好き大好き愛してる

あすペン

好き大好き愛している

 昔から、不器用なやつが近くにいた。

 何をさせてもどこかでつまずく、それは小さいことから大きなことまで。

 そいつはそれでも涙目にながら、完成まで誰も手も借りようとしない。

 全部自分で抱え込む、俺はそれが心配で目で追っていた。時にはそれとなくヒントを与える。

 すると、スッキリしたように涙は引いていき完成させる。

 そして、したり顔で俺に見せる。俺が適当な反応をすると満足する。

 最後はいつも、頬を赤らめながら、途切れそうなか細い声でお礼をいう。

 「あ、ありがとう」

 そんなこというもんだから、俺もなんだか目が離せいないのだ。


 それからしばらく経った頃。

 高校二年の夏。

 俺らは同じ高校に進学していた。

 と言っても、ほぼ二人で話すことはなく疎遠状態だった。

 「じゃあな、翔太」

 クラスメイトと別れを告げると、日直に仕事を進める。教室には俺しか残っていない。きっと、どれもこの教室には誰も来ないだろう。

 そう思いスマホをとりだしイヤホンを耳付け、日誌に今日の感想を書く。

 だから、誰かが教室に入って来てもきずかなかった。

 イヤホンを外されやっとそこで気づいた。

 「スマホダメなんだ」

 声の主、長崎藍ながさきあいだった。

 「長崎か」

 長崎は俺の前の席の椅子が引かれた音がした。俺は顔を上げることなく、日誌に顔を落としたまま作業を続ける。

 「どうかしかたか?」

 「いいや別に」

 長崎は何も言わずに廊下の方眺めるが、ちらちらとこちらを見てくる。

 「なに?」

 「ね、ねえ。日誌書けた?」

 本題ではないのであろう、話から入った。

 「ぼちぼち。もうちょいだよ」

 ふ~ん。

 自分から聞いておきながら、退屈そうな返事をした。

 そしてまた沈黙が教室を支配した。

 もう、今日の反省を考えて書き始めようとしたとき、長崎が口を開いた。

 「ねぇ、サッカー部の先輩のかっこいいって噂の」

 やけに、の、が多い長崎は名前を思い出すように頭を捻りながら呟く。

 「そう、梶原先輩って知ってる?」

 梶原、知っていると言えるほど知らないが名前くらいなら、この学校で知らない方が少数な気がする。

 「知らない、で」

 でも、このとき俺はそう言っていた。

 「そう、私も名前くらいしか知らなかったけどさ」

 「で、その先輩がどうしたって」

 長崎はまた間を置くと、小さく息を吸う音が聞こえるくらいの息を吸って。

 「そのさっき告られたんだよね」

 「そっか」

 心臓が鳴った。

 心は冷たくなって、冷や汗みたいなものが巡っていくような感じがした。それでも、俺は多分きっと顔には出さずに返答できたと思う。

 「そっか、で」

 長崎は少しむくれたように呟くが俺の耳には入ってきていない。

 その時の俺は平常心を取り付くのうでせいっぱいだった。日誌の書く手も止まってペン先が震えている。

 「で、返事どうしたんだ」

 「聴きたい?」

 長崎は口角を上げ今にも得意げに語りだそうだ。その時俺ははたして、今みたいに正常心を取り繕うことができるだろうか。

 きっと、出来てしまうだろう。少なくとも、長崎に対してはばれない自信がある。

 そうやって、隠して隠してきたのだ。

 「どうしようかな?そんなに知りたいの?」

 「そこまで言うならいい」

 すると長崎は、つまらなそうに唇をとがらせてそっぽを向いてしまった。

 「あんた、周りは妙に見えてるくせに私には興味ないよね」

 そんなことない。

 喉まで出かけたその言葉を呑み込んだ。

 「別に、周りだって見えてないけど」

 「そうかもね」

 やっぱり、拗ねたようにこちらを目だけ向ける。

 「もう、何て答えたか教えてあげない」

 「まあ、いいよ」

 「むっ、ほんとに興味ないんだ」

 何をいまさら、今までと違う態度を取らなきゃいけないのだ。

 「そんなことないけど、ただ、そうだね。その先輩の事は知らないけど。

長崎の事は少しくらいわかってるつもりだかさ」

 ああ、今多分余裕がないんだな、っと、思いながらも口が止まらなかった。

 「だから、長崎が頭がいいのも知ってるから、その答えが正しんだと思うよ」

 「え、なんか、きもい」

 長崎はグサッと鋭い言葉を俺に刺す。

 「そんなにしゃべる人だっけ」

 「別に、たまたま」

 「ずっと一緒にいても以外と知らない事があるんだな」

 長崎は驚いた顔をして、教室の天井を見上げる。

 「あんたは、わたしのなにを知ってるの?」

 「ずっと勉強とか努力したり」

 「うん」

 「それを周りに威張るわけでもなくて、隠してる」

 「そんなことないけど」

 「苦手なコミュニケーションとか、高校ではがんばってる」

 「私って頑張ってばっかじゃんか」

 長崎はやっと笑った。

 「そう、頑張って頑張って、そして完璧させる」

 そう、努力に関しては長崎を超えるものを見たことがない。途中で投げ出さずただ完成に向け、ただひたむきに、そうひたむきには走る事が出来るのだ。

 「すごいよ尊敬する」

 「なんか、あんたに褒められたの始めてかも」

 照れくさそうに、赤くした頬をごまかすように下を向く。

 「そして、すごく不器用」

 その言葉を口にした瞬間、教室の中の空気が止まった。

 俺はやっと、日誌から顔を上げた。

 「ほら、そんなになってから話しかけに来て」

 目の前にいた、いやあったのは、誰が置いたのか長崎の髪につけていたのと同じ四つ葉のクローバーが三つ葉になったの髪飾り。俺が誕生日にあげた髪飾りだけだった。

 「だってさ、無理じゃん」

 声だけが響く、そして俺の頭にそれを補てんするように、大粒の涙を流す顔が浮かんだ。

 「なんて言えばよかったの?何て言えば、あんたに」

 俺は言葉を頭で作り上げる。

 「ずっと、言いたかったよ」

 「俺もいいたことがあった」

 今は先は違う心臓のなり方をしている、バクバクと大きな音で鳴って目の前が世界が少しずつ歪んでいく。

 「ごめん、きずけなくて。声かえけなくて。そっと傍に入れなくて。手を差し伸べられなくて。何も知らなくて。ごめん」

 せっかく書いた日誌に、水滴が落ちる。字が滲んでいく。

 ただ、ただ自責の念が積みあがった、そういった感情があふれて、漏れ出てきた。

 「違うよ、あなたのせいじゃない」

 

 「私は素直じゃなかった。


 ずっと、不器用なやつで、


 それでも、こんなんになっても、言いたいから


 ずっと、ずっと、


 好きでした。


 そばにいてくれて、ありがとう、たくさん助けてくれてありがとう


 そしてごめん、諦めちゃって。」


 違う、違う。長崎、謝って欲しいわけじゃない、泣いてほしわけじゃない。

 ただ、長崎に、君に笑顔でいつもみたいなしたり顔で俺に君のやることを見せてほしんだ。

 しかし、俺はもう君にこの言葉を届けることができない。

 これは俺の妄想に違いない。だから、これは、これまでも、今からも自己満足に過ぎない。でも、俺は言葉にしたい、伝えたい。

 「俺も、好きだよ、藍

 

 ちゃんと、会いに行くよ


 今まで行けなくてごめん


 これを持ってちゃんと行くから


 だからその時は


 少しくらい顔を見せてくれ」


 言い終わると、藍は悲しそうな笑顔を浮かべた気がする。

 「                     」

 何て言ったかは分からなかった、でもきっと大丈夫だ。

 校門が騒がしくなるのが、教室から見えた。

 涙を雑に拭い、俺はそっと日誌を閉じた。

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