第4話 タヤの誤算
サヤは椅子につかまろうとしたがどうしたのだろう? 手にも力が入らない。
「タヤ、ごめん。私、足が・・・」
「やっと効いたのね。」
「え?」
サヤは意味が分からずタヤを見るが、タヤはまだ泣きながらも憎しみのこもった目でサヤは見下ろしている。
「え?タヤ?」
「解放軍とかいう人族が開発した毒なの。鴨を殺せたからカラスも殺せるはずよ。」
「は?え?人族?鴨?」
サヤは意味が分からない。
「そう。鴨族長を殺した毒」
「は?え?なんでタヤがそんなものを?え?だって、そんな・・・」
「悪い?だって父も母も、姉も、誰も私を助けてくれなかった。だから、自分でやることにしたの。 鴨との結婚を終わらせて、鴨族とカラス族に復讐できるなら、人族の手を借りるなんて屈辱は我慢することにしたわ。」
タヤは見たこともないほど凶悪な笑みを浮かべているが、サヤは信じられない。
「え?なんで?鴨への報復ならカラス族が・・・」
「私はカラス族も憎いの。それにたいした報復じゃないでしょ?どうせ。 解放軍の方がまだマシよ。今朝ね、鴨族本家の井戸にこの毒を入れたの。今ごろ、皆動けなくなるか死んでるわ。
あとは鴨族本家にいる奴隷を解放軍が運び出したらここは火の海になるの。」
「は?」
サヤは信じられない。信じたくなかった。
「そ、そんなことしたらタヤは?」
「私はここで死んだことになるの。身代わりカラスを殺してね。どうせ黒こげになって個体の判別なんてできないから。カラスの死体の数さえ合えばいいの。」
「え?え?なんで?」
「あんたが迎えにきて良かったわ。ずっと復讐したかった。だからわざと毒を少なくしたの。死なない程度に。あんたは焼け死んでね。」
タヤはそう言うと、寝室の扉を開けた。
「あ、ちょうど良かったです。」
入ってきたのは人族の雌だ。
「ユリ、この通りよ。半分の毒だとカラスは動けなくなる。でも意識はあってお喋りもできるみたい。」
タヤが人族の雌に話しかける。
「ご協力ありがとうございます、タヤ様。 さ、ご避難を。もうすぐガソリンを撒き終わりますので。」
「ええ。臭いわね。」
開けた扉から変な臭いが漂ってくる。
「ご容赦下さい。この臭い液体がよく燃えるのです。」
「ふん!じゃあね。」
タヤは床に座り込んだままのサヤを一瞥すると、寝室の窓を開けて外に飛んで出ていった。
「ユリ」
今度は雄犬の獣人が入ってきた。
カラスの獣人を抱えている。
「お疲れ様。ここに寝かせて。」
ユリが指差した床に、カラスが乱暴に置かれた。 雌だ。気絶してるのか反応がない。
ユリはタヤのクローゼットを開けて、タヤの服を気絶しているカラスに着せている。
そして最後にタヤが捨てていったネックレスをカラスの首に巻いた。
このネックレスは・・・鴨族長の妻の証だ。
「そ、そのカラスをタヤの身代わりにするつもり?なんで?そのカラスは誰?」
サヤは堪らず人族に問いかけた。
身体は全く動かないが、頭ははっきりしている。
「うわ!?死体がしゃべった!?」
雄犬は驚いているが、
「あはは。まだ死んでないわ。この身代わりカラスはねぇ、私たちの仲間を殺したの。」
ユリが笑いながら答える。
「あんたたちの仲間?」
「ええ。水洞町の拠点をカラスどもが襲ったことを知らない?」
「あ!」
サヤは思い出した。
カヤが産んだワシの雛を連れていたゴリラを尾行し、スイドウ町にあった解放軍とかいう人族たちの巣を襲撃したことを。
ということは、ここにいる身代わりカラスはカラス軍の?
いつの間に拐われたのだろうか?
「さ、お待たせ。私たちも避難するわよ。」
ユリが立ち上がって雄犬にそう促すが、雄犬はじっとサヤを見下ろしている。
「ハーツ?どうしたの?」
「このカラス・・・かすかに紫竜の匂いがする。」
「え?」
雄犬ことハーツの言葉にユリは驚いた顔でサヤを見てきた。
「まさか紫竜の使用人じゃないよな?紫竜に喧嘩を売るのはごめんだせ。」
ハーツは怯えているようだ。
サヤは驚いた。
紫竜の匂い?
さすがに遥か昔に離婚した龍希の臭いはもう残っていないはずだけど・・・
2日前、カラス族長の代理で依頼料を支払いに紫竜本家に行ったからだろうか?
「そんな話はあのカラスから聞いてないけど、あんた、なんでシリュウの匂いがするの?」
ユリが尋ねてきたので、サヤは頭をフル回転させた。
回答次第ではサヤは助かるかもしれない。
「わ、私はかつてシリュウに囚われていた奴隷でした。自由になってカラス族に戻った後になってもシリュウの匂いが残っているのです。」
サヤの言葉にユリは驚いた顔になる。
サヤは解放軍とかいう人族のことはほとんど知らない。
だが、
奴隷の解放
を目的にしていることだけは分かっている。
「え?元奴隷?な、なら、シリュウに囚われている人族を知ってる?ようこって名前なの?」
ユリは顔色を変えている。
「人族を知っています。捕らえているのは、かつて私を捕えていた龍希ですから。」
サヤは必死で話を合わせる。
「リュウキ!そうだわ。そんな名前だってケープが言ってた!
ハーツ、このカラスを運んで!生かして連れて帰るわよ!」
「え?ああ、ユリがそう言うなら。」
ハーツはそう言うと、動けないサヤを肩に担いだ。
「あれ?でも、カラスの死体の数が足りなくならないか?」
ハーツが余計なことを言い出した。
「あ~そうね。んーと、あ!そーだ。」
ユリはそう言うと、サヤの足環を外して寝室の外に出ていった。
ハーツはサヤを抱えたまま付いていく。
寝室の隣の部屋には、タヤ付きのカラスの侍女たちが倒れていた。
皆、嘴から血を流して死んでいる。
床には飲みかけのコップが落ちている。
ユリはカラス侍女の死体の1つにサヤの足環をはめると、今度はカラス侍女のベルトを外して立ち上がった。
「こいつを彼女の身代わりにするわ。 そうすると、今度はカラス侍女の死体が1つ足りない。 鴨たちは、そのカラス侍女が鴨本家炎上の犯人だと思うはずよ。」
ユリの言葉にサヤはゾッとした。
そんなことをすれば、カラス族と鴨族で戦争になりかねない。
そうでなくとも、カラス族は鴨本家炎上の冤罪を・・・
いや、冤罪じゃない。 だってタヤが協力しているのだから。
サヤは絶望したが、すぐに思い直した。
カラスの侍女が犯獣人だとされる方がまだマシだ。
タヤの関与が知られれば、タヤの親族・・・カラス族長の姉も、カヤ姉も、その子どもたちも責任を取って処刑されることになる。
「さ、行くわよ! あ、ハーツ、このカラスのことはタヤには内緒ね。あいつ、シリュウの元奴隷のことを隠してたなんて! このカラスは別の隠れ家に運んで匿うわ。 えーと、あなたのことはなんて呼べばいい?」
ユリはそう言ってサヤを見上げてきた。
「私はサーヤといいます。」
「サーヤね。私は解放軍のユリ。ユリって呼んで。 巻き込んでごめんね。隠れ家に戻ったら解毒剤をあげるわ。 体調が落ち着いたらシリュウのことを聞かせてね。」
「はい。ありがとうございます。」
サヤは覚悟を決めた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます