第3話003「ダンジョンのある世界(3)」



「そんなことないですぅぅ〜〜〜〜!!!!!!!」

「ええ〜い、うっとうしい! あと、鼻水とよだれ、汚ぇ!!」


 気がつくと、雲の上のような場所にいて目の前にいた自称女神に、鼻水よだれまじり・・・・・・・・で抱きつかれた。


 自称女神はぶっちゃけめちゃくちゃ美人だ。生前にテレビや雑誌で見たことのあるアイドルや女優、モデルなんて足元にも及ばない⋯⋯それくらいの絶世の美女だ。


 そんな絶世の美女に、しかも向こうから抱きつかれた。そんなの男なら誰だって喜ぶだろう。


 しかし、しかし⋯⋯だ。その絶世の美女の顔は涙や鼻水、あとよだれといったグシャグシャビチャビチャになった状態で抱きついてきたのだ。


 当然、抱きつかれた際に彼女は顔を俺の胸にうずめたおかげで、その『跡地』はグシャグシャのビチャビチャになっていた。


 ちなみに、どうしてこんな状況になったかというと、自称女神が俺の話を聞いて同情したのが発端だった。


 それにしても、俺は死んでいるはずなのに、体があって自称女神の涙とその他の謎液体・・・でグシャグシャのビチョビチョになるなんて⋯⋯どゆこと?


「はい、お答えしますっ!」


 そう言って、勢いよく挙手する『絶世の美女』改め『グシャビチョ女神』。どうやら俺の心の声を読み取ったようだ⋯⋯こいつ、勝手に。


「死んでしまったあなたが、こうして体を持って存在しているのは私があなたの善行は素晴らしいと評価したからです! 私これでもすごい神様なんですよ。もっと敬っていいんですよ!」


 やかましい。


「よって、あなたには『超絶ハイスペック主人公』な人生を送って欲しいと私は思いました。よって、あなたには人生って素晴らしいという経験をして欲しいと思いました。よって⋯⋯」


「よって⋯⋯よって⋯⋯」うるせぇな〜。「よって」言い過ぎ⋯⋯、


「よって、異世界へと飛ばして差し上げましょう!」

「え⋯⋯?」


 と思った瞬間、俺は有無を言わさず、グシャビチョ女神によって異世界へと強制転移させられた。



——そして。



********************



「⋯⋯みんな、本当にありがとな。これで最後になるけど俺は日本に⋯⋯元の世界に戻るよ」


 グシャビチョ女神により異世界に強制転移させられた俺。あれから5年の月日が流れた。


 そして俺は、この異世界で勇者となり魔王を倒し世界を救った。


 その後しばらくしてからグシャビチョ女神が突然夢の中に現れ、「異世界に残るか、元の世界に戻るか決めてください」とこれまた唐突に聞かれた。事前予告なしの突拍子もない行動は健在のようだ。


「そんなこと言われてもすぐに決断できるわけないだろ!」と、突っぱねると「じゃあ3日待ちますね」とこれまたグシャビチョ女神の判断で俺の選択の猶予は『3日』となった。ちょっと短すぎない?


 とは言うものの、従う以外に術はないので3日間で俺はその選択の答えを考える。



——そして3日後。



「元の世界に戻るよ」


 俺は元の世界に⋯⋯日本に戻ることを女神に伝えた。


 女神に日本に戻ることを伝えた後、今度は一緒に魔王を倒すためについてきた仲間たちを呼び、「元の世界に戻る」ことを伝える。すると、皆が俺のために泣いてくれた。


 日本では俺のために泣いてくれる人なんて、きっと家族以外には誰もいなかっただろう⋯⋯。何せ友達と言える奴は一人もいなかったから。


 だが、異世界ここでは俺のために泣いてくれる人がこんなにもたくさんいる。


 なら、このまま異世界に留まったほうがいいんじゃないか、とも思った。しかし答えはノーだ。


 俺は、自分が本来生きるはずだった元の世界で、もう一度人生をやり直して異世界と同じように⋯⋯いや、それ以上に楽しい人生を送りたいと強く思ったんだ。



 それからしばらくして、ついに異世界から日本に戻る日がやってきた。



 俺は今、グシャビチョ女神が祀られているこの国一番の大聖堂にいた。ちなみにこの場所は女神の指定だ。


 そして、俺との最後の別れということで、これまで一緒に戦い、そして支えてくれた仲間たちが集まってくれた。


「タケル! 私のこと⋯⋯私たちのこと⋯⋯忘れないでよね! 忘れたら絶対に許さないんだからっ!」

「タケルさん、あなたのことが好きです。だから、もしも、もしも、タケルが戻る日本・・に私も行くことができたら、私をあなたのお嫁さんにしてください。⋯⋯いえ、私があなたをお婿さん・・・・として貰います! 拒否権はありません! あなたのすべてをいただきますっ!」

「タケル〜! いつか、いつか、絶対に日本そっちに行けるよう私はずっと異世界転移の研究を続けるから! そして、その研究が成功して、そっちに行ったらその時はあなたには責任を取って結婚してもらいますからね! そのつもりでっ!」

「ボ、ボクだって⋯⋯! 彼女たちに負けないくらい、タケルのこと大好きだよ! たとえ⋯⋯たとえ⋯⋯男同士・・・だからってそんなの大した問題じゃないよね? そうだよね、タケル!」


 一緒に旅をした仲間から、想いのいっぱい詰まった言葉を貰った。


 一部・・、脅迫めいたものやBL発言があったのは気のせいだろうか? いや、きっと気のせいだろう。そうに違いない。そういうことにしておこう。


 だって、世の中には知らなくていいこと、知ってはいけないことがあるって、どっかのエロい人が言ってたから!



********************



 みんなと別れの言葉を交わした後、大聖堂にグシャビチョ女神が現れ、俺の手を取った。すると突然眩い光を発し⋯⋯気づくと、この世界に転移する前、女神と初めて出会った、あの雲の上のような場所にいた。


「タケル。最後の確認です。このまま異世界に留まりますか? それとも日本に戻りますか?」

「俺は⋯⋯日本に戻るよ」


 グシャビチョ女神の質問に即答する俺。


「⋯⋯そうですか。強くなりましたね、タケル。心も体も」

「ああ。お前に強制的に飛ばされた異世界だったけど、お前がくれた『恩恵ギフト』のおかげで勇者にもなれたし、魔王を倒して世界を救うことができた、何より、俺を信頼し助けてくれたあいつらとも出会うことができたし⋯⋯感謝してるよ」

「そう言ってもらえると嬉しいです。でも、タケル⋯⋯元の世界に戻ったら、あなたのレベルは『1』に戻ります。もちろんステータスも『レベル1の状態』です。つまり、異世界にいたときのあなたの人類最高到達点であるレベル120はリセットされます。⋯⋯それでも、元の世界に戻りますか?」

「もちろんだ。俺はこの世界で自分に自信が持てた。今度は元の世界に戻っても、腐らないし、理不尽にも負けない。もう、いじめられて死にたいなんて二度と考えないし、絶対にしないよ」

「そうですか、わかりました。それでは、元の世界に戻っても頑張ってくださいね。もう、会うことはないでしょう。最後にタケル⋯⋯あなたは素晴らしい人間です。今も昔も。だから、どうか元の世界に戻っても⋯⋯理不尽に負けずに頑張ってくださいね!」

「ああ、わかったよ。ありがとう!」


 最初、妙にかしこまっていたグシャビチョ女神だったが、最後は俺を異世界に転移させたときと同じ人懐っこい笑顔で送り出してくれた。



 こうして、俺は元の世界⋯⋯日本に戻った。

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