scene3 : 自称不憫な人 ☆
◇
朝園の連絡先を新しく登録して、初めてのメッセージを今まさに送ろうとした瞬間……グループ招待のメッセージが届く。
招待してきたのは隣りにいる茜だった。
グループ名は…『青クラ』?
この前、秘密基地に集まった四人のグループだ。
「あれ? 結局メンバーって四人? 先輩は入ってないんだ?」
グループには、茜、朝園、井浦さんと、俺の四人だけ。
俳優のパイセンこと鯛津先輩のアカウントはなかった。
「ああ、今こっちにおらんのに、グループ内でうっさかったから、追い出しとったわ。またスカウトする子 見つかったぐらいのタイミングで入れる」
「ええ…………そんな感じなんだ……。部屋まで提供してくれてるんだし、優しくしてあげない?」
「仕事のおかげで十分すぎるぐらいええ思いしとんねんから、ウチらは逆でバランスとっとんねん」
「 …いや…何その理論?」
「ってゆーか、あの人に親切にすんの、なんか勿体ないわ…」
テレビで人気な人の扱いとは思えないな…
鯛津先輩…
「不憫だ…」
「え?」
「ん?」
今の「不憫だ」は俺の声じゃない。
横を見ると、
初めて見る顔だ。細めの体格で背は普通。長い前髪で目が隠れていて、どっちかというと暗い雰囲気の人だった。
「ああ…聞こえるなぁ…僕を追い出した子達のラッパの音が………不憫だ、僕は…」
確かにラッパを練習してる音が聞こえる…ってかこの人、こっちに話しかけてない…?
独り言にしたらバカハッキリしてるし、周りに他の人とかはいない。
まあ……声かけてほしいんだろうな……
「何かあったんすか?」
「おいマジかペケ…」
「聞いてくれますか…」
その人は虚無な目をしながらもスラスラと話し始めた。
「僕、ついこの間まで吹奏楽部だったんです。でも、辞めさせられたゃったんです…」
「 辞めさせられた?」
「追い出されたっていうか…そんな感じで、吹奏楽部の人たちに拒絶されたんですよね…キモイからって」
「…ええっ………? …ひどくない? それ…」
「そんなことあるか? いくらキモいゆーても、辞めさせるとかそんなん、なあ。よっぽどのことやろ?」
「ね………何があったらそんなことに…?」
「優しいっすね…あなたたち……」
その人はしんみりした雰囲気で続ける。
本人が冗談めかして言ってるから軽く聞こえるけど、普通に穏やかな話じゃないよね? これって…
「一応、去年はうまくやれてたつもりだったんですけどねぇ…」
「去年…? あんた先輩やったんかいな」
「あ、二年です…威厳ないっすよね僕…。だから、こんな状態になったんだろうな……」
「まあ威厳はないな」
「ちょっ! 茜!」
「はは、いやいや、いいっすから…本当のことなんで…」
「でも…すいません…」
「いやいや……。…それで、去年はなんていうか…いるかいないか微妙ぐらいの立ち位置で、存在感薄いなりに、邪魔にならないようにやってたんです」
「それが終わったのが今年になってからで…一年生が入ってきてからですね…」
「ああ…」
「入ってきた一年生に、どうしても先輩として教えることになるじゃないですか」
「でもその子が僕に嫌悪感抱いたみたいで…」
「………それは…きついっすね…」
「…………」
「気持ち悪いって言ってきて…」
「………」
「………」
「でもそれからは気を使って、できるだけ関わらないように、近づかないようにしてたんですけど…」
「どうしても合奏のときとかは隣になったりするし、練習で割り当てられる部屋も余裕があるわけじゃないから、同じ部屋で練習せざるを得ないとか…」
「同じパートにいるのが嫌、とかも言われて、どうしようもなくて…」
「最後には、やってもないのに、二人きりの時に僕が迫った、とか…キモい目でじろじろ見てくる、とか…」
「……その現場を見てた人はいないし、どちらの言い分が正しいかどうか分からないから、先生たちも対応に困って…」
「それから…一年の女子で集まって、僕の陰口とかをわざと聞こえるように言ってきたり…」
「そういうのに……色々…耐えられなくなって、辞めたんです…」
「………」
「……不憫どころじゃないじゃないっすか…!」
「はは……ね…」
「なんやそれ。あんたが辞める必要ないやろ? そいつらの方を辞めさせぇや」
「あ、いや……。もう今更、戻りたいわけじゃないんです。吹奏楽部に戻っても、もう楽しくやるのは無理ですし…」
「ただ…あまりにもやりきれなくて…誰かに聞いてほしくて……それだけなんです」
「…………………………」
「は…………?」
「……二人とも、ありがとうございました。こんな陰キャの話を聞いてくれて…」
「……味方側に立ってくれて嬉しかった…」
「いえ……………」
「…………………………………………」
茜はその話の主犯が誰なのか問いただそうとしたけど、先輩は言わなかった。
先輩曰く…
「復讐したくない…というのもまた違うけど、傷つけたいわけじゃないんです。恨めしいけど…違う」
…と。
「どうしても吐き出したかった、ただそれだけだよ…。もっと自虐ネタっぽくして笑わせる気だったのに、不快な思いを移してしまってごめん」
そう言って去っていく先輩に、かける言葉が見つからなかった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます