第36話 人族の捜索
香流渓から戻って2日後、龍景は寒の住む神別町という人族町に向かわせた。
嘘は極力避けるという龍緑の発案で、龍景のシリュウ香が一つ足りないのでハイエナの宿と人族町まで探しに行くという体をとった。
そして龍緑は明日から水連町で芙蓉の家族の捜索だ。
龍緑には元々、水連町の戸籍の作り直しに関する調査を任せていたので、その調査のために人族町まで行くとの説明ですんだ。
これもまあ嘘じゃねえ。
龍緑は睡蓮亭に戻った後、三輪に、人族が龍希たちを同族と見間違うことがあるのか?と確認したらしい。
そしたら三輪は笑いながら、藍亀の島で初めて俺たちに会ったとき、俺のことも龍陽のことも人だと思ったと答えたそうで、龍緑はようやく俺の話を信じたそうだ。
~族長執務室~
翌日の夕方、朝から水連町に向かった龍緑が戻ってきたのだが・・・
「お前、黄虎臭くね?」
戻ってきた龍緑の匂いを嗅いで龍希は思わず眉をひそめる。
龍緑は凄まじく不機嫌だ。
「はい。水連町に、黄虎族長側近の虎豊がいました。ずっと俺に張り付いて絡んできて、人族と会話すらできませんでした。」
「はあ!?なんで?」
「そんなこと俺が聞きたいです。黄虎も奥様の家族を探しているのかもしれませんが、まさか族長側近がいるとは・・・参りました。」
龍緑は相当疲れているようだ。
「じゃあ収穫なしか?」
「町を歩き回る中で、病院という建物とその斜め向かいに町役場という建物はありました。龍景の聞いてきた話が本当なら、この町役場で戸籍が作り直されているようです。
あとは、人族の噂話が多少耳に入ってきました。
解放軍の拠点ができなくて残念だとか、最近やたらと獣人が町を出入りしているとか。
確かに、朱鳳や黄虎の眷属を見かけましたし、紫竜の使用人もいますし、さすがに人族たちも不審がっているようです。」
「マジかよ・・・」
龍希は頭を抱えた。
芙蓉は龍希とのなれそめというか遊郭にいた過去を知られたくないと言ってるのに。
朱鳳も黄虎もなんで妻のことを探りたがるんだ?
「ん?」
この匂いは・・・龍景も戻ってきたようだ。
「失礼します。あ!龍緑もいる!」
龍景は何やら青い顔をしている。
「どうした?」
「神別町に行ったのですが、寒は殺された後でした。」
「はあ!?」
龍希と龍緑は驚いた。
「は?なんで?誰に?」
「俺が来る2日前に鳥の獣人が寒の飴屋を襲い、中にいた人族は殺されたそうです。一応、店を見に行きましたが、獣人の血の匂いで鳥の匂いは分かりませんでした。建物は屋根が壊されていて、匂いはかなり消えていましたが、どうやら人族がシリュウ香を燃やしたようです。かすかに燃やした匂いがしました。ただなぜか朝顔のガラスの器は見つからず・・・」
龍景は落ち込んでいる。
「はあ!?なんで?どこの鳥だ?」
龍希は訳が分からない。
「鳥なら黄虎の眷属ではないですね。紫竜の使用人か執事か・・・」
龍緑は険しい顔になっている。
「ええ!?そんな報告聞いてねぇぞ。」
「なら父の仕業ですかね。」
龍緑はそう言い、
「いや、俺の父かも。今回の人族町の出張に嫌そうな顔しながら文句言って来なかったから。」
龍景はそう言って落ち込んでいる。
「いや、待てよ。龍海なり龍賢がいきなり寒を殺すか?先に拉致って話を引き出すんじゃね?」
龍希の言葉に2人ははっとした顔になる。
「た、確かに。父たちはまだ龍希様の結婚詐欺を知らないんでしたね。」
「そうだ。父上がいきなり殺すはずねぇや。」
「結婚詐欺って・・・」
龍緑の言葉に龍希は拗ねた。
「なら無関係の獣人に襲われたのか? 確かに人族町には獣人たちも居たけど、わざわざ襲うか?」
龍景の疑問に龍緑が答える。
「ありうるな。シリュウ香は高値で売れるから、略奪は珍しくないらしい。」
「え?でも燃やしてたぞ?」
「使いかけでも需要はあるんじゃないか? 自分で使うって手もあるし。」
「なるほど。やっぱお前は頭いいなぁ。」
龍景は感心しているが、
「お前に誉められても嬉しくない。」
龍緑はそう言ってそっぽを向いた。
「そういえば、奥様の家族は? ん?てか、お前臭くね?」
「うるせえ!黄虎に妨害されて探すどころじゃなかったよ!」
龍緑はまたイライラし始めた。
「え?黄虎が居たのか?こっちはハイエナだけだったぞ。」
「ん?神別町にはハイエナがいたのか?」
「ああ。前は居なかったのに、今回は3匹居た。」
「・・そっちも黄虎が探ってんのか?まずいですよ、龍希様。万一、黄虎が奥様の家族を見つけ出して、買取りを打診してきたら、もう一族に隠しきれません。」
「うう・・・」
龍緑の言葉に龍希は頭を抱えた。
「黄虎は町のどこにいたんだ?」
龍景が龍緑に尋ねる。
「さあな。俺が町の近くで馬車降りて、フード被って門から町に入ったら、なぜか虎豊が待ち構えてて、そっからずっと俺に張り付いてたんだ。 うざすぎて雷落としそうになった。」
龍緑は思い出してまたキレている。
「変だな?お前を利用して奥様の家族を探したいなら、隠れてるだろうに。」
龍景は首をかしげている。
「ああ。あいつは俺の妨害が目的だったみたいだ。だからせめてもの抵抗に町の中を歩き回ったけど、他に黄虎は居なかったな。」
「黄虎は何がしたいんだ?」
龍希の質問に2人とも首を傾げて困っている。
「参ったな。芙蓉の母親が水連町にいるのは確かなのに、どうやって探せばいいんだよー?」
「・・・いっそ、奥様が水連町行けば簡単に・・・」
龍景が言いかけたところで龍希は思い切り睨んだ。
「ダメに決まってんだろ!里帰りなんて許さねぇ!」
「落ち着いてください、龍希様。 奥様が家族を嫌ってるなら里帰りしても里心なんて出ませんよ。」
龍緑が宥めるが、
「う~芙蓉は家族が嫌いなだけで、故郷の食い物とかは懐かしがってんだ。故郷の家族が死ねば、故郷に帰りたいとか思われたら・・・絶対にダメだ!」
龍希は心配で仕方ない。
「あー。お子さまたちが手を離れた後だとあり得ますね。」
龍景はそう言って同意しやがる。
「あ!」
龍緑が何か思い付いたようだ。
「なんだ?」
「水連町では、奥様と龍希様が駆け落ちしたってことになってるんですよね?」
「ああ、あの寒って人族がそう言ってた。」
龍景が答える。
「なら、龍希様が行けば、人族たちは奥様の夫だと思って、奥様の家族の所在を明かしたりしませんか?」
龍緑の提案に龍希は龍景と顔を見合わせた。
「いや、俺は水連町に行ったことねぇし、下手に会話したら人族じゃねぇってバレる可能性が高いぞ。」
「龍希様には難しいだろ。あと、虎豊がまた妨害してくんじゃね?」
「そ、そうか・・・」
龍希と龍景に反対されて龍緑は項垂れてしまった。
「はー。今日はもう日も暮れたし、2人とも帰っていいぞ。ご苦労だった。またなんかいい知恵出たら教えてくれ。」
龍希がそう言うと、2人は頭を下げて出ていった。
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