scene3 : 朝園との出会いの回想


初めて朝園を見たあの時って、いつだったっけ?

中三の終わり頃の週末か、もう少し後の、中学生でも高校生でもないあの春休みみたいな期間か……そのどっちかだった。


中学の頃の部活のマネージャーと一緒に、用事を済ませた帰りだったな。


二人で帰ってる途中、見かけた女子三人組の中に友達がいて、その友達は五歳ぐらいの妹を連れていた。

その妹ちゃんが、小さい池みたいな所に落ちちゃう時に丁度遭遇したんだ。


で、ずぶ濡れになっちゃった妹ちゃんを抱っこして、急いで友達の家まで連れて帰すのを手伝ったんだよね。


そう。その時。妹ちゃんを抱えて、今から家に向かおうって時。

女子三人の中の一人が言ってくれたんだ。


「気をつけてね」


って。

これが朝園だった。


すげえ綺麗で、優しい人だなって。一瞬で胸が暖かくなったのを覚えてる。

気をつけてねって、なんか…なんかな…すごい嬉しかったんだよな…。


きっかけはそんな些細な事だった。

たったそれだけの事でもう…俺は朝園のことが好きになってしまった。

あの日からずっと…




その…一言二言交わしただけの相手が、何週間かあとには、同じ高校に通う同級生になってた。


俺なんかじゃ上手な接し方すら分からない、繊細で、住む世界の違う遠い存在。

近づくにはあまりにも綺麗で、誰の前でもまるで宝石みたいに完璧で…

ただ、それは裏を返せば、誰の前でも弛めず窮屈な仮面をつけているのかもしれない。


勝手にこんな事考えてるのは、絶対ひかれるから知られたくないけど…それでもたまに考えちゃうんだ。

彼女の心をほどける相手がいるんだろうか、って。


そんな誰かがいて欲しい…そう思うのに、それと同時に、そんな人がいたら羨ましくて仕方ないとも思ってしまう。

俺にそんな権利なんかないしキモいけど、勝手にめちゃくちゃ嫉妬しちゃうと思う。


でもいつか、そんな良い相手が現れるんだろう。

それを、遠巻きに眺めているだけ。


きっとそんな感じのまま、ずっと告白なんてできなかった。


それを変えるには、後悔しないためには、

結局、踏み出すしかない。

それがいつか、なんて、

待ってて報われる、なんて、思ってられない。

そんなのは都合の良いただの幻だ。


夢にもう少しだけでも近づきたいなら………

あいつの強引さのおかげで、俺はやっと決心する。


 気を付けてね――――――


そんな些細な言葉をまた、側で言ってほしくて。




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