第62話062「タケルの告白」



「とりあえず、そのデスマスクは外せ。相手の表情が見えないまま喋るのは好かん」

「あ、はい」


 ということで、俺はデスマスクを外し、櫻子ちゃんと対峙する。


「ふむ。それでよい」

「な、なんか、ずっとマスクつけていたから顔を晒すのがちょっと恥ずかしい(ポッ)⋯⋯って、ぬおっ?!」


 ブオンっ!


「ま、待て待て待てっ?! 今のはガチの反応だから!」

「何? そうなのか? まーでも、それはお主の普段からの行いによる代償のようなものじゃ。まぎらわしいリアクションを取ったお前が悪い」

「ええぇぇ⋯⋯」


 しどい!


——閑話休題


「あ、そうだ! まずちょっと確認したいんだけど、櫻子ちゃんってさ、ぶっちゃけ俺がいた異世界あっちの住人だよね?」

「そうじゃ」


 あら、あっさり。


 隠す気は無いようだ。


「あ、えーと⋯⋯しかもエルフ族の族長さんだよね?」

「そうじゃ。さすがじゃの」

「いやいや、そりゃ気づくよ。だって『空間転移ジャンパー』は、異世界あっちのエルフ族の族長だけが持つユニーク魔法だもの」

「⋯⋯そうじゃな」

「!」


 そう言って、フッと憂いを帯びた笑みを浮かべる櫻子ちゃん。


「櫻子ちゃん?」

「ワシのことを話してもいいが、まずは先にお前の話から聞かせてもらえんかの⋯⋯」

「俺?」

「ああ。とりあえず、さっきのお主の話でワシと同じ『異世界あっちにいた』ことはわかった。じゃが、それ以外のことはまるでわからんからの。そもそも、お主⋯⋯一体何者なんじゃ?」

「いや、何者と言われましても⋯⋯」

「ふむ。では、改めて聞き直そう。⋯⋯F級探索者シーカーになったばかりでありながら、いきなり新宿御苑ダンジョン49階層『下層最深部』まで行き、そこの階層ボスよりもはるかに強い70階層以降に出現するといわれている都市伝説オカルトレベルな存在だった『喋る魔物』に対して、この世界には存在しない『魔法』を使い、さらには、その『喋る魔物』を圧倒したお主は⋯⋯何者じゃ?」

「あ、う⋯⋯」


 ぐうの音が出ないほど、具体的に詰められた。


「あー、えっと⋯⋯あれ? どう説明すればいいんだ?」

「は?」

「いや、その時間の前後というか⋯⋯」

「時間の⋯⋯前後?」

「えっと⋯⋯まず当時の俺・・・・は5年前に交通事故に遭って死んだんだが、その時女神によって命を救われて、その後櫻子ちゃんのいた異世界に転移させられたんだよ」

「いまの俺? 異世界に転移? ていうか女神⋯⋯じゃと?!」

「で、異世界あっちに行くと俺は魔王討伐のためにその世界の国の王様に『勇者』として異世界召喚されたという状況だった。で、それから5年後⋯⋯魔王を倒した」

「魔王⋯⋯? ま、魔王ベガをかっ!?」

「⋯⋯はい」

「? どうした?」

「あ、いえ⋯⋯すみません。えっと⋯⋯話の続きですね。で、その後、また女神が現れて『異世界に留まるか、元の世界に戻るか』の選択に迫られて、それで俺は自分がいたこの世界に戻ってきた。ただ、その戻った元の世界は俺が異世界に転移するきっかけとなった5年前の交通事故の現場だった。それが⋯⋯いま・・

「ちょっ?! ちょっ⋯⋯ターイム!!」


 おーっと。ちょっとタイムコール!(※そんなの無い)


「? どうした?」

「あ、あまりにも情報量が多過ぎで整理が追いつかん!? えーと、まずお主は女神によって異世界に召喚されたと言ったがその女神とはもしかして『女神テラ様』か?」

「はい」

「なんとっ!?」


 グシャビチョ女神こと『女神テラ』は異世界で多くの種族に信仰されている神で、特に俺たち人間は異世界あっちでは『人間族』という種族になるが、その人間族にとって女神テラは『唯一神』として全ての人間族の国で信仰されていた。


「しかし、女神テラ様はどうしてお主をワシらの世界に⋯⋯?」

「女神の話だと、いじめられていた当時の俺に対する同情と、あと、交通事故に遭った経緯が結果的に人助けになったんだけどそれを聞いてえらく感動したらしく、それで『超絶ハイスペック主人公としてやり直して人生って素晴らしいという経験をしてほしい』と言って俺を強引に異世界へ転移させたんだよ」

「ちょ、超絶ハイスペック主人公? それはつまり⋯⋯ワシらの世界に転移したお主は女神から『特別な力』を授かったという意味か?」

「まーそんな感じだ。現代ここでいう『チート』ってやつだ」

「ああ⋯⋯なるほど」


 むぅ⋯⋯『チート』を知っているか。


 やるな、元エルフ族族長。


「あと、お主の話では⋯⋯異世界に転移して5年の月日が流れたと言っていたが、しかし、こっちに戻ってきたいま・・は、お主からすると『5年前の世界』⋯⋯そういう認識で合ってるか?」

「ああ、合ってる」

「ふむ。ということはお主は今高校2年生で17歳じゃが、本当は22歳ということになるのか」

「ああ、そうだ」

「にしては、だいぶ行動が子供過ぎじゃ。このバカチンが!」

「ええぇぇ〜、そんなことないですぅ〜」

「あるわい! 何も考えずに『魔法』をぶっ放すのが何よりの証拠じゃろうが!!」

「いや〜別に『オメガ』としてだったら問題ないかな〜って」

「大アリじゃ!」

「何で?」

「『魔法』の存在が知られると、それを軍事利用される恐れがあるからじゃ」

「え〜? でも、それを言ったら現代の『スキル』も同じじゃね?」

「全然違う。この世界の『スキル』は『体内魔力』がエネルギー源じゃが、『魔法』のエネルギー源は『周囲の魔素マナ』じゃ。じゃから、もし『魔法』を使える者がいたらそいつを捕まえていろいろと実験や研究をしたがる奴が出てくるじゃろう」

「え? 嘘?」


 やだ、怖い!


「そうなると、いずれ『魔法』のエネルギー源が『周囲の魔素マナの取り込み』とわかる。そうなれば世界の覇権を握りたい不埒な輩どもが、一斉にこの『魔素マナの取り込み方』を見つけるための研究を加速させるじゃろう。そして、その仕組みが解明されれば『体内魔力が大したことない者』または『まったく無い者』⋯⋯つまり、一般人でも『魔法』が扱えるようになるじゃろう。そして、それはつまり⋯⋯一般人を『魔法使い』という『兵器化』することができるということじゃ」

「!⋯⋯な、なるほど。それが櫻子ちゃんが最初に言ってた『軍事利用』というやつか」

「そうじゃ。ただでさえ、現状でも『スキル』を扱える探索者シーカーは『甘い汁』や『弱み』を握られて『軍事利用』されたり、犯罪組織の兵器利用されたりという話は後を経たない。まして、それが『魔法使い』ともなれば、その兵器化・軍事利用が一般人にも広がるから影響はより深刻じゃ」

「⋯⋯」


 なるほど。『魔法』が世間にバレるということがいかに『やばいこと』なのか、よ〜くわかりました。


 つまり『魔法が使える存在が実在する』と知られれば、国レベルで『オメガ』の正体を徹底的に探りにくるし、その正体が『結城タケル』とわかれば『実験体』として遠慮なく拉致りにくると⋯⋯櫻子ちゃんはそういうことを言っているのだろう。


「これまでの俺って結構やばかったんですね。櫻子ちゃんが本域の掌底を放つのもよくわかりました」

「そうか。お主がちゃんと理解してくれたようで何よりじゃ。反省したかの?」

「あい、とぅいまて〜ん!」


 ブオンっ!

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