第37話 年末序列会議

12月、龍雲のカワウソ妻の妊娠は順調で、明後日から龍雲は巣に籠るというので、その前に取引先と序列を見直す会議をすることになった。

序列上位では子どもの有無で序列が変わるが、龍雲の序列だと例え息子が産まれても序列に影響しない。



~大広間~

今日は一族勢揃いだ。成獣前の子たちはいないが、リュウレイ山の龍流と、謹慎があけた竜湖もいる。


一族の序列は力の強さ、一族での役割、役職、子どもの有無、不祥事の有無などで決めるが、最も重視されるのは力の強さだ。

男なら力の強さがシリュウ香の生産力に比例するし、女なら一族の仕事量や発言力に比例する。


元族長の父は一時は一族で最も力が強かったが、加齢に加えて妻の死で放心状態になっている間にかなり弱り、前回の序列会議から比べてシリュウ香の生産量はまた減っている。

龍賢もそうだ。

だが、それよりも深刻なのは龍範だ。

元より序列が低く、シリュウ香の生産量も少なかったが、60歳を過ぎてからますます弱り、シリュウ香の生産量は前回会議時の4分の3になっている。

月によって変動も大きい。

息子の龍兎がかなりフォローしているようだが、これじゃあもう単独で取引先を持たせるのは厳しいな。


反対に、龍緑、龍景、龍兎はシリュウ香の生産量が増え、それ以外の一族の仕事量も増えている。

特に龍景の仕事量はまあ、すげえな。

独身で自由がきくってのもあるが、それにしたって飛び抜けている。

その辺りを考慮して一族の意見を聞きながら序列の見直しを行うのが、族長の仕事だ。



「龍灯様は補佐官の仕事量も増えておられますし、シリュウ香の生産量も龍峰様を抜かれましたな。」

「それなら龍算様もそうです。」

「なら、龍海に次いで龍灯、龍算か?」

「いえ、竜夢様の仕事量も増えておりますよ。竜湖殿謹慎中にも混乱が起きなかったのは、新たに女の筆頭になった竜夢様の功績が大きいです。」


「私はまだ次の子の目処もたっていませんし、40歳になりましたから、竜夢殿を越えるほどでは・・・」


「龍算がそういうならそれでいいな。」

「龍賢様は、相談役になられたというのに補佐官なみの仕事量ではありませんか!」

「私は構いませんよ。独り身になって身軽ですし、まだ引退する歳ではありませんからな。」

「シリュウ香の生産量は龍峰様よりやや少ないですが、仕事量からすれば・・・」


「ああ、龍賢が上になるな。悪いが来年も龍賢の仕事量は減らねぇし。」


「儂は構わん。族長を引退してシリュウ香作り中心の静かな生活が気に入っておる。むしろ、仕事が増えて孫たちと遊ぶ時間が減るのはかなわん。」

「ならその次は・・・竜礼もかなり仕事量が増えたな。」

「復帰してから、従来の仕事に加えて竜湖の仕事の約半分を引き受けた上、竜琳殿の守番も担当されておりますので。」


「ふふふ~ お休み中はたくさんご迷惑をおかけしましたからバリバリ働きます~

竜琳ちゃんは奥様がメインで子育てされてますし、もっとお仕事が増えても大丈夫ですよ~」


「頼もしいな。序列は、体調崩す前は龍光の次だったが・・・」

「竜礼殿はまだ若いですし、これからますます仕事量が増えるでしょう。反対に、私は後継候補ではなくなり、補佐官でもありませんので竜礼殿を上にするべきかと。」

「よし。決まりだな。次は・・・」


「龍緑殿でしょう。娘の竜琳様は無事に一歳を過ぎましたし、お仕事量も補佐官並ですぞ。」


「いや、竜紗殿、竜杏殿、竜色殿の功績や仕事量にはまだ及びません。私は補佐官でもありませんし。」

「私よりは上になるべきかと。私は最近守番もありませんし、熊と離婚しましたし。」

「なら、龍緑は竜色の上だな。」

「竜冠殿も族長の奥様の担当になり、遠征のお伴などでかなり仕事量が増えておりますよ。」

「あ~確かにな。」


「いえ、それでも竜色殿の仕事量にはかないませんし、まだ白鳥の夫との間に子もおらず、序列を上げて頂くほどの結果は出せておりません。」


「そうか?ならそのままにしておこう。まあ竜冠は一番若いからどうせこれから嫌でも上がってくるしな。」

「次は・・・」


「序列上げなら龍景ですよ。シリュウ香生産量は龍平を越えて、龍雲、龍韻に追い付いてきましたし、補佐官の仕事量も相当です。」


「いや~今年は忙しかったです。」

「これで妻を迎えていれば龍雲より上でも・・・」

「予定はないです。龍栄様より先に再婚なんてできません。」

「・・・」

皆、困った顔で龍栄と龍景を交互に見ている。

「龍景、私に遠慮する必要はないよ。」

「良縁があれば考えます。」

龍景は相変わらず龍栄の前では引き際が早い。

「なら龍韻の下か?」

「はい。龍景はまだ20代ですし、序列が上がれば再婚のプレッシャーをかけやすくなります。」

竜和の言葉に頷くものは多い。

「勘弁してくださいよ。」


「いや、龍賢様の血筋が途絶えるようなことになったら・・・」


「龍韻殿が再婚されたから大丈夫で・・・」


「何言ってんだ!お前も早く再婚して父上を安心させてやれ!」


「落ち着け、龍韻。会議中だぞ。父上はやめなさい。」

「あ・・・失礼しました。龍賢様。」

「シリュウ香の生産量と仕事なら龍兎も増えておりますぞ。」

「だが、まだ龍平には及ばないな。」

「まあ、龍兎も色々と苦労がありましたゆえ。」

「それでも私よりは上になるべきかと。私は随分衰えました・・・」

「ああ、龍兎は龍範と竜染の間だな。」



「竜湖はどこになるんだ?」


皆が避けていた話題を父が切り出してくれた。こういう時は頼りになる。

「女の意見を聞こうか。」

「族長より、妻たちの担当にはつけないようにとご命令がございました。取引担当も、朱鳳からは若手に交代させてほしいと、竜礼と竜冠を指名してきました。」

「朱鳳は竜琴様と竜縁様との縁談をみすえていますな。」


「しかし、それなら竜冠様はともかく、なぜ竜礼様を?」


「私はもう歳ですから、このまま行けば女の序列に従って竜礼が次の筆頭になりますわ。」

「なるほど。」


「うふふ~筆頭なんて柄じゃないですけど、竜紗殿には任せられないからやむなしですね~」


「・・・」

何やら女たちの空気が悪くなった。

「そうなると、竜湖も歳だし竜緋あたりのとこか?」


こういう時の父の進行力は本当に見習いたい。


「いくらなんでも、そんな!?謹慎もあけましたし、序列をそこまで下げるのはやりすぎです!」

竜波の抗議に竜紗も頷いている。

「そうですか~? 龍陽様に殺されてても文句いえないほどの大失態ですよ~

そうでなくても族長の奥様でなければ、離婚案件になってます。獣人の妻に殺意を向けたなんて他の妻に知られたら~怖い怖い」

竜礼の反論に竜夢、竜和は頷いている。


「龍陽にわずかでも悪影響が残っていたら儂が殺していたところだ。」


父は思い出してまた怖い顔になっている。

「族長の決定に従いますわ。」

竜湖は父の方をちらりと見ると、それだけ言った。


竜湖はすでに族長の相談役からは外したし、妻の担当も朱鳳の取引担当もなくなると、仕事量は竜緋と大差ない。

とはいえ、力の強さから竜緋より下にはできない。


「なら、龍平と竜緋の間にする。ほかに序列について意見はあるか?」

龍希はそう言って会場を見渡すが、誰も発言しなかった。

「なら決まりだな。じゃあ次は取引先と仕事内容の見直しだな。」

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