scene5 : ミーティングが始まる / 井浦ひよか ☆


「あざすアカネち」

「ん、ペケもジュース入れたるわ。コップ貸しぃ」

「いやもう2杯も飲んだしいーよ」

「……? …結構前から来てたの?」

「いやペケはミーティングとか初めてやから、先に説明だけしとこー思って」

「ふ〜〜ん、そっか?」


今日のところはこれで全員らしい。

朝園は人をダメにするクッションにへたり込んで、俺はオットマンに腰掛ける。

ウッドフレームのソファに三つ編みの初めましての人が座っている。


「ども、鈴木流星っす」

井浦いうらひよかっす。よろしくペケさん」

「よろしく…二人に合わせてペケって呼ばなくてもいいよ。呼びやすい呼び方でいいよ? 全然」

「いや全然いいんで?」

「鈴木でもいいし、一番呼ばれるのはりゅうせいかな? 遠慮なくりゅ」

「ペケってめちゃくちゃ呼びやすくない…?」

「……………」


「…………………もうなんでもいいよ…それで…」

「璃々ぴ、ペケさんが拗ねちゃった」

「あははっ」


あ〜、もう……朝園が楽しそうにしてたら、まともに拗ねる事もできないじゃん…嬉しくなっちゃうんだって…


井浦さんに向かって茜が「シッシッ」って、端に寄れ、のジェスチャーをした後、そのソファのもう片方にドカッと座った。


「んじゃ、ミーティング始めんで〜」

「はーい」


進行する茜のその口ぶりがこなれている。今までもこうしてきたんだと思うと、なんか置いてけぼりくらってるみたいで、ちょっと寂しかった。


「まずは新メンバー入荷! ペケ!」

「わーー」


井浦さんと朝園がパチパチ拍手してくれて、俺は促されるままに、一応立って挨拶してみる。


「入荷? …鈴木流星です。気軽にりゅうせいって読んでください」

「わーペケー!」

「ペケーー!」

「ペケー!」

「くっ…!」


こいつら……!

でも……朝園が呼び捨てにしてくれたからペケで良かった…!


「ペケ、一応紹介しとくわ。こいつ、ひよか」

「ども〜」

「変態や」

「変態で〜す」

「えぇ…?」


自分で言っちゃうんだ…? おもしろいなこの人…


「同性同士の恋愛しか興味がないよ〜」

「そっ……かぁ………? えっと……………………なんか…まあ…色々あるよね…?」

「いや、紆余曲折なく辿り着きましたが」

「まじか…」


変わってるよ? この人…。


「ねえねえ、ペケくんのペケって、そうゆうことなん? アカネちゃん」

「ん?」


井浦さんはそう言ってニヤニヤしながら茜を見るけど、聞かれた茜も、周りで聞いてる朝園と俺も、彼女が何を言ってるのかピンときてない。


「璃々・茜の間に挟んで…ね…」

「…? …なんや? ペケが両手に花ってことか?」

「いやいやいやんっちがうでしょ〜〜」

「?」

「?」

「?」


何言ってるのかは全く分かってないのに…よからぬことを考えてそうな事だけは分かる。


「まぁコイツのことは放っとこ」

「いやんっ♡」


ああ…やっぱり上手くやれてそう……


「んで……新しくペケが入ってから、初めての活動やな」

「おお…」

「今回の活動やけど、半分はパイセンの方から来た依頼みたいなもんや」

「…パイセンってこの部屋の持ち主の?」

「おう、せやな。またいつかペケにも紹介するわ!」

「え?! そっか〜了解」

「ん。前々からパイセンが言うとってんけど――」


この部屋の持ち主のパイセンってのはつまり、ウチの学校の有名人の先輩で、名前は…鯛津たいづ先輩だったよな。俳優やってて、ドラマとかにも出てるらしい。

その先輩のセカンドハウスみたいなのがこの部屋なんだよね。


改めて思い返したらマジで不思議な感じだ。有名人の部屋を、しかも本人不在で使わせてもらってるし、俺、面識ないし…。

会ったらちゃんと挨拶しとかないとな…


「――パイセンが、所属しとる事務所から言われとーらしい、ええ原石見つけたら連れてきてな〜て。そんでパイセンがそれをウチらにもよろしく、ゆうて」

「ほえ〜」

「やからそれを今回の活動にする!」


茜は、部屋の隅に置いてあったフリップボードに文字を書きながらそう言い終えると、ボードをくるっと返して膝の上に立てる。


「今回の活動は、『最っ高にかっこええスカウトの演出』や!」


激しいような達筆なような、アカネらしい字でタイトルが書かれていた。


「段取りは……まず、ウチらがスターの原石を見つけるやろ?」


「んで、その原石がちょっとでもタレントとかに乗り気そうやったら…やる! どうゆうふうにスカウトするんか、ってのは、そのスターの原石に合わせて考える!」


「せやな…まあ一応、例えば、こんな感じや。平凡な高校生活送っとるその原石A。ある日いきなり、あの! 有名俳優のパイセンが眼の前に現れて、言うんや!」


「自分才能あるやん、ウチの事務所来いや!!!」(訳 : キミ、才能あるよ。ウチの事務所入らない?)


「ふふっ、あんたが言うと悪い人みたい!」

「ぷふっ!」

「おい! テンション上がるやろ!? めっちゃええシチュやん!」

「分かる分かる! それ最高にテンション上がるよ! はは!」


「パイセンの言い方っぽくやったら、えー。…お前才能あるよ。俺と一緒に来な」

「んは〜〜! ついて行きます!」

「あははっ!はは!アカネの標準語!!あはっ!あはははははっっ!!」

「何を面白がっとんねん璃々お前っ!!」


茜は、クッションに沈み込んで爆笑してる朝園に迫ってブシブシ突いて、朝園は叫びながら笑っていた。


「ええから! ジブンら、はよ原石見つけて来い!!」


「はーい!」

「うーっす!」

「ははっ…はぁ……はーい…」


こうして、俺にとっては記念すべき初めてのクラブ活動が始まった…!






New mission

[ 『最高にドラマチックなスカウトの演出!!』 ]


…スタート!



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