第48話 龍空
龍景が再婚の挨拶に来た翌日、龍希は一族会議を開いた。
今日の議題は15年の謹慎があけた
15年前、龍空は、当時はまだ成獣前だった竜染を殺そうとしたのだ。
たまたま取引で本家に来ていた龍栄が気づいて龍空を取り押さえたが、竜染は完治まで半年近くかかる程の重症を負った。
竜の子を成獣が攻撃するのは禁止されており、例外は竜の子から一方的に攻撃した場合もしくは父竜が判断した場合だが、当然、竜染から攻撃などしていない。
龍空も自分から攻撃したことを認めたので、当時の一族会議で15年の謹慎処分と決まり、龍空は当時の妻と離婚させられて自分の巣から出られなくなった。
龍空には子どもが居なかったのが幸いだ。
龍希は成獣前だったのでその会議には参加できなかったが、龍空を処刑すべきとの意見も根強かったらしい。
というか、もしも竜染の父竜が生きていたら殺し合いになっていただろう。
だが、当時すでに子不足だったことや、竜染が一命を取り留めたこと、龍空が当時20代の若い雄だったこともあり、15年という長期の謹慎とすることになったと聞いている。
龍希は正直、龍空のことをほとんど覚えていない。
完全に忘れていないのは、成獣してから交代で龍空の巣にシリュウ香を取りに行ったり、代金や物品を届けに行っていたからだ。
謹慎中の龍空を一族が養う義理はないので、龍空はシリュウ香を作り、それを一族が代理で売っていた。
~大広間~
龍希が会議場に来ると、皆着席して待っていた。
龍空は龍流の隣、末席にいる。謹慎中は序列外との扱いだからだ。
「揃ってるな。昨日付けで龍空の謹慎が終わったから、今日は龍空の取引先と序列の位置を決める。」
「族長、その前に龍空の世話役を決めませんと。守番だった竜音は亡くなりましたので。」
発言したのは竜礼だ。
「ああ、そうか。女の意見を聞こう。」
「竜波を推薦します。」
「構わない。竜波もいいな?」
「はい。お請けします。」
「じゃあ次は取引先だな。龍空、希望はあるか?」
龍希は龍空に尋ねたのだが、
「いや~なんとも不思議な光景ですな。」
「は?」
「いえ、まさか次男坊が族長になるとは。てっきり龍栄殿に息子ができるまで結婚しないくらいの抵抗はなさるのかと思ってましたので。」
「いつの話だよ。」
龍希は呆れた。
「ははは。まだ浦島太郎状態なのです。なにせ15年も一人きりでしたので。」
龍空は愉快そうに笑う。
「俺が族長になったことは知らせたろ?」
「聞きました。でもこの目で見るまで半信半疑というか。こんなにくそ真面目に族長やってるお姿が意外というか。」
「悪かったな。」
「いいえ。悪いことはありません。15年前から随分お変わりになったというだけです。私の記憶では、後継候補になるのも嫌がって処罰を受けるギリギリの悪さをされていたので。」
「悪かったな。昔の話だ。大事な妻子がいるから悪さなんてできねぇよ。」
「いや~3児の父親でしたか?ご長男は龍栄殿に先んじて作られたとか。さすがですな。」
「別に対抗してねぇよ。たまたまできたんだ。龍栄殿はこれから子ども増やすしもん・・・」
龍栄に睨まれて龍希は途中で口を閉じた。
「龍空、おしゃべりは後にしろ。取引先の希望はあるのか?」
龍海が尋ねる。
「はは。そんなに怖い顔しないでくださいよ。希望はないので族長にお任せします。」
「なら、さしあたり朱鳳、熊、白鳥、オウムとする。いいな?」
「おや?主要取引先ばかりですが、よいのですか?」
龍空は不思議そうに龍希に尋ねる。
「ああ、取引に慣れるまでは龍海と共同担当な。」
「え~龍海殿とは相性悪いので代えてください。」
「ダメだ。他の補佐官は忙しいんだ。」
「いや、5人もいるんでしょう?」
「最近トラブル続きなんだ。お前も早く取引に慣れてくれ。守番もあるからな。」
「守番は未経験ですな。私が成獣した頃は絶滅寸前とか言われてましたし。」
「今は順調に増えてるよ。お前も早く再婚して子ども作れ!」
「私もう41ですよ~」
「問題ねぇ。子どもが成獣してもまだ60代だろ。」
「やれやれ、中年に厳しいですなぁ。まあ竜波に任せます。」
「んじゃ、あとは序列だな。」
「シリュウ香の生産量的には龍緑より上ですが、他の仕事がどこまでこなせるかはこれからですからな。」
「なら龍緑の次か?」
「こいつより下は嫌です。」
竜色は相当嫌そうだ。
「なら、竜色の次か?」
龍希はちらりと竜冠を見たが、竜冠は無反応だ。 まあ、竜冠と竜染は仲がいいからなあ。
「じゃあ竜色と竜冠の間とする。」
龍希の決定に反論は出なかった。
「龍空の縁談はもう決まってるのか?」
尋ねたのは龍賢だ。
「候補はいくつかございます。序列も決まったのでこれから申込みは増えるでしょう。」
竜波はすでに動いていたようだ。
「口うるさい妻はごめんですよ~私は短気なんで。」
「残念ながら狼族から縁談はないのです。」
「他にいません?」
「人族の妻は2人居るからこれ以上は増やせません。」
「あ~族長の。そういえばいつから人族が取引先に?」
「取引はしてねぇ。予定もねぇ。」
龍希は断言した。
「え!?なんで?」
龍空は驚いている。
「あーと。」
龍希は説明がめんどくさいので龍海を見る。
「族長の奥様は取引先との縁談ではないんだ。龍希様が黄虎との取引の帰りに偶然出会われた方でな。奥様は結婚を機に人族と取引を始めることをご希望されなかったから取引はしていない。」
「よく分かりませんな。なら、なんで人族は妻を差し出したんですか?」
「結婚は奥様本人のご希望だ。実家はなく、お一人で働いておられた方だからな。」
「え?実家ないんですか?なんでそんな獣人を妻に?」
「うるせえ。俺が気に入ったんだ。あと、俺の妻の前では獣人って言うなよ。」
「うーん?あれ?もう一人の人族の妻は?」
「俺の妻です。妻も人族との取引は希望していません。」
「え?龍緑?よくあのワニが許しましたね?」
「ワニの母ならもういませんよ。」
「あれ?そうなんですか?子どもできなくてお払い箱?」
「違います。ワニから離婚を希望して出ていきました。」
「ははは!竜音か竜夢の仕業でしょ!」
龍空は大笑いだ。 誰も返事をしなかった。
「15年の間に離婚も再婚も色々あったからとっとと頭に叩き込め。竜の子の名前もな!」
「はいはい。もう親のいない竜の子はいないんですか?」
「いない。いても子どもに罪はない。」
龍海の顔が厳しくなる。
「そんなに睨まないで下さいよ。私は無差別に子どもを殺したりしませんって。」
「無差別もくそもない。竜の子を攻撃することは禁忌だ。次はないからな。」
龍希も龍空を睨む。
「分かってますよ。この歳で龍栄殿に殴られたら死にそうなのでもうしませんよ。いや、族長の怒気も怖いんで勘弁してください。」
「その言葉を忘れるなよ。じゃあ明日の午後から守番な。龍算が一緒だから教えてもらえ。」
「分かりました。」
「龍空は音の出ない雷は出せるのか?」
「え!?あ~そういえば。成獣前に山で練習したきりですな。」
「じゃあ今から本家で特訓しろ。できるまで帰るなよ!」
「ええ!?族長は謹慎明けの中年に厳しすぎません?」
「うるせえ。竜の子が最優先だ。龍雲に殴られたくなけりゃ、死ぬ気で思い出せ!」
「ははは!龍雲が私を殴れるわけないです。」
龍空はまた大笑いだ。
「なら俺が代わりに殴るからな。」
「いやいや、勘弁してくださいよ。龍栄殿の次に痛そうなので。」
「私より族長の方が痛いですよ。手加減をしないので。」
龍栄が口を挟む。
「えー怖い怖い。私を半殺しにしたくせによく言いますよ。」
「覚えてないです。」
龍栄も素っ気ない。
「会議は終わりだ。」
龍希は宣言した。
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