第6話

お嬢ちゃんに夢を見させてあげるよ

しゃがれた声が聞こえてきた。

最初の扉を開けると、そこは海だった。


趣味のスキューバダイビングを通じてママはね、お父さんと出会ったんだよ。どこからか男の子の声が聞こえてきた。それは初めて聞く声だった。

ママはね、お父さんに一目惚れだったんだよ。ほら、ママの笑顔が太陽のようにキラキラと輝いているでしょう。


次の扉を開くと、そこは灰色の空と雨だった。

お父さんは女の人にモテモテ。ママがいるのに、いろんな人と遊んでいた。

ママがお父さんを問い詰めると、誰のおかげで暮らしていると思っているんだ。自分が稼いだ金をどう使おうが勝手だろう。開き直り。改心することはなかった。

なんで彼の心は私から離れてしまったのだろう。

ママは自分を責め、いつも、いつも泣いていた。

あれれ?弁護士さんって、弱いひとの味方じゃないの?違うの?


キャハハ。バッカじゃないの。

旦那の心が離れた理由も分からないなんて。

私のほうがいいからに決まってるでしょう。

あの人の声が大音量で流れていたから、次の扉を開ける勇気が出なかった。

いいよ、開けなくても。

僕もかいじゅうのたちの声を聞きたくないから。

クスクスと笑い声が聞こえてきた。


最後の扉を開けると、そこは真っ暗な闇がどこまでも続いていた。

「赤ちゃんがお腹のなかにいるの。お願いだから助けて!!」

「あら変ね。彼の赤ちゃんはここにいる私のベビーだけよ。あなたはもう用済みなの。愛されていないのよ、それも分からないの?安心して、私が彼を幸せにしてあげる。長い間、ご苦労様でした」

「いや、止めてーーー!」

「早く殺してよ。私とこの子だけを愛しているって言ったわよね?」

ぬっと現れたのはお父さんだった。

その手にはナイフが握られていた。



ふふふ。

一人の男の子が後ろで手を組んで私の前に姿を現した。膝から下はよく見えない。ふわふわと宙に浮いていた。

目は血のように真っ赤だった。

「ネズミのお母さんとくるみ割り人形は長い長い間、ずっと戦ってきた。でも、戦いを止めて、同盟を結んだんだ。ママと僕を殺し、庭に埋めた二人に復讐するために。そしてきみを守るためにね。おばあちゃんを守ることが出来なくてごめんね」

「もしかして、きみは、あーちゃんなの?」

思い出した。

お母さんのお腹には赤ちゃんがいたんだ。失踪する前日、男の子だって分かってすごく喜んでいた。

「思い出してくれてありがとう」

男の子が恥ずかしそうにもじもじしながらお姉ちゃんって呼んでくれた。


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