scene7 : 三クラス混合カラオケ(小春ちゃんと増田) ☆


カラオケに来てから一時間経ったかどうかって頃。

ジュースを入れようとドリンクバーに来たところで、先客が三人いることに気がつく。


「――何であいつ呼んだの? 8組なのに?」

「小春ちゃん、今色々あって落ち込んでるから…」

「元気づけようと思って…ね…?」

「うん…」


文句を言ってるのは、仲が悪いらしい二人のうち一人、増田。

増田が文句を言っている相手は、今回最終的なメンバー集めをしてくれた幹事さんで、もう一人は幹事さんと仲が良い友達だと思う。


小春ちゃんが怪我しちゃってダンスできなくて…それで落ち込んでたから気晴らしにどうかって誘ったんだ。幹事さん優しいね。


「でもさ、なんで8組なのに? わけ分かんないじゃん。関係なくない?」

「別にいいじゃん…」

「…よくないでしょ……………はぁーー……」


近づいていくと…増田はこっちに気づいたみたいで、スタスタと俺の目の前を通り過ぎながら部屋に帰っていった。あとには幹事さんたちが残る。


空のコップに残るしずくを意味なく眺めて数秒。ドリンクバーのすぐ横の二人に近づいて、話しかける。


「増田と小春ちゃん、あんまり仲良くないみたいだね…」

「うん………二人が仲悪いって知らなかったよね…仕方ないよ…」

「そんなの知らなかった……」


暗い表情で俯く幹事さんを友達が慰める。

幹事さんの声が震えているような気がした。


「ぁー…、大丈夫 大丈夫! せっかくこんな楽しそうなカラオケ、しかもこの人数集めて…ってしてくれたんだからさ、あとは俺らがなんとかするから。幹事してくれてありがと! マジで!」

「ぅうん…」


幹事なんてやってくれたのに責任 感じさせてちゃ申し訳ないって…

これ以上空気が悪くならないようにしないと…




「――――な・のさーーーー♪!!」

「「「いぇーーーー!」」」

「「イェーーーーーーー!!」「いぇーーーーーー!」」

「うざ…」

「いぇーーーーーーい!!」

「沖さんかわいーーー!」


小春ちゃん沖小春は、今流行りのアイドルの歌をノリノリで歌い終わる。

本当は体全体を動かしたいんだろうけど…座ったまま、手振りだけでも踊っていた。

多分この曲、踊れるんだろうな…。

他の人もそう思ったみたいで…


「わー! ダンスありバージョンも見たかったなー!」


「………………………」


「あっ………」


その言葉を聞いた途端、今まで忘れていたことを思い出したみたいに、小春ちゃんの言葉が詰まる。


「…足……治ったら…………」


「……………」

「……」

「あ〜……」

「いつか…見たーい! ね!」

「うん!」「見たい見たい!」



「早く治ったらいいね!」


「…………」


「………?」

「……ぇ…?………ぁ………」

「……………」


「……………」


さらに表情を曇らせた小春ちゃんに対して、そばにいる8組の子が気遣う素振りをみせる。


「あ…小春…」

「ううん……いい……ありがとう………うん…………そう…三週間ぐらいで…完治したらいいのになー……はは……」


小春ちゃんがぎこちなく笑って、それがむしろ痛々しくて、無力感を漂わせていた。


「あ………」

「ごめん……」

「いや…全然全然! 気にしないで? もう吹っ切れてるから!」

「ぁぁ………」


「…………」


吹っ切れてる…か…。


骨折って治るまでどれくらいかかるんだっけ。

少なくとも三週間でダンスできるようには…ならないよね…。


「増田さん…マイク…」

「私そっちのマイクがいい」

「え?」

「あ……はい。……」


「ありがとー」


さっき小春ちゃんが使ったマイクと交換されて、別のマイクが増田の手に渡る。


「……」

「…………」

「………」

「…………」

「……………」


正直なところ、空気は最悪だった。

なんとか盛り上げようとしても、みんなどこか空回りしてしまう。

何十人分の空気を変えて一気に楽しくさせられるような人なんて、さすがにいなかった。


それから、増田が歌う番になる。


本当に幸いなことに、当事者の増田の歌が上手くて、なんとかまた、みんなで盛り上がることができた。


その間、小春ちゃんは真顔でスマホを触っていた。




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