第2話002「ダンジョンのある世界(2)」
世界にダンジョンが出現した際、同時に人体にも『大きな変化』がもたらされた。それは『レベル』『スキル』といった超人的な力を身につける能力がすべての人間に出現したのだ。
さらには、心で「ステータス」と唱えると、脳内に『自分のレベルとスキルが表示される』という『ステータス』という機能も漏れなく全人類に与えられた。こんな感じだ。
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結城 タケル(ゆうき たける)
レベル:1
スキル:なし
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当時、全世界で「ゲームのような世界が現れた!」と大騒ぎになったとのこと。無理もない。
しばらくすると、『レベル』を上げ『スキル』を獲得した者たちがテレビに現れるようになる。すると、そのレベルを上げスキルを獲得した人間たちが、それはもう映画のヒーローのような『超人的な能力』をテレビで披露すると、これまで不安がってた人たちも、たちまち「人類の大いなる進化だ!」「神の恩恵だ!」と賞賛するようになる。
そして、この突如現れた謎の能力に世界中が一喜一憂した。
実際、その後もレベルを上げてスキルを獲得した者たちが現れ、その能力を披露する者が増えていくと、能力獲得に皆が熱狂した。
結果、その熱狂は世界的なムーブメントとなり、突如現れた『ダンジョン』も、人類に突如現れた『レベル』『スキル』『ステータス』といった正体不明な能力もすべて受け入れられることとなった。
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『レベル』は『自分の現在の強さを数値化』したもので、これは『レベル』が上がれば上がるほど身体能力が上がっていき超人的な力を得ることができる。
ちなみに『レベル1』は、子供からお年寄り含めて一般的な人間の身体能力を意味する。そのため、レベル2になれれば『一般人の身体能力』を超える力が得られるようになる。⋯⋯
どう大変かというと、まずレベルを上げるにはダンジョンの魔物を倒して『経験値』というレベルが上がるためのポイントのようなものを得る必要がある。
言い換えると、『ダンジョンの魔物を倒すことでしかレベルを上げられない』ということだ。
つまり、ダンジョン以外で⋯⋯例えば『体を鍛える』とか『修行する』『運動をする』などやっても『経験値』は獲得できないのでレベルは上がらないということ。もっと言えば、『ダンジョンに入れない者は人類の進化の恩恵を受けられない』ということだ。
それに加え、もう一つ、これは現在でも理由は不明だが、レベル1から2へ上がるときの経験値は、それ以外の他のレベルアップするために必要な経験値の割合に比べ、かなり高いことが明らかとなっている。
簡単に言うと『レベル1から2に上がるときだけ異常に高い経験値が必要とされる』ということだ。
どれくらい異常に高いかというと、例えばレベル2から3に上がるときの必要な経験値は、レベル1から2に上がる時に必要な経験値に比べ『三分の一の経験値』で2から3へとレベルアップする。
これだけでも、だいぶレベル1から2へとレベルアップは難しいものだが、さらにそれ以外にも問題はある。
例えば、1階層にはレベル1でも倒せる魔物だけが存在する。なので1階層で魔物を倒し続ければ経験値を得られ、いずれレベル1から2へとレベルアップすることは可能だ。ただし、そのレベルアップするのに『毎日3時間』ダンジョンに入って1階層で魔物を狩り続ける必要があり、その上で『1年かかる』と言われている。
もちろん、3時間以上ダンジョンにこもり、魔物を狩り続ければ1年以内でレベル2に上がることもできる。ただ、その労力は相当なものであり、それをこなすには強靭な肉体と精神が必要だ。少なくとも俺には無理だ。
ちなみに、2階層の魔物はレベル1では倒せない強さの魔物しかいないので、基本2階層以上に進めないレベル1の人間はここでリタイヤとなる。
ちなみにこの『レベル1から2へと上げる難しさ』は『レベル1の壁』と呼ばれている。
しかし、皮肉にも、この『レベル1の壁』のおかげで、結果的に『余計な死者』が出ずにすんだと言われている。
つまり、ダンジョン
ちなみに、この『レベル1の壁』が⋯⋯いや、ダンジョン生成自体が自然発生なのか人為的なのかまだ判明していない。
しかし、ある人は言う⋯⋯「もしも余計な犠牲者を出さないためかのように設定された『レベル1の壁』が人為的なものなのであれば、『ダンジョン』は人類にとって良いものであるに違いない」と。
そんな、『人類の進化』として超人的な力を手に入れた『
しかし、その
そのため、各国政府は
そして、その
これが『エネルギー大国・日本』における最大の弱点——『
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そんな20年前に現れたダンジョンのおかげで、『進化した人類』とも言える『ダンジョン
まったくもって最悪である。
さらに最悪なのが、佐川は俺をいじめていることを周囲にうまく隠している。そのため、先生たちからは佐川は『品行方正の良い模範的高校生
一応、クラスの連中は佐川が俺をいじめていることは誰もが知っていた⋯⋯が、それを先生にチクることはなかった。まー無理もない。
なぜなら、そんなことしたら自分も『いじめの対象』になるだけだから。
よく、そんないじめを知っても見て見ぬふりする奴らに
だって、逆の立場なら俺だってそうするから。
誰だって、『いじめの的』になんてなりたくない。
たまたま俺が『的』にされた⋯⋯それだけのことだ。
理不尽なのはわかっている。
だが、どうせ世の中理不尽だらけなんだ。それなら受け入れるしかないだろ?
だって、そうでもしないと心が壊れるだろ?
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しかし、俺の心は思ってた以上に壊れていたようだ。
一学期が終わり、夏休みに入る頃には俺は『どうやってラクに死ねるか?』をずっと考えていた。
そして夏休み明け。二学期の登校日。
俺は歩道に突っ込んでくるトラックに轢かれそうになった同じ高校の制服を着た女子に気づくと、その子に向かって走り、
いじめられる前のマトモな俺なら、彼女を助けるなんて行為するわけがない。
だって、誰だって自分の命は大事なのだから。
でも、この時、咄嗟に彼女を突き飛ばし助けたのは⋯⋯まーそれだけ俺が「死にたい」と毎日考えていたからだろう。なんせ、本来の俺なんて『自己犠牲大っ嫌い人間』なのだから。
心が壊れて『魔が差した』⋯⋯とでもいうのか。
まー見方を変えれば、心が壊れて魔が差したおかげで『人助け』というガラにもないことをやったというところだ。
まーこの程度の善行ごときで天国行きになるほど俺は自分を心優しい人間などとは思っていない。なんせ『自己犠牲大っ嫌い人間』なのだから。
「まー死後もロクなことにはならないんだろうな〜」⋯⋯と、トラックに轢かれズタズタになった俺はそんなことを考えながら少しずつ意識が朦朧となり、そして——静かに息を引き取った。
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