第39話 勇猛な子
序列会議も先週、無事に終わったと思ったら、今日は夜明け前から雪が降った。
今年の冬はかなり寒くなるらしい。
妻と末っ子の龍風は熱を出して寝込んでしまった。
娘の竜琴も咳をして、いつもより頬が赤いからこれから熱がでるかもしれない。
妻は熱がでて、咳も止まらず苦しそうだ。食欲もないらしいが、不思議と故郷のものだけは食べられるらしい。
黄虎の戸籍の件で故郷が知れてから、妻は体調が悪くなると故郷のものを欲しがるようになった。
さすがに禁止するつもりはないけど・・・
柚の皮が入ったくず湯だの、味も香りもほぼない番茶だの、白米の入ってない雑穀かゆだの
なんでそんなものを欲しがるんだ?
新鮮なフルーツを使ったジュースでも、高級茶でも、具沢山のお粥でも、俺は妻の食事に金は惜しまないのに。
身体が弱った時には栄養のあるものが欲しくね?
いつもは妻と同じものばかり欲しがる子どもたちも、妻の故郷の物は食べたがらない。
体調が悪ければなおさらだ。
龍風と竜琴はフルーツジュースやダチョウの卵料理、牛族のソフトクリームを欲しがってるので、すぐに用意させた。
栄養のあるものを食べて早く元気になってほしい。 特に龍風はまだ鱗が生え代わってないのだ。油断はできない。
~族長執務室~
妻も子ども2人も回復したので龍希は3日ぶりに仕事に戻ってきた。
案の定、仕事は溜まっている。
だが、それよりも・・・
不機嫌全開の龍景と、笑いを噛み殺している龍栄を見て龍希は察した。
ハヤブサの引き取り手は決まったようだ。
龍賢は愉快そうに2人を見ている。
「うふふ~族長、龍景の再婚の承認をお願いします~」
上機嫌の竜礼がやって来た。
「ああ、もちろんだ。ハヤブサの妻は久々だよな?」
「ええ、龍平と先代族長の離婚のせいで鳥族全体から嫌われてましたからね~
縁談復活は族長と奥様のおかげですわ~」
「ん?ハヤブサに何かしたか?」
「いいえ~ワシと白鳥と鷺に情けをかけてやったから、鳥族の態度が軟化したのです~」
「なんでもっと早く言わなかったんだよ?」
「言ったところで、あの先代族長は何もしませんし、族長になることを嫌がってる後継候補なんて頼りになります?」
「・・・。う~悪かった。」
「ふふ。族長は本当に変わられましたこと。
それより~龍景の縁談ですわ。そんな顔しなくても、ハヤブサは前婚で産卵経験まであるから大丈夫よ~
今度は族長や龍緑みたいにうまくいくわ~」
「ん?どういうことだ?芙蓉も三輪も産卵・・・じゃねえ出産経験はなかったぞ。」
「ふふ~出産経験はおまけですわ。我ら一族は婚前交渉禁止ですから、初夜に子作りの仕方を教えてもらう必要があるのです~
というか再婚でも獣人によって子作りの仕方は違いますし~
でも相手も初婚だと子作りの仕方をうまく教えられないから、夫婦仲が悪くなることが多いんです。龍緑の妻は相当な教育上手みたいですよ。」
「あーなるほどな。」
龍希は納得した。
芙蓉も初夜に龍希に人族の子作りの仕方を教えてくれたのだ。
「へ~族長の奥様にも離婚歴があったんですね。」
「は?ねぇよ。」
龍希は竜礼を睨んだのだが、
「え~でも人族の商人の娘は婚前交渉しないって聞きましたよ。前婚経験がないなら奥様はどうやって子作りの仕方を?」
「え?あーと・・・俺は妻から他の雄の話なんて聞きたくねえんだ。」
「えー!?妻の経歴は知っておきませんと。龍栄様の白鳥妻の二の舞はごめんですよう。」
「はあ!?あんなのと俺の妻を一緒にすんな!」
「してません~ もう~仕方ないから、この竜礼姉さんが代わりにきいてきますわ~」
「いやいや、竜礼様。族長の奥様は結婚前のことを詮索されるのはお嫌いですから、嫌われますよ。竜湖みたいに。」
龍景が慌てて制止する。
「え~龍緑の妻はそんなことないのに~」
「同じ種族でも個体によって好き嫌いはあるんですから!族長の奥様の地雷を踏みに行くことはないですって!」
「え~龍景がこんなに必死になるなんて珍し~」
「龍希様が不機嫌になったら、俺に鉄拳がとんでくるんです!」
「あらら~それは気の毒ねぇ。誰の弟かわかんな~い。でもリュウカの部屋に行くのは止めるわ。」
竜礼は意地の悪い笑みを浮かべながらそう言ったので、龍希も安堵した。
それから数日後、龍雲に息子が産まれた。
龍希は龍雲を連れて竜神の神殿に向かう。
今回も巫女は娘の竜琴だ。3回目なので竜縁は付き添っていない。
~竜神の神殿~
「おめでとうございます。りゅううんさま、ぞく長。」
竜琴は紫髪をハーフアップにし、真っ白の巫女服を着て、神殿の最奥にある祭壇の前で待っていた。 さすがに神殿では朱鳳臭い髪飾りはつけていない。
「名まえはもう決まってます。わかさまですね。」
「え?もうご存じなのですか?」
やっぱり龍雲も驚いている。
「りゅうじんさまから、きいてます。母のモーコさまからおうまれになった、子の名まえは、りゅうもうです。おすりゅうのりゅうに、たけだけ、しい?のもう。
大切に守り、お育てください。 りゅうもうがその名のとおり、一ぞくを守るゆうもうな男になるまで。」
竜琴は時間をかけて言い終わるとふうと息をはいた。
「龍猛ですか? お、俺の息子が、や、や、役割を、与えられた子? うそお!?」
龍雲はその場にしゃがみこんで泣き出した。
竜琴はにこりと微笑むと、祭壇の上にある果実を手に取って龍雲に渡す。
「おくさまと、一しょにお召し上がりください。ゆずです。子はおちちから力をえます。」
「ありがとうございます!巫女様 ああ・・・」
龍雲の涙は止まらない。
~雲雀亭~
龍雲と竜琴を連れて龍雲の住まいに戻ると、トリ退治は終わっていた。
屋敷に入ると、守番の竜紗が出迎える。
「お疲れ様でした。奥様と若様はお休み中ですわ。若様のお名前は?」
「龍猛です。勇猛の猛。し、信じられないことに、り、竜神様から役割を頂きました。」
やっと泣き止んでいた龍雲はまた泣き出した。
「まあ!?良かったですね、龍雲。 ふふ。龍猛は龍陽様と龍示様たちのライバルになりますね。」
「ええ!?いや、あのお二人となんて、そんな」
「役割を与えられた雄は後継候補の候補ですもの。まあ成獣してからの話ですけど。」
「ええ!?いや、そんな・・・息子は元気に育ってくれればそれで十分です。」
龍雲はすっかり父親の顔になっている。
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