第38話 ハヤブサの縁談
「まず男の取引先からだ。最初は龍範だな。もう単独で取引先を持たせるのは厳しい。」
「はい。族長の仰るとおりです。申し訳ございません。」
「歳だし仕方ねぇよ。別に謝ることじゃない。」
「すでに龍範の取引先は龍兎が手伝ってるから、正式に共同担当とする。いけるか?龍兎? それとも、少し減らすか?」
「今は問題ありません。マムシと鴨の取引はなくなりましたので、余裕がございます。」
「お!ならむしろ増やすか?鴨とマムシはまだ取引再開の目処がたってねぇし。」
「族長、それなら私の取引を手伝ってもらいたいです。補佐官の仕事に加え、妻の出産もありますので。」
龍灯が手をあげた。
「ん?ああ、どこにする?」
「お待ちください。あまり親兄弟の手伝いばかりでは、龍兎の将来のためになりませぬ。」
龍光が反対した。
「まあ、確かに・・・」
「ならば私の取引を手伝ってもらいたい。恥ずかしながら私も息子たちに頼ってばかりですので。」
龍賢が手をあげる。
「え?いえ、僕なんかじゃ龍韻様や龍景殿の代わりなんてとても・・・」
「何を仰る。龍兎殿の勤勉さは評判ですぞ。それに龍景は族長から任される仕事が増えておりますので、私も子離れのよい機会です。 ライオン族の取引の一部をお願いしたい。」
「龍兎、いけるか?」
「は、はい。お受けします!」
「他に変更、追加希望はあるか?」
「族長、龍緑にも主要取引先を担当させてはどうでしょう?」
提案したのは龍算だ。
「ん?担当してなかったっけ?」
「私の手伝いで朱鳳と熊族の取引の一部を任せておりますが、正式な担当にはなっておりません。」
龍海が答える。
「そうか。龍緑なら問題ないな。その2つでいいか?」
「私は構いません。」
「儂の分を減らして欲しい。年々、シリュウ香の量が減ってきておる。あんまり息子たちばかりに任さん方がいいという話だしな。」
今度は父だ。
「どの取引先を減らします?」
「ん~細かいところ2~3か、もしくはハヤブサ族がなくなれば楽になるな。」
「あ!それなら少しだけ待ってくださいませ~」
声をあげたのは竜礼だ。
「ん?どした?」
「ふふ。ハヤブサ族から縁談がきてますので~ この後、龍栄様か龍景にと思ってましたの。」
「え?」
「は?」
龍栄と龍景は驚いている。
「あーそういや、2人の世話役を竜礼に変更したいって話だったな。」
龍希の言葉に龍栄と龍景が睨んできた。
「聞いてません。」
「聞いてないです。」
「私も竜湖もいい歳だけど、あなたたちはこれから先まだまだ長いからね。若手に譲ることにしたの。」
竜夢が嫌な笑みを浮かべて2人を見る。
「いや、なにも竜礼殿でなくても・・・」
困った顔の龍栄の言葉に龍景も頷いている。
「うふふ~ 竜礼姉さんにお任せください。半年以内に2人とも再婚させます。」
竜礼は竜夢に負けないくらい嫌な笑みで断言した。
「え・・・」
「いや・・・」
2人とも嫌そうだが、竜礼に反論はしない。
竜礼の力は歳をとってきた竜夢をこえて女の中では一番だ。
まだ若く発言力もあり、押しの強い竜礼を苦手にしている男は多い。
味方につければ頼もしいが、敵に回すと厄介なのだ。
「ふーん。龍栄も早く跡継ぎをつくらんとな。もういい歳だ。竜礼、頼んだぞ。」
そう言う父を、龍栄は恨めしそうに見ている。
「龍景のこともよろしくお願いします。親兄弟の説教よりも竜礼様の言葉の方が響くでしょうから。」
龍賢は満面の笑みでそう言うが、龍韻の方は気の毒そうな顔になって龍景を見ている。
「いや~俺なんかより龍栄様と龍光様の方が先では?」
「私には竜冠も龍久もいるし、40歳を超えたからな。龍景はあっという間に30歳になるぞ。早く再婚して子どもを作りなさい。お前の稼ぎなら子ども2人でも余裕だろう。」
龍光の説教が始まった。
「ええ~いや、若手なら龍緑がいますし。」
「龍景、諦めろ。」
龍緑はつきはなした。
「龍景の方が先に再婚すべきですよ。竜の子もいないのでハヤブサが嫌がる理由はないでしょう?」
「え?ちょっ!龍栄様!?」
「う~ん、若すぎる雄は嫌そうなのよ~ 竜の子3人とか無理~なんて情けないこと言っちゃってまぁ。 人族なんて獣人の中で一番身体が弱いんだから、他の種族だって大丈夫なのに~」
竜礼はそう言って龍栄に笑顔を向けている。
「大丈夫ですよ。龍景は妻に無理な妊娠なんてさせません。」
龍栄はそう言って営業スマイルで反論する。
「そう~? まあハヤブサはどっちが引き取ってくれてもいいの。 もう片方にもすぐに次の縁談持ってきますからね~ 2人とも逃げられませんよ~」
「う・・・」
「ええ・・・」
「世話役の変更は2人だけだっけ?」
「いいえ~族長と龍平もですよう。竜湖のままは嫌でしょう?」
「あ、そか。誰になるんだ?」
「龍平の世話役には竜色を推薦します。 族長の世話役は、相談役も兼ねることが多いですし、お子様たち、奥様との関わりも持つことになりますから、族長のご希望も聞こうと思いまして。どうしても族長の世話役は権力を持つことになります。」
「ん~女の相談役なぁ。俺は竜湖ばっかりだったから思い浮かばねぇ。芙蓉は誰のことも信用してねぇし。」
「うふふ~知能の高い妻は皆そうです。 龍緑の奥様も同じですわ~表面上の付き合いをしてくれるのでとっても楽です。 私は人族との付き合いが別に苦じゃないので立候補しますわ~ 族長の再再婚の世話はごめんですけど。」
竜礼はまだ仕事を引き受ける気満々だ。
「芙蓉とは別れねぇよ。他の女の意見はどうだ?」
竜紗と竜波は不愉快そうな顔をしているが、反対はしなかった。
やはり龍希の妻は女たちからは嫌われているようだ。
あの竜紗ですら担当になることは固辞している。
まあ、龍希自身が女たちから嫌われてることも大きいが。
「竜礼ばっかりに仕事が集中しすぎじゃないか?」
「そうですか~? なら、龍栄様の再婚が決まったら、世話役は竜染に代わります~」
「え!?私ですか?」
竜礼の突然の提案に竜染は驚いている。
「だって竜縁様の守番だし~ 今の族長になってから仕事減ってるでしょ? 産卵も落ち着いたんだし、お仕事増やしますよ~」
「えっと、龍栄様がよいと仰るなら・・・」
竜染は困った顔で龍栄を見る。
「最初から竜染がいいのですが・・・私と族長どちらも竜礼殿が世話役というのはさすがに序列の偏りが・・・」
「ここでハヤブサとの再婚決めるなら竜染にしますわ~」
「・・・」
龍栄は黙ってしまった。
「なら決まりだな。ほかにあるか?」
龍希はそう言って会場を見渡したが、長時間の会議で皆疲れた顔をしている。
「よし!会議は終わりだ。解散!」
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