第42話 竜礼の策略

~族長執務室~  

1月が半分ほど過ぎたある日、顔色の悪い龍緑と龍景をつれて竜礼がやってきた。

龍希は嫌な予感しかしない。


「どした?」

「族長~ 私と龍景で、龍緑のお伴をさせてくださ~い。」

「は?どこに行くんだ?」

「水連町です~。昨年、龍緑が戸籍作り直しの調査に行ったのに虎豊こほうに絡まれて逃げ帰ってきましたでしょう?私と龍景で虎豊を引き受けますので~」

「え?」


龍緑と龍景が青い顔をしている理由がわかった。 芙蓉の家族探しが竜礼にばれるとまずい。


「いや、なんで竜礼が? 虎の相手なら男の方が・・・」

「あらやだ~

奥様の故郷で虎とけんかする訳には参りませんわ。 私なら虎豊が手を出してくることはないですし、私は虎とも楽しくお喋りできますので、ぜひお任せを。」


そう言う竜礼の笑みが怖い。 誇張でも冗談でもないから尚更だ・・・


「いや~今は龍猛の守番中だからなぁ。3人も遠征させる訳には・・・」


ここは濁して、どうやって竜礼の提案を断るか龍緑たちと相談したい。

龍希がそう思っていた時だった。


「も~のんびりしてたら、奥様の母上が虎に誘拐されますよ~」


「は?」

「え?」

龍希は驚きのあまり声が出た。

同じく声をあげた龍景も、どうにか声を我慢したらしい龍緑も驚いて竜礼を見ている。


「うふふ~竜礼姉さんに隠し事なんて百年早いですよう。奥様から聞き出しましたの。」


「嘘つけ!芙蓉がそんなこと・・・」  

「悪いのは龍希様ですよ~

奥様がこれまで、家族が生きてるかどこにいるかも分からないって仰ってたことに嘘はなかったのに~

先週お会いしたら母親のことだけ濁されたのでピンときちゃいました~

賢くても所詮は獣人ですからね~私相手に隠し事なんて不可能ですわ。」

「・・・」

あまりのことに龍希は言葉が出ない。


龍景の話を芙蓉に伝えたことがこんな事態になるなんて!?


困って龍緑をみるが、龍緑も龍景と同じくらい青い顔になっている。

「もう~何か勘違いされてません? 私は奥様の家族を殺す気はないので、龍海にも龍賢にもチクりませんよう。

誰にも言わずにここに来ました~ 

奥様と話してたとき、竜冠は居ましたけど、あの子はおバカちゃんなので気づいてないです~」

「じゃあ何が目的だ?」

龍希は取り繕うのは諦めて竜礼を睨んだ。


「や~ん、怖い。 言いましたでしょう?

私は~龍希様の再再婚の世話だけはごめんなのです~ 芙蓉ちゃんのご機嫌を極力害さずに龍希様のそばに居てもらいませんと~

ほら、もし芙蓉ちゃんが離婚したいって私に言ったら、私はお仕事として離婚させざるを得ないので~困ってるんです~」


「それなら心配いらねえよ。芙蓉は死ぬまで俺のそばにいるからな。」

「うふふ~人族の寿命まであと30~40年ですよ~

龍緑が虎豊に追い返されてた間に、虎に母親が拐われたなんてことになっても、奥様はご気分を害されないって断言できます?

奥様が母親の話をする時、悪意は出ますけど殺意には至ってないですからね~」

「う・・・」


竜礼の話に龍希は心当たりしかない。  

だから龍緑に探しに行かせたのだ。


龍希は龍緑と龍景の顔を見るが、2人とも無言で龍希を見返してきた。

まあ、こいつらに判断を委ねる気はないが・・・


「ちっ!分かったよ。芙蓉の母親探しにお前も行かせる。ただ、龍賢たちには知られてないんだ。守番中に3人も行かせたら怪しまれる。」

龍希は観念した。

「それなら私にお任せを~

龍賢も龍海もかなり焦ってますのよ~

黄虎族長側近がいるなら水連町には何かあるに違いないって。でも相手に先に見つけられたくないから、牽制しあって動けないお馬鹿さんたちなのです。

そこに、中立の竜礼さんが各々の息子連れて水連町に調査行ってくるって言えば反対しないはずですわ~」

「・・・」


「いや、それだと後で俺たちが父たちに質問攻めにされるんですけど?」


龍緑の言葉に龍景も頷いている。

「なんか困るの~?

奥様の母親をあんたたちが見つけたら、龍海も龍賢も殺せなくなるじゃない。あいつらは龍希様に隠れて奥様の家族を始末することしか考えてないわ。

龍希様と敵対してまで殺る度胸はないわよ~」

「確かに・・・」

龍緑も龍景も納得しているが、

「そうなの?」

龍希は初耳だ。


「もう~ 側近の性格くらい把握しておいて下さいませ。 龍賢は綺麗事並べるだけのヘタレで、龍海は龍希様に嫌われることだけは避けたい臆病者です~」


「・・・」

龍緑も龍景もしかめ面になったが、反論はしなかった。

「お前は芙蓉の母親見つけたら、どうするつもりなんだ?」

「え?族長の判断にお任せします~

族長が母親殺して奥様には黙っとけってお命じになるなり、とりあえず拐ってきて本家で飼うなり、考えてくださいませ~

私が避けたいのは虎に誘拐されることですわ。」

「う~芙蓉が殺すことは望んでないからな。とはいえ、拐ってくるのも・・・何を喋るか分からねぇし。」

龍希は頭を抱えた。



「まあ、私は龍海と龍賢に話してきますので、悪巧みは3人でどうぞ~」

竜礼はそう言って執務室を出ていった。

「あいつは何考えてんだ?」

「分かりませんが、奥様の母親見つけたら父たちにバレることは確定しました。」


龍緑も龍景もうんざりした顔になっている。


「一応、何があったか聞こうか?」

「龍緑がやらかしました。」

「うるせえ!今朝、本家に来るなり竜礼様に捕まって、なんで虎豊相手に逃げ帰ってきたのか?とか言われてるところに龍景がやってきたら、ここに連行されました。

俺は奥様のことは何も喋ってません!」

「竜礼様に捕まるなよ~マヌケ!」

「あ?やんのか?」

龍緑と龍景は睨み合いを始めた。

「外でやれよ~

にしても、芙蓉には悪いことしたなぁ。嫌われたかなぁ?」

龍希は不安になったのだが、睨み合ってる2人は返事もしてくれなかった。

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