scene6 : 三クラス混合カラオケ(序) ☆


クラスの友達に教えてもらった部屋番号を受付で伝えて、空のコップを受け取る。そのコップを持って、とりあえずドリンクバーに向かって…そこで少し喋ってから、井浦さんと仲邑なかむらさんとは別れた。


それから同級生達がいる部屋に来て…

一応ノックしてからドアを開けると、思ってた以上に部屋が奥に広がってて、驚いて笑っちゃうぐらいだった。

そりゃ三十人入れる部屋だもんね…


それで…座る場所がどうとかよりもまずなにより、一番手前…長いソファーの一番端っこにいる人が気になってしまう。


その人は、松葉杖をそばに立てかけていた。

たぶんそれが邪魔にならないように一番端っこに居るんだと思う。

この人が…後から参加することになった8組の人か…。



8組だったんだ、この人。


俺はこの人の事を知っている。

放課後とか昼休み、片隅の空いたスペースで練習してるところを何回か見かけたことがあった。

彼女はダンス部の人だ。

当然、松葉杖をついてるのは見たことなかったから、何か事故とか…練習中に…とか、そういう事があって足を怪我しちゃったんだろう…。


急遽参加することになった遠いクラスの人が、怪我してるダンス部員とその友達、か…

なんか…ちょっと察せるものがあるよなぁ…。


幸いなことに彼女は楽しそうにしていて、

俺は胸をなでおろして、彼女の向かい側に座る。


「うっす」

「よ」

「うーす」

「さっき駐輪場で喋ってた子、妹?」

「いや妹はもうちょっと小さいかな…さっきのは最近仲良くなった子…たち?」

「鈴木くーん、いらっしゃーい」

「うん…お邪魔します…?」

「家か」

「ブフッッ!」

「曲入れなー、はい、回したげて」

「うわっ! ちょっ! かかったんだけど〜!」

「ありがとー!」

「はーい」

「ごめんっ!! 」


ドアが開いた。

先頭の誰かが、こっそり確認するように覗いてきて、部屋が合ってることを確かめて安心して入ってくる。


「この部屋、中が分からなくて入るのためらうよね…分かるわ」

「まじそれ! …あとデカすぎてビビった〜…」


たぶん今で集合時間ぴったりぐらいだと思う。

何人か集まってから来たみたいで、第二陣としてゾロゾロと入って来る…その中に、朝園の姿があった。


デニムっぽいワイドパンツに、上はゆったりしてて柔らかそうな白系のチュニックを、前が腰、背中側が太ももまでになるようにお洒落に着ている。


今到着の十人ぐらいの中、他の女子とニコニコ会話しながら入ってきた朝園と…一瞬だけ目が合う。

けどすぐに逸らされる。


俺とは逆側のソファに朝園達が流れていって、そのソファの端っこにいた松葉杖の子が杖をついて立ち上がって、


「どうぞどうぞ、中に入って?」


と促していた。

で、やっぱりその松葉杖の子は一番端に座る。

俺が座っている位置は、今来た人達に追いやられて中程になった。





「―――せるか〜〜ら〜〜〜〜〜〜♪」

「「フー「「イエ〜〜〜」〜」!」」


「イエーーー……ん? …」


第二陣が来てから少し経った頃。

チラホラと遅れて来た人が入ってくる中で、ズボンの中のスマホが震える。

メッセージが来ていた。

差出人は……朝園……。


それなのに、その内容が見えてたせいで一瞬の喜びも感じられなかった。内容が…内容だったから…


〈『小春ちゃんと増田さんは、すごく仲が悪いから』

〈『ちょっと気をつけたほうがいいかも』


思わず朝園を見る。一瞬目を合わせて、それ以外反応はない。


「小春ちゃん、マイクはいーっ」

「ありがとー!」


小春ちゃんって呼ばれたのは、松葉杖をついているあの子だった。

小春ちゃんは今も、入口から見て一番右手前に座ってる。

で、メッセージに書かれてたもう一人、増田は…小春ちゃんとはきれいに対角の位置、左側の一番奥に座ってる。


増田は俺と同じ三組で、なんていうか、ちょっとキツいところもあるかもしれない、そういう女子。

小春ちゃんは、かわいい系の顔なんだけどスラッとしてて、ダンスが上手くて、芯がある感じの人っぽい。


小春ちゃんも女子にしては背が高そうだけど、増田の方がさらに背が高くて、二人ともどことなくモデルっぽい感じがある。

ただ、あんまり関わりがある二人には見えないけど…


あ〜……そっか…

それからちょっとの間気にして見てると…確かに…

小春ちゃんが歌う番になると…増田が眉をひそめてわざとらしくタンバリンを置くのに気がついた。

気づきたくなかった…


増田の横の人も、雰囲気を察してぎこちなくなってる気がする…。

あ〜〜〜……う〜〜ん……そっかぁぁ……


そっ……か…………




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