scene1 : 中庭 / アカネ ☆


"彼女"を見かけるとき、周りにはいつも誰かがいる。

その誰もが、彼女に精一杯笑いかけて、それに応えるように彼女は優しく微笑み返す。

それは穏やかで楽しそうな、いつも通りの光景。


けど、やっぱりそう。


彼女が人を蔑ろにしているところなんて一度も見たことないのに、

それなのにいつもどことなく… "上手な対応" でやり過ごしているように見えるんだ。

それが胸につっかえて、見ていて苦しくなる。


今もまた同じ。

昼休みの中庭で見かけた数人のグループの中、

いつも通りの綺麗なあの表情に、目が吸い寄せられて―――


「なんや、朝園璃々あさぞの りりでも見とんか?」

「っっっわぁっぇ!!???」


急にきた遠慮ない声量にダサいぐらいビビって振り返ると、肩に手を置けるぐらいの至近距離に、すげえハデな女子?がいた。


さっきまでの俺と同じように 朝園を遠目に見ているそいつは、

その第一印象がもう最悪で…


まず目に飛び込んで来たのは…ドギツい柄物のヤクザみたいなドレスシャツ。捲った袖から浅黒い肌がスラッと伸びて、黒髪頭の後ろをチョイチョイっと掻いていた。


目元には、イカツさの為でしかないようなオレンジ色のサングラス。腕には銀色のブレスレットがジャラジャラ。そんな…マジで誰この人?何で学校に居んの?って感じの女だった。

なんとかビビり切らずにいられたのは、そいつがなんとなく同年代っぽかったから。


「美人やもんなあ……分かるで」


それは俺に言ってるはずなんだけど、こっちに目は向けてこない。俺の反応なんかお構いなしで、そいつはデカい独り言みたいなのを続ける。


「でも普通に告ってもまあ確実にムリやろーな。なんやったらウチが手伝ったろか?」

「え? いや……」

「ん?」


やっと横目でちらっとこっちを見てきて、その強い眼光に気圧される。

というかこの人 今なんて言ってた? 全然聞いてなかった…っていうかそもそも、すげえ普通に話しかけてくるけど初対面だよね?

こんなガラ悪そうな女子(?)に絡まれるような覚えがないんだけど…


「あの………誰……っすか?」

「は?………………………はぁ?………」


やたら驚いた顔をされた。眉間にシワを寄せながらの「は?ありえないだろ何言ってんだカス」みたいな、圧があるその声と表情からして、見た目通りの柄悪女がらわるおんなっぽい…。実は意外と優しい、とかそんなのは無いっぽいっすね…こっわ…。


「は…いやいや、ウチのこと知らんの??」

「し………」

「こんな目立つ格好しとんのに?!うそやろ?!」

「」

「入学して一か月やで?!ウチらタメやねんで?!」


クラスメイトじゃなくても…自分のこと知ってて当然だろ、目立つんだから...ってこと?? 考え方ヤンキー過ぎない?


目の前に回り込んできたこいつの向こう側に、もう朝園は居なくなっていた。その背景すら埋め尽くすようにさらに一歩つめてくる目の前の女だけど…半ギレ…


「そ…」

「この服見てみい!ずっとこんな感じで学校来とったでウチ!!名前知らんだけならまだしもやなぁ…」

「ちょっ」

「あぁ、うち ”アカネ” な」

「こ…」

「あ~~~! 萎えた! ショックやわ!」


その勢いとは裏腹に、ちょっと、本当に悲しそうに溜息を吐いていた。

なんでそんなにショックなのかは謎だけど、ヤンキーにはヤンキーの価値観が…あるのか?


「放課後、家庭科室な…」

「はぇ………え、待てよ!」

「あ〜あ!…っっはぁ~~………」


背中を向けたアカネは、右腕をひたいにあてて呻きながら歩いていく。

ざくざく人工芝を踏み鳴らしながら。


「ぇぇ……………行きやがった。なんだよそれ……」


同級生にあんなヤバい女子いたのかよ…

あんな…嵐みたいな奴ってマジでいるんだ……

っていうか…


「こっちにも喋らせて……」


あまりにも勢いがある出来事に、その後しばらくは呆然として動く気になれなかった。





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