scene5 : ミーティングが始まる / 井浦ひよか ☆
◇
「あざすアカネち」
「ん、ペケもジュース入れたるわ。コップ貸しぃ」
「いやもう2杯も飲んだしいーよ」
「……? …結構前から来てたの?」
「いやペケはミーティングとか初めてやから、先に説明だけしとこー思って」
「ふ〜〜ん、そっか?」
今日のところはこれで全員らしい。
朝園は人をダメにするクッションにへたり込んで、俺はオットマンに腰掛ける。
ウッドフレームのソファに三つ編みの初めましての人が座っている。
「ども、鈴木流星っす」
「
「よろしく…二人に合わせてペケって呼ばなくてもいいよ。呼びやすい呼び方でいいよ? 全然」
「いや全然いいんで?」
「鈴木でもいいし、一番呼ばれるのはりゅうせいかな? 遠慮なくりゅ」
「ペケってめちゃくちゃ呼びやすくない…?」
「……………」
「…………………もうなんでもいいよ…それで…」
「璃々ぴ、ペケさんが拗ねちゃった」
「あははっ」
あ〜、もう……朝園が楽しそうにしてたら、まともに拗ねる事もできないじゃん…嬉しくなっちゃうんだって…
井浦さんに向かって茜が「シッシッ」って、端に寄れ、のジェスチャーをした後、そのソファのもう片方にドカッと座った。
「んじゃ、ミーティング始めんで〜」
「はーい」
進行する茜のその口ぶりが
「まずは新メンバー入荷! ペケ!」
「わーー」
井浦さんと朝園がパチパチ拍手してくれて、俺は促されるままに、一応立って挨拶してみる。
「入荷? …鈴木流星です。気軽にりゅうせいって読んでください」
「わーペケー!」
「ペケーー!」
「ペケー!」
「くっ…!」
こいつら……!
でも……朝園が呼び捨てにしてくれたからペケで良かった…!
「ペケ、一応紹介しとくわ。こいつ、ひよか」
「ども〜」
「変態や」
「変態で〜す」
「えぇ…?」
自分で言っちゃうんだ…? おもしろいなこの人…
「同性同士の恋愛しか興味がないよ〜」
「そっ……かぁ………? えっと……………………なんか…まあ…色々あるよね…?」
「いや、紆余曲折なく辿り着きましたが」
「まじか…」
変わってるよ? この人…。
「ねえねえ、ペケくんのペケって、そうゆうことなん? アカネちゃん」
「ん?」
井浦さんはそう言ってニヤニヤしながら茜を見るけど、聞かれた茜も、周りで聞いてる朝園と俺も、彼女が何を言ってるのかピンときてない。
「璃々・茜の間に挟んで…ね…」
「…? …なんや? ペケが両手に花ってことか?」
「いやいやいやんっちがうでしょ〜〜」
「?」
「?」
「?」
何言ってるのかは全く分かってないのに…よからぬことを考えてそうな事だけは分かる。
「まぁコイツのことは放っとこ」
「いやんっ♡」
ああ…やっぱり上手くやれてそう……
「んで……新しくペケが入ってから、初めての活動やな」
「おお…」
「今回の活動やけど、半分はパイセンの方から来た依頼みたいなもんや」
「…パイセンってこの部屋の持ち主の?」
「おう、せやな。またいつかペケにも紹介するわ!」
「え?! そっか〜了解」
「ん。前々からパイセンが言うとってんけど――」
この部屋の持ち主のパイセンってのはつまり、ウチの学校の有名人の先輩で、名前は…
その先輩のセカンドハウスみたいなのがこの部屋なんだよね。
改めて思い返したらマジで不思議な感じだ。有名人の部屋を、しかも本人不在で使わせてもらってるし、俺、面識ないし…。
会ったらちゃんと挨拶しとかないとな…
「――パイセンが、所属しとる事務所から言われとーらしい、ええ原石見つけたら連れてきてな〜て。そんでパイセンがそれをウチらにもよろしく、ゆうて」
「ほえ〜」
「やからそれを今回の活動にする!」
茜は、部屋の隅に置いてあったフリップボードに文字を書きながらそう言い終えると、ボードをくるっと返して膝の上に立てる。
「今回の活動は、『最っ高にかっこええスカウトの演出』や!」
激しいような達筆なような、アカネらしい字でタイトルが書かれていた。
「段取りは……まず、ウチらがスターの原石を見つけるやろ?」
「んで、その原石がちょっとでもタレントとかに乗り気そうやったら…やる! どうゆうふうにスカウトするんか、ってのは、そのスターの原石に合わせて考える!」
「せやな…まあ一応、例えば、こんな感じや。平凡な高校生活送っとるその原石A。ある日いきなり、あの! 有名俳優のパイセンが眼の前に現れて、言うんや!」
「自分才能あるやん、ウチの事務所来いや!!!」(訳 : キミ、才能あるよ。ウチの事務所入らない?)
「ふふっ、あんたが言うと悪い人みたい!」
「ぷふっ!」
「おい! テンション上がるやろ!? めっちゃええシチュやん!」
「分かる分かる! それ最高にテンション上がるよ! はは!」
「パイセンの言い方っぽくやったら、えー。…お前才能あるよ。俺と一緒に来な」
「んは〜〜! ついて行きます!」
「あははっ!はは!アカネの標準語!!あはっ!あはははははっっ!!」
「何を面白がっとんねん璃々お前っ!!」
茜は、クッションに沈み込んで爆笑してる朝園に迫ってブシブシ突いて、朝園は叫びながら笑っていた。
「ええから! ジブンら、はよ原石見つけて来い!!」
「はーい!」
「うーっす!」
「ははっ…はぁ……はーい…」
こうして、俺にとっては記念すべき初めてのクラブ活動が始まった…!
New mission
[ 『最高にドラマチックなスカウトの演出!!』 ]
…スタート!
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