異世界帰りの英雄は理不尽な現代でそこそこ無双する〜やりすぎはいかんよ、やりすぎは〜

mitsuzo

第一章

第1話001「ダンジョンのある世界(1)」



「おい、タケル」

「え⋯⋯?」


 ゴッ!


「あぐっ!?」


 教室——ホームルーム前。授業の準備をしようと席に座ろうとしたとき、突然後ろから声をかけられた。すると振り向きざま、いきなり顔面を殴られた。


「おいおい、よけろよ〜。お前がど〜〜しても・・・・・・探索者シーカーの格闘術を習いたいって言うからこうして練習相手になってんじゃねーかよー」

「な⋯⋯?!」


 今、俺を殴った佐川がニヤニヤしながらそんなことを言い出す。もちろんそんなことを頼んだ覚えはない。


「そうだぜ、タケル〜。お前が強くなりたいって言い出したんだろぉ〜? ほら、立てよ〜」


 そう言われ、俺は佐川といつもつるんでいる二人に抱えられ、無理矢理立たされる。


「ほら、構えろ」

「い、いや、でも⋯⋯」

「遠慮⋯⋯すんなよ(ギロッ)」

「⋯⋯わかった」


 俺は察して・・・ファイティングポーズをとる。


「お、やる気あるじゃねーか!」

「いいぞ、いいぞ! がんばれ〜タケル〜」


 佐川の連れがそう言ってあたかもじゃれあう仲の良い生徒・・・・・・・・・・・・・・・という構図が出来上がっていた。当然、これは『俺を殴る口実』だ。


 しかし、俺は俺でそれに合わせないと、あとから裏に呼び出されてリンチにあう。だから、皆がいる教室では無理矢理でも佐川たちに合わせる必要があった。


「いくぞ、おら〜〜っ!!」



********************



「おい、結城⋯⋯。どうして探索者シーカーの佐川に格闘術を習いたいなんて自分から言い出したんだ? そんなこと言ったら痛い目にあうのは当たり前じゃないか!」

「⋯⋯はい、すみません」


 俺は今、担任に呼び出され生徒指導室にいた。


「佐川は確かに現役高校生で探索者シーカーとなった有名人だから憧れるのはわかる。だが、そうやって有名人の佐川に取り入ろうとするのは先生感心しないな」

「⋯⋯すみません」

「まったく、有名人と仲良くなりたい気持ちはわかるが、少しはわきまえろ! 軽はずみな行動ばかりしてないで少しは反省しなさいっ!!」

「⋯⋯すみません⋯⋯でした」


 俺と佐川たちは、担任の言うように『いつもつるんでいる友達グループ』と見なされていた。いや、むしろ俺が佐川たちグループに取り入ろうと『無理矢理くっついている』と見られていた。


 佐川は、皆が憧れるダンジョン探索を生業としている『探索者シーカー』だ。しかも、現役の高校生で。普通は早くても20歳以上になってから探索者シーカーになれるのがほとんどだが、佐川のように高校生でも素質・才能があれば探索者シーカーとなるケースもある。


 そして、そんな『現役高校生』で探索者シーカーなれる者は貴重な存在ということで、学校だけでなく政府からも重宝される存在であった。


 だから、佐川のように『圧倒的な力』を使って学校を我が物顔で跋扈する連中が増えた。


 実際、それは社会問題として取り上げられてはいるものの、政府からすれば『優秀な探索者シーカーを確保したい』という政府の思惑大人の事情があるため、『高校生探索者シーカーのいじめ問題』については政府がメディアに取り扱わないよう『助言』という名の『圧力』をかけていた。


 もちろん、メディアもまたちゃんと政府に『忖度』して、探索者シーカーによる社会問題を取り扱うことはほとんどなかった。


 結果、日本はクソみたいな探索者シーカーが幅を利かせる国へとなった。



********************



『ダンジョン』


 俺が生まれる前⋯⋯今から20年前に出現した謎の地下構造物。


 現在確認されているだけで世界全体で120個存在する。ちなみにこれを『ダンジョン』と呼称するようになったのは「ファンタジー世界でよく見るものだから」とネット界隈で囁かれたのが始まりだ。


 そして、20年経った今でもそれが出現した原因・理由はわかっていない。


 そんな今でも謎の多い地下構造物ではあるが、しかし、ダンジョンの出現は人類に多大な恩恵をもたらした。それはダンジョンの中で取れる鉱石が石油に変わるエネルギーの代替となる代物だったからだ。


 そのダンジョン産の鉱石は『魔石』と呼ばれている。これもネットから生まれた。もちろんファンタジー小説になぞらえたものである。


 そして、その石油の代替エネルギーとなった『魔石』の出現は世界のパワーバランスに大きな影響を与えることとなる。そして、その恩恵を最も受けたのが⋯⋯日本。


 これまでエネルギー資源のなかった日本だったが、ダンジョン出現後、代替エネルギーとなる『魔石』の埋蔵量が他国を圧倒して高いことと、その魔石の鉱山・鉱床が10〜15階層と他国に比べてずっと浅い中層付近にあったことで、日本は世界に先駆け魔石鉱山・鉱床の発見・発掘と、魔石からの代替エネルギー取り出しという二大快挙を成し遂げた。


 その後、自国のエネルギーを魔石で賄えることに成功した日本は、これまで足下を見られていた石油・石炭・天然ガスといったエネルギーの輸入を全面停止すると世界に発表。


 これに、エネルギー輸出国である欧米諸国や中東・ロシアなどが反発の声を上げたが、しかし「二酸化炭素を出さない」「大気を汚さない」「汚染の心配もない」という次世代クリーンエネルギー『魔石エネルギー』は、エネルギー輸出国以外のほとんどの国が「ぜひ利用するべきだ!」と強い声を上げたことにより、反発の声が大きく広がることはなくすぐに鎮火となった。


 ちなみに、エネルギー輸出国も本音のところでは『魔石エネルギーの利用・推進』を計りたかったので、反発の声はただの『妬み』であることは誰の目から見ても明らかだった。


 魔石鉱山・鉱床が日本よりも遥か下の階層にしか存在しない各国は、魔物を倒したことで得られる魔石を探索者シーカーから買い取りつつも、大部分は日本からの輸入に頼らざるを得なかった。


 こうして、日本は魔石の埋蔵量・採掘量・輸出量共に世界一となる『エネルギー大国』へとのしあがった。



 結果、世界のパワーバランスは大きく変わることを余儀なくされた。



 これまでは『表向きは同盟関係。実際はただの属国』と諸外国からも国民からも揶揄されていた『アメリカ』との関係は、ダンジョン出現後の現在『対等な同盟関係あるいはそれ以上』となった。


 当初、アメリカはこの日本の態度に難色を示していたが、しかし諸外国同様、アメリカさえも次世代のエネルギー源である『魔石』の埋蔵量は少なく、結果、日本の魔石の輸入に頼らざるを得ない状況だったため、以前のような日本を属国支配するような動きはできなくなっていた。


 そして、それは他国⋯⋯イギリス、ロシア、中国といった『大国』に対しても『対等な立場』として認識されるようになり、まともな外交が行えるようになっていた。


 とはいえ、それでも日本は現状まだ弱い立場な部分もある。それは、ダンジョンが人類に与えたもう一つの恩恵が原因だった。


 ダンジョンが与えたもう一つの恩恵⋯⋯それは『人類の進化』と呼ばれている『レベル』『スキル』『ステータス』の出現であり、それがエネルギー大国となった日本の弱点⋯⋯『探索者シーカー人材不足』へとつながっていくのである。



********************


本日はあと「17:06」と「21:06」と3話投稿します。

明日は2話投稿。3日目から毎日昼12時1話ずつの投稿となります。

ゆたしくうにげーさびら(よろしくお願いします)!

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