5-3
『台風は九州にきています』
台風のニュースが、気がつけば長くしている。
平日に台風がやってくるのか、それとも休日なのか。それはまだ分からない。この様子だと来週の土日に台風が関西へやってきてもおかしくはない、そんな風に台風の移動は遅い。
平日に台風がくれば仕事に影響が出そう、休日に台風がくれば買い物に行けないしハラハラドキドキして疲れが取れそうにないしで、どれも嫌。
「父方の祖母がもうすぎ亡くなるかもしれないって」
とうとつに母親がそんなことを言った。
テレビからはずっと台風のニュース、テーブルの上には怪しげだけどおいしいおかずが2品とご飯。そんないつもと少し違うところがあるかもしれないけど、何も変わらない日常。
その日常にするりと、父方の祖母が亡くなることが告げられた。
「父方の祖母が亡くなるの?」
「そう。入院していたのだけど、重篤な状態になって。それでもって2日か3日らしいの」
母は話しながらも、スマートフォンから目を離さない。きっとスマートフォンで父、それから父の親戚と連絡を取っているのだろう。
父方の祖母、ということは母にとっては姑。自分の実親ではないからから、母は冷静そうだ。そりゃそうか、母の姑だから遠い関係になり、母にとってそこまで親しくない親戚の死ってことになるのかもしれない。
『
台風のニュースがいつの間にか終わって、知らないアイドルが活動を終了するって話が始まった。
母の姑が亡くなるかもしれない。その重い事実がただよっている我が家に、ただアイドルの話が流れている。
『これからは泉里更さんはアイドルとしてではなく、俳優として本格的に活動していくことが決まっています。泉里更さんは秋から始まる新ドラマ「パウダーピンクの恋」に出演することが決まっています』
『これからも頑張ってほしいです』
他人事のようなアイドルの話を聞き流しつつ、私は考える。
父方の祖母こと、母の姑。最後に会ったのは大学2年生の時、すなわち今から10年以上も前の話だ。大学生になるまで、特に幼いうちはもっと母の姑と会っていた。でも大人になったら、自然と母の姑と会うことがなくなってしまった。
そんな今やほとんど縁が無くなってしまった母の姑が亡くなってしまう、その事実に私はどう対処したらいいだろうか?
例えばテレビで、私に関係ない人が亡くなったことを知ったとき。人の死をただのニュースとしてとらえて、そこに非日常さや特別な感情があるわけではない。
例えば母方の祖母が亡くなるとすれば、どうだろうか? 母から色々な話を聞いているのもあって、母の姑よりもなじみが母方の祖母にはある。そこで母方の祖母が死ぬかもしれない、それを知ったら恐くて悲しくなってしまうだろう。
そう考えると関係ない人が亡くなることをテレビで知ったときと、母方の祖母が亡くなるかもしれないと思ったこと。その間くらいの無関心さと悲しさが、今私にはあるかもしれない。
『雪木市にある「グリュック」では新しくバウムクーヘンのソフトクリームが登場するそうです』
私が色々考えているときでも、テレビからどうでもいい話は終わらない。
そう私の事情を置いて、世界はいつものように進んでいるんだ。
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