第11話011「家に帰る俺のライフはゼロよ?」



 探索者シーカー養成ダンジョン近くにあるバス停からバスに乗って家路を辿る。


 そんなバスの車中で俺は今日のことを振り返った。


「昨日までは異世界にいて、今日は日本に戻っていきなりダンジョンに行って、そして異世界の能力が引き継がれていたという女神サプライズと⋯⋯なんて一日だ」


 いろいろ、あり過ぎ。


「それにしても、女神サプライズはマジで助かったな⋯⋯。あれがなかったら2匹のゴブリン相手に勝てなかっただろう。下手したら命を落としていてもおかしくなかった」


 そう、あのときは本当にやばかった。ぶっちゃけ能力継承してくれたグシャビチョ女神にグッジョブとサムズアップ付きで感謝の意を伝えたい。


「しかし、実際スキルを使って動いてみたが、やっぱりしっくり・・・・くるな」


 そう、俺は昨日まで異世界あっちにいてレベル120の体で生活していた。そして、日本には戻ってきたばかり。つまり何が言いたいかというと、正直パッシブスキルである『身体覚醒(極)』の状態のほうが俺にとっては『普段通り』なのだ。


「むしろ、ここに来た時は『身体覚醒(極)』のスキルを発動していなかったからメチャメチャ体が重かったまであるし⋯⋯」


 ちなみに、現在俺は女神サプライズで能力が解放されたので『身体覚醒(極)』が常時発動・・・・状態となっている。


 だって、この感覚の方が俺にとって『当たり前』なんだも〜ん。ラクだし。


「いや〜、それにしても最初は焦ったな〜。異世界からこっちにきてまだ一日しか経っていないに、異世界あっちで常時発動していた『身体覚醒(極)』がうまく制御できないだなんて⋯⋯」


 そう、俺は最初『身体覚醒(極)』の力の制御がうまくできずに、魔物を『パーーーン!』と破裂させてしまった。


「まーでも、何とか力の制御はできるようになったからよかった。現代ここ異世界あっちと違って魔力やスキルの力の素となる『魔素マナ』が濃かったりするのが原因なのかもな〜」


 そう、現代ここは、意外にも異世界に比べて『魔素マナ』が濃い。イメージ的にはファンタジー世界まんまの異世界あっちのほうが魔素マナは濃いと思っていたのに。


「実際、今の『身体覚醒(極)』の常時発動状態で異世界あっちの時と比べれば、体がさらに軽く感じるからな」


 一応、『身体覚醒(極)』の常時発動状態はほぼ・・完全制御できてはいるが、しかし、実はちょっと怪しい部分もある。なので、しばらくは普段の生活は十分に気をつけなければならない。


「とりあえず、明日からはちゃんと学校に行かないとだな〜。ていうか、その前に⋯⋯」


 俺はこれからの『やるべきこと』を思い出して、またブルーになる。


「はぁぁぁ⋯⋯。母さんや妹たちに会うのは5年ぶりか。う〜気まずい」


 そう、今日はこれから家に戻らなくてはいけない。でも、正直気まずいのでできれば家に戻りたくない。


 異世界に転移する前、俺は部屋にずっと引きこもってばかりで、母さんや妹たちに声を掛けられても「うるさい! あっち行ってくれ!」「俺にかまうな!」と言いたい放題で家族を苦しませた。


 正直、俺がいないほうが家族にとっては幸せなんじゃないかとさえ思っている。実際、異世界に行ってから残した家族のことを考えたとき、俺の最初の感想は「ホッとした」だった。


 それくらい、家族に顔を合わせるのはしんどい。


「でもな〜、5年前の今の俺は高校2年生でまだ生きている状態だから、家に帰らないと家族にまた心配をかけてしまう⋯⋯」


 この頃⋯⋯二学期登校日までの俺というのは夏休みの間中、部屋にずっと引きこもって『ラクに死ねる方法』をガチで考えていた状態だった。


 つまり、一番辛くて目を逸らしたい時期の俺である。


 もちろん、今は異世界あっちに行ったおかげで自分に自信を取り戻すことができたが、5年前の家族⋯⋯母さんや双子の妹たちは、たぶん俺のことを『情けない』とか『引きこもりとかマジ勘弁』などと思っているに違いない。だって、そう思わせるくらいには俺は家族に対して非道いことを言いまくってたから。


「でも⋯⋯だからこそ⋯⋯元の世界に帰ってきたんじゃないか、俺!」


 そうだ。


 俺は元の世界に戻って、自分の人生をちゃんとやり直したいから「レベル1にリセットされる」と言われても、それでも現代ここに戻る決断をしたのだ。


 嫌なことからも目を逸らさず、面と向かってまっすぐに人生を楽しみたいという確固たる決意を持って。


「⋯⋯そうだ。そう思ったから、俺は居心地の良い異世界あっちに残ることをやめて、元の世界に戻るって決めたんじゃないか」


 だから、逃げちゃダメだ。


 新世紀なシンジ君もそう言ってたし。


「とりあえず、家に帰ったら家族に謝ろう。まずはそこからだ」


 俺が覚悟を決めたそのタイミングでちょうど降りるバス停に着いた。


「⋯⋯よし、行くか」


 バス停に降りた俺は、一人緊張しながら家路を辿る。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る