第37話037「雨宮バリューテクノロジー『開発室』にて〜如月 柑奈〜(2)」
「タケル君?」
ふと、無意識に私の口からタケル君の名前がボソッと出た。すると、その言葉に即座に反応した柑奈さんが私の肩をガシッと掴む。
「誰かな? その
スイッチが入りキマりまくった顔で柑奈さんの尋問が始まった。こ、怖い⋯⋯。
「あ、え、え〜と、私の通っている高校の生徒で⋯⋯」
と、はぐらかそうとしたが、
「ううん、そういうことじゃない。そういうことじゃないことくらいわかってるよね、お嬢? 私が何を聞きたいのか、聞いているのか、鋭いお嬢ならわかるよね?」
あ、ダメだ。この状態の柑奈さんをはぐらかすなんて絶対に無理。ということで、私はあっけなく「この間命を救ってもらった男子生徒」の話をした。
「ああ、あの彼か。それがそのタケル君って子? フルネームは?」
「結城タケル⋯⋯君」
「ふ〜ん。まーでも、彼も災難だったよね」
「災難?」
「だって、あの時彼が助けなくても、すでにD級
「そ、それは⋯⋯っ?!」
「うん、大丈夫だよ。そこで言葉が詰まるってことは私の言葉に『同意』してるってことだよね。大丈夫だよ。それは事実だから」
いや、たしかにそうなのだけれど、でも、そんな身も蓋も無いようなこと言わなくても⋯⋯無駄か。この今の柑奈さんには。
「で、そのタケル君の名がどうしてそこで出たのかな?」
「あ、いや、ただ、そのオメガって人が何となくなんですけど、タケル君に似てるかな〜って。あ、でも、別にそんなことは全然なくて⋯⋯。そもそもタケル君が
「⋯⋯ふ〜ん、そうなんだ。でも、似てるんだ、
「な、何となく⋯⋯」
「いやいやいや、こんなときの女の勘って意外と的を射ているもんよ? じゃあついでだから、彼が
「そ、そんなことして大丈夫ですか?!」
「大丈夫よ。足跡残すようなことは絶対にないし。ということで、え〜と、まずは結城タケル君だったわよね。結城⋯⋯タケル⋯⋯と」
「あ、あの、柑奈さん? タケル君はたしかに私を交通事故から救いましたけど、彼が
「あったわよ?」
「え?」
観ると、PCモニターに映し出された日本ギルド本部の『
********************
「そ、そんな、まさ⋯⋯か⋯⋯?」
私が目の前の事実にただただ困惑していると、
「あ、お嬢、見て、見て! ほら、その彼⋯⋯結城タケル君だけど、
「え、今日?!⋯⋯本当だ」
「ちょっと、ちょっとぉ〜! これってお嬢、本当に『当たり』を引いたんじゃない?!」
柑奈さんがテンションMAXで私に詰め寄る。
「わ、わかりませんよ?! た、たしかに、今日
「む? まぁ、それはそうなんだけどね〜」
たしかに、タケル君が
「まぁ、少なくともそのタケル君が
「で、でも! も、もしかしたらこのタケル君って同姓同名の別人かもしれないじゃないですか?!」
「いや〜、それはさすがにないでしょ〜? だって、お嬢と同じ学校じゃない?」
「そ、それでも、同じ学校にいる同姓同名の人物かもしれないじゃないですか!」
私はそういって柑奈さんに強く抵抗した。
あれ? でもなんで? なんで私は『タケル君がオメガと同一人物じゃない』と強く主張したいのだろう?
「お嬢? どうして、お嬢はタケル君とオメガを同一人物であることにそこまで抵抗するの?」
「っ!?」
柑奈さんに見抜かれた!
「たぶんだけど、お嬢はそのタケル君があの憧れのオメガと同一人物だと認めるのが怖いんじゃない? だって、もしそうだとしたらこれからタケル君とどう接すればいいかわからなくなるから⋯⋯そうでしょ?」
「⋯⋯」
「そこで黙るということは『肯定』ということね」
「で、でも、本当に彼がオメガと同一人物というのはさすがに飛躍しすぎだと思います! そもそも
「まぁそうね。でも、高校生ですでにD級
「〜〜〜〜っ!?」
言葉にならない叫びを心で上げる私。
「それじゃ、まずは一つ一つ確認していきましょ!」
突然、柑奈さんがそんなことを言い出した。
「まずは、お嬢は明日学校でその結城タケル君に『F級
「え? ええええええっ!!」
「頼むわよ、お嬢。もし彼が本当にF級
「次?」
「そう。彼がもし
「っ!? で、でも、さすがに、いつ登録したかなんて、そこまで聞けるかどうか⋯⋯」
「わかっている。だから今はとりあえず『
「い、一体、どうやって⋯⋯?」
「フフ⋯⋯それはね」
そういうと、柑奈さんが耳打ちしてきた。
「そ、それって、タケル君を騙すみたいで、何だか⋯⋯」
「いやいやいや、そんなことないよ、お嬢! だって、それは
「で、でも⋯⋯」
「大丈夫、お嬢ならできる! それに⋯⋯あなただって確かめたいでしょ? 彼がオメガなのかどうかを?」
「そ、それは⋯⋯」
結局、私は柑奈さんの案に乗った。
********************
——現在(学校屋上)
「と、とりあえずは、タケル君が
聞きづらいと思っていた『登録日』を向こうから教えてくれたのは『嬉しいサプライズ』だった。
「こ、これで、あとやることは⋯⋯」
そう、柑奈さんに教えてもらった『オメガとタケル君が同一人物であるかどうか』を確かめる方法を試すだけである。
「で、でも、タケル君をハメるような形になることを考えると、すごく申し訳ない⋯⋯のだけれど⋯⋯」
でも、やっぱり⋯⋯私はタケル君が本当にオメガなのかどうなのかを知りたい!
「⋯⋯が、頑張ろう」
私は一人静かに決意した。
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