第39話039「オメガ2回目配信前日譚」



——タケルがオメガ完全体として2回目の配信を行った前日(金曜日)


「佐川⋯⋯ちょっといいかしら」

「え? 俺?」

「佐川って言ったでしょ!」

「あ、いや、まぁ、そうなんだけど⋯⋯」

「何よ?」

「だって、雨宮がタケルじゃなくて俺に声をかけるなんて思ってもみなかったからよ。しかも、こんな朝っぱらから⋯⋯道端で」


 金曜日の朝——学校に向かって歩いていると横に黒塗りのロールスロイスが止まり、窓が開くと中から雨宮が声をかけてきた。


「他の生徒に見られるのはマズイからとりあえず乗ってください」

「は?」

「いいから! ちょっとあなたに協力して欲しいことがあるのよ」

「協力?」

「だから、早く乗り⋯⋯乗れぇぇっ!!」

「おわっ?!」


 突然、ドアを開けた雨宮が強引に俺を車内へと引き摺り込んだ。


 え? 何これ⋯⋯怖い。



********************



「で、話って?」


 俺は今、雨宮と一緒に屋上にいた。ていうか、雨宮がどうして屋上の鍵を持っているのかは謎だ。


「あなた⋯⋯タケル君がF級探索者シーカーになったのは知っているわよね?」

「え? あ、ああ」

「実はそのことなんだけど⋯⋯まず結論から言うわ。あの炎上しているDストリーマーオメガだけど、彼⋯⋯タケル君の可能性が高いの」

「⋯⋯」

「あら、驚かないのね? もしかして気づいていたの?」

「一応⋯⋯な。でも昨日タケルに聞いた時は否定していたけどな」

「そうですか」

「しかし、雨宮がそこまで言うんだ。何か見つけたのか?」

「ええ。実は昨日うちの開発室でタケル君がオメガである可能性がすごく高いって話になったの。で、その根拠の一つがオメガが配信で『今日が初めての配信』だとか『今日F級探索者シーカーの登録証をもらってきた』って言ってたでしょ?」

「ああ」

「で、昨日私タケル君に『タケル君が探索者シーカーになったって話を聞いたけど本当?』って聞いたらタケル君が『一昨日おとといの土曜日に登録したばかり』って言ったの」

「一昨日の土曜日? それって⋯⋯」

「ええ。オメガが配信した日よ。そして、オメガもまた配信した土曜日に『今日F級探索者シーカーの登録証をもらってきた』と言っていた。つまり⋯⋯」

「オメガとタケルはF級探索者シーカーの登録証をもらった日が同じってことか」

「そう」

「でも、これだけでオメガとタケルが同一人物であるという証拠にはならないんじゃないか?」

「ええ。だから⋯⋯あんたにもオメガとタケル君が同一人物であるかどうかの確証を得るための協力をして欲しいの」

「それはいいけど⋯⋯でもどうやって?」

「私に考えがあるの」



********************



「え? オメガの衣装?」


 朝、学校に行くと佐川がそんな話をしてきた。


「ああ。オメガの配信観てて思ったんだけどさ、あれだけの実力者だったらもっと衣装にこだわって欲しいなって思ってよ」

「ふ、ふ〜ん⋯⋯?」

「ほらオメガって謎の探索者シーカーって感じだから、もっとミステリアスな格好が良いと思うんだよ。例えば『正体不明、謎の暗殺者アサシン』みたいな?」

「ほうほう」


『正体不明、謎の暗殺者アサシン』⋯⋯いいじゃない。


「あと衣装とかは全身黒装束とかにして⋯⋯あと仮面とかも良いんじゃないか? アニメとかでも謎の人物ってそういう格好するじゃねーか」

「ふむふむ」


 佐川のくせに中々鋭いこと言うじゃないか。ちょっと見直したぞ、さがえもん。


「おはよう、タケル君」

「あ、おはよう。理恵たん」

「おーちょうどいいや。雨宮、お前の意見も聞かせてくれよ。オメガの衣装の話なんだけどよぉ⋯⋯」


 そう言って、佐川が理恵たんに説明する。すると、


「いいんじゃない?」

「え? 本当?」

「うん。オメガって何か謎の人物って感じするからそういう格好⋯⋯似合うんじゃないかしら?」

「女子的にも良いと思う?」

「うん。格好良いと思う」


 ズキューーーーーーン!


 マ、マジでかぁぁ?!


「そ、そう⋯⋯なんだ?」


 これは良いことを聞いたぞ!


 佐川の提案というのが少し癪ではあるが⋯⋯しかし、理恵たんが一つ返事で「格好良い」っていうなら、それはつまり女子受けも良いってことになる! つまり配信的にもプラスということ!


 はい、採用。


 ということで、俺は放課後、早速『黒装束』と『仮面』を探しに『激安の殿堂』へとダッシュ。めでたく目的のブツをゲットした。



********************



——次の日 オメガちゃんねる配信中


 佐川も雨宮も自宅でその配信を観ていた。そして、


「マジでタケルじゃねーか?!」

「本当にタケル君だった?!」


 佐川と雨宮がオメガとタケルが同一人物かどうかを確かめるために考えた『もしも、タケルにオメガの衣装を提案して、その衣装をオメガが着たら同一人物作戦』は見事成功した。


「そ、それにしても、タケルの奴⋯⋯バカか? 昨日衣装の話をして次の日即採用したらバレバレじゃねーか! どんだけチョロいんだよ、こいつ⋯⋯!」


 佐川が配信を観ながらあまりに警戒心ゼロのタケルにつっこむ。


 こうして、オメガの正体がタケルであることが二人にすぐに知られてしまうのであったが、実はもう一人・・・・——オメガの配信を観てタケルがオメガであることを知ることとなった人物がいた。


「え? こ、このオメガの格好って⋯⋯昨日のタケル兄ぃの⋯⋯!」


 その人物は『タケル兄ぃウォッチャー由美』。


 昨夜、タケルが部屋で『激安の殿堂』から帰ってきて部屋にこもり、衣装を着てはしゃいでいた様を5台のWebカメラで鑑賞していた妹の由美だった。


「ま、まさか、タケル兄ぃが⋯⋯Dストリーマーオメガだっただなんてっ!?」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る