5-4
朝ご飯を食べ終わったら、歯を磨いて顔を洗う。それが終わってから、適当なTシャツと適当なスカートを着る。今日はでかけないから、これでいいか。
これ以上朝にしなくちゃいけないことはない。私は再びベッドに寝転がる。
気がつけば隣の市にあるコミュニティFMで最終木曜日の9時半からよく流れている曲を口ずさんでいた。多分知っている人は殆どいない、マイナーな歌手の歌っている曲。その曲は遊女の恋がテーマになっていて、和風で大人っぽくて少しなげやりなところが好きだ。この曲は曽根崎心中をもとにして作られたらしく、そんな話をラジオ番組で聞いたような気がする。
曲のこと、今はどうでもいい。それよりも母の姑が無くなってしまったかもしれない、そのことを考える方は今大事かもしれない。
明日からまた仕事があり、休日は疲労困憊でぐったりしている。その人生に、母の姑のことを考える余裕なんて本当は無いんだけどな。
母の姑は確かやさしい人だった気がする。母の舅が確か母に向かって『母親失格』とか言うほど強烈にひどい性格なので、その影響で母の姑はおとなしくしなくちゃいけなかっただけかもしれない。そこで母の姑のこと、私はあんまり覚えていない。むしろ母の姑は、今の私にとって赤の他人だ。
そもそも母の姑や母の舅は、遠いところに住んでいる。確か静岡県御殿場市に住んでいたっけ? いや静岡市だったかもしれないし、浜松市だったかもしれない。そこら辺はよく覚えていない。
だけど少なくとも母の姑達は静岡県民であって、奈良県民である私にとって遠い存在だということだ。
そこで遠いから、会うことが少なかった。子どもの頃は強制連行されたけど、大人になってからはそんなことがない。何よりも就職してからは仕事で忙しくて休みが少ないので、会いに行こうと考える余裕すらなかった。
今は小学生にとっても、中学生にとっても、高校生にとっても、そして運の良いことに大学生もかもしれない、夏休みに入っていて学校がない時期。そして就労移行は仕事よりも休みやすい。
そこを考えると就職する前は母の姑のお見舞いに行きなさいって話になりやすい。
でも就職しちゃって、仕事が何よりも私にとって大事になってしまった。そこで母の姑と最期に会うことよりも、仕事の方が大事なはず。それは誰にとっても、そうだろう?
そう仕事が大事だ。仕事よりも大事なことなんて、この世にはない。
だけどそのことを母の舅や母の姑が理解してくれるとは思えない。
なんなら母の舅は、家族第一とかぬかすような怪しげな『倫理』のことを人に伝えるようなことをしていたらしいし。その舅と長い間一緒にいた、母の姑も家族が大事とか思っているはず。
だから仕事を優先させることを知って、母の姑や母の舅がどう思うかは分からない。でも10年以上連絡を取っていない親戚よりも、仕事の方が大事なのは当たり前なのでそこは仕方ない。
そもそも父方の孫が24人もいるから、1人くらいいなくてもいいよね? 確か父方のいとこが去年か今年産まれたって話も聞くし、私がいなくても他にかわいい子供の孫がいるから母の姑や舅には問題無いでしょう。
何よりもいとこがどういう人達か、私覚えていないんだよね。これは父方の親戚と、私には縁がないってことだから、仕方ない。
ちなみに母方の従妹は5人いる。この5人ともほとんど会っていないけど、母親が話題に出すのもあって、父方のいとこよりもちゃんと存在を認識している。
そう父方の親戚とは縁がない。これからもこれまでも。
だからきっと母の姑は、私にとって赤の他人だ。母の姑が亡くなっても、私の人生は変わらないんだ。
所詮、赤の他人の死でしかないから。
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