第26話026「新宿御苑ギルド<日本ギルド本部>」



——世界探索者シーカーギルド協会日本支部『ギルドマスター室』


 そこに一人の幼女が、まだお昼だというのにひなあられをポリポリやりながらクイッとウイスキーを飲み干す(※成人です。100歳越えです)。


「ふぅ、まさか彼奴きゃつが『スキル:偽装(極)』を使っていたとは⋯⋯」


 そう言って、空になったグラスにウイスキーをさらに注ぐ櫻子。


 彼女は授与式が終わった後、櫻子は急ぎ自身のホームであるここへと戻ってきていた。


「洋ちゃんにも東堂にもワシの動揺ぶりはバレてたじゃろうな〜」


 とはいえ、さすがのワシでもあの驚きを隠すことはできなんだ。


「それにしても、当初は洋ちゃんや東堂が言っていた将来有望な探索者シーカーという話を聞いて、面白半分で会いに行っただけじゃったが、まさかその将来有望という探索者シーカーこの世界に存在しない・・・・・・・・・・『スキル:偽装(極)』を使っていたとは⋯⋯」


 この世界にも『スキル:偽装』というスキルは存在するが、『スキル:偽装(極)』というスキルは現代ここにはない。ワシのいた異世界あっちにしかないスキルじゃ。


「じゃからこそ、ワシの異世界あっちの『スキル:看破(極)』が反応したのじゃが、そうなると彼奴はこの世界の人間じゃないどころか、ワシと同じ世界の住人だと言える」


 しかし、一体どうやって?


「ま、まさか! 異世界と現代ここを行き来できる何かがすでにあるということなのじゃろうか?!」


 い、いや、そんなはずはない。ワシは常に全世界に監視網を敷いている。そんなのが発見・出現すれば何らかの報告があるはず。


「いずれにしても、結城タケルに一度会って話を聞く必要があるのは確実じゃな」


 そう言って、櫻子はクイッとウイスキーを飲み干した。



********************



「おお、ここが新宿御苑にある『世界探索者シーカーギルド協会日本支部』かー!」


 さきほどの駅近のハンバーガーショップを出たあと、俺は『激安の殿堂』でサングラスとマスクを購入し、そのままの足で新宿御苑ダンジョン近くにある『世界探索者シーカーギルド協会日本支部』へとやって来た。


 新宿御苑ダンジョンは日本にいくつかあるダンジョンの中でも最深階層を誇るダンジョンで、現在100階層まで調査が進んでいる。


 ちなみに新宿御苑ダンジョンと同じような最下層がわかっていないダンジョンは世界中にいくつか存在しており、それらはすべて新宿御苑ダンジョンと同じ100階層までしか踏破されていない。


 理由は、101階層から魔物の脅威が跳ね上がるため、世界屈指の実力⋯⋯A級やS級探索者シーカーや、それら探索者シーカーで組織された『クラン』を持ってしても、いまだ101階層の魔物に対応できず、結果その先の調査が進んでいないという現状だった。


「それにしても、探索者シーカーギルドといっても世界探索者シーカーギルド協会日本支部自体が新宿御苑のギルド業務を兼任するだけあって建物も立派だな〜」


 この新宿御苑ダンジョンは日本に初めて出現したダンジョンで、しかもダンジョン資源も豊富に取れるダンジョンということもあり、ここを管轄しているのはなんと『世界探索者シーカーギルド協会日本支部』なのだ。


 そのため、ギルド内の設備も規模も人材も他と違って優秀な人材が集まっているらしく、世間一般的に『日本探索者シーカーギルドの総本部』という位置付けがされていた。


 ちなみに、この新宿御苑のギルドの正式名称は『世界探索者シーカーギルド協会日本支部兼新宿御苑ギルド』だが、単純に長ったらしいのと『日本探索者シーカーギルドの総本部』という意味合いも込めて『日本ギルド本部』と呼ばれている。


「フフフ、なるほど。俺の初陣にふさわしい場所だな。気合い入ってきたぜぇ〜!」


 俺は内なるやる気の炎をボウボウ燃やしつつ、中へと入って行こうとした時、


「はい、は〜い。ストップ、ストップぅ〜。君、学生?」


 中に入ろうとした俺を止めるちょっとコワモテのお兄さん。


「え? あ、はい。魁星高校に通う2年生で、今日からF級探索者シーカーになった者です」

「え? そうなの? ていうか高校生なのか、すごいな!」


 お兄さんが手放しに褒めてくれた。うん、そういうのすごい欲しがりです。


「俺はD級の葛西ってもんだ」

「ど、どうも。結城タケルです」


 見た目、20代前半のその男はコワモテではあるものの話すとかなり気さくなお兄さんだった。


「ところでお兄さんは入口で何をやっているんですか?」

「俺? 俺は今バイト中だ」

「バイト中?」

「おう。今、ちょっと腕ケガしててよ。それでここで警備のバイトをしてるんだよ。お前みたいな学生や資格を持たない一般人が興味本位でギルドやダンジョンに入っていかないようにここで警備しているのさ」

「なるほど」


 ふ〜ん、探索者シーカーってダンジョン探索やダンジョン配信以外でもこういったバイトみたいなものもあるんだな〜。


「結城君はこれからF級ダンジョンに入るのかい?」

「はい、探索者シーカー養成ダンジョン以外のダンジョンが見たかったので、ちょっと見学も兼ねて⋯⋯」

「そうか、そうか。良い心がけだ。最初のうちはそうやって慎重に情報集めるのがいいぞ。F級は新宿御苑ダンジョンここだと9階層の『上層』まではギリギリ探索できるはずだ」

「あ、ありがとうございます!」

「でも、無理しちゃダメだぞ。特に最初のうちは無理せず安全マージンをかなり取っとけよ。そうだな〜、5階層でキツイと思ったらそこでしばらくは地道に探索した方がいいぞ」

「あ、ありがとうございます。勉強になります」


 お兄さんがいろいろと為になるアドバイスをしてくれた。すごい良い人だ。


「あ、ダンジョンに入る前はちゃんと受付でダンジョン探索の申請しろよぉ〜。受付せずに入ったら不正侵入と疑われて最悪罰金10万円だからな」

「じゅ、10万っ! 申請するの忘れただけでそんなに取られるんですか?!」

「ああ。ダンジョンの入退場は特に厳しいからな。気をつけろよ」

「は、はい、わかりました。いろいろとアドバイスありがとうございます!」

「おう、いいってことよ。そのまままっすぐ行けば突き当たりに受付があるからそこに行きな」

「わかりました。いろいろとありがとうございました」

「おう、頑張れよ!」


 そう言って、俺は葛西さんと別れ受付へと向かった。


「いや〜、葛西さんか〜。顔は怖いけど良い人だったな〜」

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