第27話 俺、家族に会う
今のはすべてユリアナの記憶……いやユリアナの父親の記憶と言った方が正しいのかもしれない。
「父上が……それにシンシアが」
動揺し塞ぎ込むユリアナ。
冷たくあしらっていた父親こそがユリアナ自身を――娘を一番に考えていたのだと知ったのだ。
俺は優しく彼女を抱き寄せ、軽く頭を撫でた。
「落ち着けユリアナ。お前の父親はシンシアから守ろうとしていた。だから勇者と戦わせ敗北という結果を作り、あえて奴隷へと落としたんだ」
「でも……それならいっそシンシアに殺されていた方がよかった。私がどれだけ奴隷としてひどい目に――」
「だがな、記憶を見た限りそれ以外の方法がなかったんだろう。勝手ながら俺はお前の父親からお前を託されたと思ってる。だからせめて幸せになるために生きろ」
でも、これで納得はできた。
学園長が妙にユリアナに勝利することにこだわっていた理由が。
まさか、その父親からの頼みだったとは。
よくもまあ、学園長は状況を上手く利用してくれたもんだ。多分、こいつは使えると思ってのことだったんだろうけど、すべて手のひらで転がされていたとは。
「ごめん、わたし……戻るね」
「ああ今日はもう休め。心の整理もあるだろうから」
「……じゃあまた明日」
ユリアナは大樹の元に戻って行った。
しかしさっきの現象は何だったのか?
あの大樹が輝き出した途端に記憶を見せるあの光に呑み込まれた。この大樹、前々から思ってたけど予想を遥かに超える力を持ってるんじゃ?
魔物や動物を寄せ付けない力、ある人物の記憶を見せる力。もうこの世の物とは思えない。
どちらにせよユリアナにはよかったのかもしれない。
本当の真実を知れて。
それにシンシアには少し違和感を感じた。
ユリアナには一応、他の策はなかったのだと言った。落ち着かせるために。
だがどう考えても他にも対処法はあったはず。
勘当するなり、最悪家名に傷が付くとして監獄送りにでもできたはずだ。
なのになぜしなかった。
あまり考えたくはないが、俺と一緒で転生者だったり、それとも転移者か? 何らかの特殊なスキル、魔法なんかで……まあ、考えても仕方ないか。
まだまだ推測の域だし。
俺もしばらくして大樹の元へ戻った。
相変わらず姉ちゃんは大きないびきをかきながら爆睡している。
その隣にはユリアナが星空に手を伸ばし涙を流していた。
今はそっとしておこう。
そして俺は姉ちゃんの顔を眺めながら眠りに就いた。
*
朝になった。
俺は予定通り支度を始めていると、姉ちゃんがようやく目を覚ました。
「あれ、ネオ君どこに行くの?」
「そ、それは……」
「もしかしていかがわしいお店に!」
「うん、そうだな」
「ネオ君本当にどうしたの?」
昨夜、必ず言うって決めたはずなのに。
いざ言おうとすると声が出ない。
「ネオ、はっきり言うのよ」
「まさかネオ君、元の家族の場所に……? そんなわけないよね。今までお姉ちゃんが育ててきて、確かにお父さんを操ったのは悪いと、思うけど……」
「違うんだ姉ちゃん。せっかくの長期休暇だし家族に挨拶を、と思って。あと俺が成長した姿を見せたくて」
「そう、なんだ……お姉ちゃんここで待ってる。待ってるからね」
「行ってくる」
俺はその一言だけ残して、姉ちゃんを置いてあの屋敷に向かった。ここから徒歩でしばらくかかるはずだ。
実の姉セレシアが俺を捨てたあの時、屋敷から大樹までは馬で移動して数十分はかかっていた記憶があるからだ。
「休みながら行こう」
「ネオ君待って!」
後ろから俺を呼ぶ声が聞こえた。
振り返ると、姉ちゃんが走って追ってくる。
なぜだろう、と考え首を傾げると、
「お願い! お姉ちゃんも連れて行って!」
「どうして姉ちゃんが……?」
「あの時のこと謝りたいの。だから――」
「わかったよ。肩身が狭くなっても知らないからな」
というわけで、俺と姉ちゃんは合流した。
ユリアナはというと夜更かしをしていたせいもあってか、未だに寝ているようだ。起こすのも申しわけないし、そのまましてたけど、姉ちゃんすらもユリアナに声一つかけなかったとは。
置いていかれたと知ったら怒るだろうな。
「ごめんなユリアナ」
「何がごめんよ、謝るなら最初から声をかけてよね」
まさかのまさかだ。
姉ちゃんのパターンと一緒だった。
声が聞こえたから振り向くと、やっぱりそこにユリアナがいた。
「姉ちゃん起こしたのか?」
「ううん」
「だったらどうして」
「二人がいないことに気づいて……わたしはちょっと前まで奴隷だったのよ。それなのに置いて行ってしまうって不安にもなるじゃない」
普段ツンツンしてる中にも華がある、そんな感じだ。
ほんと可愛いやつよの。
もうこれはずっと俺の側に置いておかないと。
そんなしょうもないことを考えていると、林道の片隅に破壊されボロボロの荷馬車が見えた。
中を確認するも、物資はおろか空っぽの状態。
でも不自然だ。こんなところに荷馬車を捨てるなんて。
「姉ちゃんこれって」
「うん、襲撃されてるね」
だよな。俺の頭によぎったのもそれだ。
「二人とも気をつけて進もう。野盗が近くにいるかもしれない」
姉ちゃんとユリアナは首を縦に振った。
真っ直ぐ林道を進み続けると、息を荒くした騎士たち、そして小さな屋敷が見えた。
門に近づくと、一人の騎士が俺たちに刃を向けてきたのだ。
「何者だ。ここはリーズウェル家の屋敷であるぞ」
「俺はネオ。ただの王立ブロッサム学園に通う学生だ。で、隣にいるのが姉ちゃんのリリス。後ろにいるのがユリアナだ」
「で、何用でこちらに?」
「俺の母さん、フィアに会わせてくれ」
「ふざけたことを。奥様にご子息がいるなど聞いたことが――」
「あ、ああまさか……そんな生きてた。本当に生きててくれた」
騎士の言葉を妨げ、屋敷から出てきたのは紛れもなくあの時の美人ママで俺の母さん――フィアだった。あれから十年以上経ってるのに、姿はまったく変わっていない。色白い肌、茶色い髪、それに香水の匂いもあの時のままだ。
「母さん、俺だよ」
「わかるわ、あなたを産んだのはわたくしよ」
そう言って微笑んだ母さんは俺を抱き寄せた。
いざ話そうとしても、何を話したらいいのかわからない。というより思い浮かばない。
「わたくしが名前を付ける前に……あんなことになってお父さんもすごく後悔していたわ。何であんなことしてしまったんだってね」
「それにはちゃんとわけがあって。それの説明も兼ねて今回ここにきたんだ」
「そうだったの? で、そちらの女性の方々は?」
「紹介がまだだった」
俺は姉ちゃんが育て親として赤ん坊の頃から面倒を見てくれたこと、ネオという名前を付けてくれたこと、それに姉ちゃんが何者であの時のなぜああなったのか包み隠さず説明した。
話を聞いて最初は驚いた様子を見せていた母さんだったが、納得したうえで俺たち三人を屋敷に迎えてくれたのだ。
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