scene7 : 三クラス混合カラオケ(小春ちゃんと増田) ☆
◇
カラオケに来てから一時間経ったかどうかって頃。
ジュースを入れようとドリンクバーに来たところで、先客が三人いることに気がつく。
「――何であいつ呼んだの? 8組なのに?」
「小春ちゃん、今色々あって落ち込んでるから…」
「元気づけようと思って…ね…?」
「うん…」
文句を言ってるのは、仲が悪いらしい二人のうち一人、増田。
増田が文句を言っている相手は、今回最終的なメンバー集めをしてくれた幹事さんで、もう一人は幹事さんと仲が良い友達だと思う。
小春ちゃんが怪我しちゃってダンスできなくて…それで落ち込んでたから気晴らしにどうかって誘ったんだ。幹事さん優しいね。
「でもさ、なんで8組なのに? わけ分かんないじゃん。関係なくない?」
「別にいいじゃん…」
「…よくないでしょ……………はぁーー……」
近づいていくと…増田はこっちに気づいたみたいで、スタスタと俺の目の前を通り過ぎながら部屋に帰っていった。あとには幹事さんたちが残る。
空のコップに残る
「増田と小春ちゃん、あんまり仲良くないみたいだね…」
「うん………二人が仲悪いって知らなかったよね…仕方ないよ…」
「そんなの知らなかった……」
暗い表情で俯く幹事さんを友達が慰める。
幹事さんの声が震えているような気がした。
「ぁー…、大丈夫 大丈夫! せっかくこんな楽しそうなカラオケ、しかもこの人数集めて…ってしてくれたんだからさ、あとは俺らがなんとかするから。幹事してくれてありがと! マジで!」
「ぅうん…」
幹事なんてやってくれたのに責任 感じさせてちゃ申し訳ないって…
これ以上空気が悪くならないようにしないと…
◇
「――――な・のさーーーー♪!!」
「「「いぇーーーー!」」」
「「イェーーーーーーー!!」「いぇーーーーーー!」」
「うざ…」
「いぇーーーーーーい!!」
「沖さんかわいーーー!」
本当は体全体を動かしたいんだろうけど…座ったまま、手振りだけでも踊っていた。
多分この曲、踊れるんだろうな…。
他の人もそう思ったみたいで…
「わー! ダンスありバージョンも見たかったなー!」
「………………………」
「あっ………」
その言葉を聞いた途端、今まで忘れていたことを思い出したみたいに、小春ちゃんの言葉が詰まる。
「…足……治ったら…………」
「……………」
「……」
「あ〜……」
「いつか…見たーい! ね!」
「うん!」「見たい見たい!」
「早く治ったらいいね!」
「…………」
「………?」
「……ぇ…?………ぁ………」
「……………」
「……………」
さらに表情を曇らせた小春ちゃんに対して、そばにいる8組の子が気遣う素振りをみせる。
「あ…小春…」
「ううん……いい……ありがとう………うん…………そう…三週間ぐらいで…完治したらいいのになー……はは……」
小春ちゃんがぎこちなく笑って、それがむしろ痛々しくて、無力感を漂わせていた。
「あ………」
「ごめん……」
「いや…全然全然! 気にしないで? もう吹っ切れてるから!」
「ぁぁ………」
「…………」
吹っ切れてる…か…。
骨折って治るまでどれくらいかかるんだっけ。
少なくとも三週間でダンスできるようには…ならないよね…。
「増田さん…マイク…」
「私そっちのマイクがいい」
「え?」
「あ……はい。……」
「ありがとー」
さっき小春ちゃんが使ったマイクと交換されて、別のマイクが増田の手に渡る。
「……」
「…………」
「………」
「…………」
「……………」
正直なところ、空気は最悪だった。
なんとか盛り上げようとしても、みんなどこか空回りしてしまう。
何十人分の空気を変えて一気に楽しくさせられるような人なんて、さすがにいなかった。
それから、増田が歌う番になる。
本当に幸いなことに、当事者の増田の歌が上手くて、なんとかまた、みんなで盛り上がることができた。
その間、小春ちゃんは真顔でスマホを触っていた。
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