私のスマートフォンは電源を切ってあるし。
「おはよう」
スマートフォンの音が無くなると同時に、落ちついた母の声が聞こえる。
台風が関西へとやってきてしまった今日、きっと外は風の音でうるさいはず。でもそれが気にならないほど、家は落ちついた雰囲気がある。
「5時に亡くなられたのね。分かった」
淡々と、死の事実が告げられていた。
母の姑は日曜日に重篤な状態になった。でもその後に少し持ち直したらしく、今日、そう水曜日はまだ生きているだろうと思われていた。
でも母の姑は水曜日が始まって5時間で亡くなってしまった。
多くの人が寝ているかもしれない、朝の5時。母の姑はその時間に、永遠の眠りについてしまった。
ただそれだけだ。
「わかった。車の運転に気をつけてね」
電話が終わったらしく、家の中が再び静かになった。
10年以上会わなかった、母の姑が亡くなった。もって2日か3日でしょう、そんな言葉を聞いてもなお会おうとしなかった、母の姑が亡くなった。
台風で新幹線が止まっているはずなので、今すぐに静岡県へは行けない。何よりも台風があろうがなんだろうが、私には今日も仕事がある。
平日は仕事、休日は疲れをとる。それがあるから、私は母の姑のお葬式へは行けない。そう本当に最期のお別れすら、私は母の姑とはしない。
まっ仕事があるから、仕方ないよね。
今日も仕事がある。そこで仕事をする前にできるだけ疲れをとっておかなくちゃいけない。それが例え無理かもしれなくても、やらなくちゃいけない。
仕事は大事だから、仕事が大事だから。
例え台風の影響で大雨が降っていたり風が強かったりしても、仕事がある。ぶっちゃけ電車がとまらない限り、仕事はある。
そこで母の姑のことを考えないように、私は再び眠るために目をつぶるのであった。
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