第44話 竜礼のお茶会

~水連町 ライオンの店~

「お疲れ様~。なんか収穫あった?」

竜礼は笑顔で尋ねてきたが、龍緑は苦笑いしてしまった。

人族の老婆と別れた後、往来を歩いたが、話を聞けそうな人族は見つからず、そろそろ戻る時間なので、竜礼の匂いを辿ってきたのだが・・・

なんと、黄虎眷属のライオン族の店の中でお茶を飲んでいる。

しかもその向かいには疲れた顔の虎豊が座っている。


「ええ!?虎とお茶してんすか?」

龍景も呆れている。

「うふふ~話し疲れたから、椅子とお茶用意してもらったの~

おかわりちょうだい~」

竜礼がそう言うなり、ライオンの獣人がポットを持ってとんできた。

竜礼と虎豊のティーカップにお茶を注ぐと、ライオンとは思えないほど素早く店の裏に下がっていく。

気の毒に。

いくら虎の眷属とはいえ、黄虎と雌竜のお茶会の世話なんて獣人にとっては悪夢だろう。

明日は臭いにやられて寝込むに違いない。

龍緑は少しだけ同情した。


「お前ら、もっと早く迎えに来いよ・・・」


虎豊はニヤニヤ笑いをする余裕もないらしい。

「うふふ~じゃあごちそうさま。 今度は紫竜本家に遊びに来てね。お茶のお礼するわ。」

反対に竜礼は上機嫌だ。笑顔が怖い。


「冗談じゃねえ!臭い竜の巣なんざ御免だよ!二度と現れんな!」


虎豊の怒声を聞きながら、龍緑は2人を連れて店を出た。

疲れたが、これからもっと面倒なイベントが待っている・・・



~族長執務室~

「おーお疲れさん。」

そう言って龍緑たちを出迎えた族長は苦笑いしている。

父と龍賢様はもう来ている。


地獄の質問タイムの始まりだ。


「うふふ~さすが2人の息子ねぇ。小物ながら情報は掴んできましたよう。」

竜礼がそう言って笑う。

すでに帰りの馬車の中で竜礼には報告せざるを得なかった。

「小物?」

父も龍賢様も眉をひそめて、龍緑を見るので、仕方なく報告を始める。


「ええと、運良く雄の人族から話を聞き出せました。龍景のおかげです。その人族によれば、奥様には死んだ父親の他に母親と兄がいたそうですが、兄はもう死んでいるそうです。

母親は、薬屋を廃業した後、水連町の病院で働いていたそうですが、兄の死を知って仕事を辞め、その人族からは母親の現在の住まいも職場の情報も出てきませんでした。」


「え?病院?」

父が驚いて声をあげる。

「はい。雄の人族はそう言ってました。おそらく父上がカンポウを買った店です。まさかとは思いましたが、薬屋の競合店で働いていたようです。」

「驚きですな。それに奥様に兄がいたというのも初耳です。」

龍賢様は疑うような目で族長を見る。


「死んだ兄なんてどうでもいい。母親の話はそれだけか?」


族長は淡々とそう言うが、内心は兄の死を聞いて喜んでいるに違いない。

「はい。他の人族にも話を聞きたかったのですが、雪が降っていたせいか往来は少なく、閉まっている店も多かったので聞けませんでした。 恥ずかしながらご報告できるのはこの程度です。」

龍緑の報告に龍景も頷いている。

「その雄の人族にはどうやって近づいたのだ?」

質問したのは龍賢様だ。

「人族の方から声をかけてきました。飯屋の店主で、客を呼び込みたかったようです。食事と酒を注文したら、話を聞かせてくれました。」

「なるほどな。」

「奥様の母親の話はもっと聞き出せなかったのか?」

今度は父だ。

「はい。人族は奥様の家族の話をするのに消極的で、これ以上追及したら怪しまれそうでしたので。」

龍緑の回答に龍景がまた頷く。


「うふふ~それでもお手柄よ。水連町に潜入させている使用人たちなんて人族とろくに会話もできないんだから。

次は私ですわ~虎豊から情報引き出してきました。」

竜礼が話題を反らしてくれた。

「虎豊から?なんだ?」

族長だけでなく父たちも興味があるようだ。

「虎豊の目的は白鳥領で奥様を目撃したと言いふらしてる雄の人族の捜索みたいですわ~

虎は奥様の家族がまだ水連町にいることは掴んでないみたいです~」

「は?白昼領の人族?この間、死んだろ?」

族長が驚いて声をあげる。

「はい。でも虎はまだ知らないみたいです~」


「え?待ってくださいませ!死んだ?白鳥領?何のお話です?」


父と龍賢様が眉をひそめる。

「あら~聞いてないの? 龍景がハイエナの側で見つけて戸籍の作り直しの話を聞いたのは、族長たちが白鳥領で出会った人族ですよ。あのあと、人族町で獣人に襲われて死んだそうです。」

「龍景、聞いておらんぞ。」

竜礼の話を聞いて、龍賢様が龍景を睨む。

父も黙って龍景を睨んでいる。

「あ~えーと。」


「俺が口止めしたんだ。」


族長が助けに入った。

「は?なぜ我らにまで?」

「白昼領で芙蓉のことを知ってる人族一匹に会ったことなんて別に一族に共有することでもないと思ってたんだが、この間の龍景の報告聞いてたら、どうにも同じ奴みたいだから、龍景に捕獲しにいくよう命じたんだ。

そしたら、もう死んだことが分かったからな。なんで白昼領で捕まえとかなかった?とか言われると面倒だから口止めしたんだ。」

「・・・」


父と龍賢様は不満そうだが、文句は言わない。

龍緑は感心していた。


族長は嘘をついているのに、

あの癖

が出ていない。

両目を瞑ってゆっくり話している。

なお、族長は一族に害をなそうと思って嘘をついている訳ではないので、悪意は出ていない。



「情報を整理させて下さいませ。族長たちは、白鳥領で、奥様のことを知る人族と出会い、その人族が、そのことを言いふらしているので、虎豊が水連町でその人族を探している。

しかし、その人族は昨年、龍景がハイエナ領の近くで出会った人族で、しかもその後すぐに死んだということですか?」

龍賢様はさすがだ。

「みたいだな。」

族長が肯定する。


「なぜ、虎はその人族を探しているのです?」


今度は父だ。

「さあ~奥様の情報を引き出せると思ってるんじゃない?水連町の人族が皆、奥様のことを知ってるとは限らないし。

ふふ。その人族を知ってることを匂わせといたので、黄虎から取引持ちかけてくるかもしれません。もしくは水連町には居ないと察して虎豊は撤退するかもしれませんね~ たぶん後者です。」

竜礼は意地の悪い笑みを浮かべている。


「竜礼様は白鳥領の人族のことをいつからご存知で?」


「今日よ~行きの馬車で龍景とお喋りしてたらポロっとね。まだまだね~

でも龍賢様にも黙ってたのは誉めてあげる~

いつまでも父親にベッタリじゃ族長の信頼は得られないもの。龍緑も見習いなさい。」


龍緑は苦笑いしてしまった。

本当に味方につければなんと頼もしい姉さんだろうか。

「さ、報告は終わりです~

族長、私たちに特別手当てください。私は美味しいジンがいいです~

龍海様と龍賢様はだめですよう。」

「では私は下がります。」

「私も失礼します。」

竜礼の一言で父と龍賢様は執務室を出ていった。


「ええ!?そんなあっさりと?」


龍景は驚いているが、龍緑も驚いていた。

「もう~あんたたちは父親を警戒しすぎ。龍海は人族が死んだならよしって割りきったのよ。龍賢は、このまま龍景と族長の密談をさせる方がいいと判断したのね。」

竜礼はそう言いながら、族長の酒棚のそばに行って酒を選んでいる。


「お前は誰の味方なんだ?」


族長が怪訝な顔で尋ねる。

「やだ~私は中立ですよう。誰の味方にも敵にもなりませ~ん。だから、族長の悪巧みには参加しません。

あ!族長、私はこれが飲みたいです。」

竜礼は笑いながらそう言って酒瓶を手にとった。

「龍景、4人分頼む。」

「はい!ごちそうさまです!」

龍景は慣れた動きだ。


族長はそれ以上は何も言わずに旨い酒を奢ってくれた。

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