疑念

 文面を見た瞬間、それがマッドグリーンのものだと分かった。なぜなら、毒々しい緑色で書かれていたのだから。



「圭兄さん、どうしたんですか? 何か問題でも?」寛がそう言いつつ棺の中を覗き込む。「あっ!」と声を上げると、その場に座り込む。



 圭は動揺から立ち直ると、あたりを見渡す。ここにいるのは刑事仲間や知人だけだ。この中にマッドグリーンがいるのか? いや、そうだとしても無理がある。これは追悼の俳句だ。詠みあげるのを決めたのは、ついさっきだ。先に準備するのには時間が足りない。



 いや、唯一先回り出来る人物がいる。お茶を差し出してきたスタッフだ。奴こそがマッドグリーンだったのか! よく見渡すとさっきのスタッフが目に入る。圭は無意識のうちに駆け出していた。その男に向かって。



 逃げる間を与えずにタックルをすると、男と一緒に床に倒れこむ。こいつが二人をこの世から消し去った張本人なんだ! 拳を振り上げて、男を殴りつけようとした時だった。



「圭兄さん、そいつはマッドグリーンじゃない!」寛が大声で制する。



 行き場を失った圭の拳はその勢いのまま、床にぶつかる。痛さのあまり、圭は悪態をつく。





 通夜は中止となった。当たり前だ。圭は控室に戻ると寛を問い詰める。



「あいつがマッドグリーンじゃない根拠はなんだ!」



「圭兄さん、ちょっとだけ時間をください。……あった」寛はそうつぶやくと、茶碗の裏を見せてくる。そこには簡単な盗聴器が仕掛けられていた。



「これです。こいつが原因でおじさんとの電話にノイズが入ったんです。あの男性は盗聴器を仕掛ける必要がないんです。何か理由をつけて居座れましたから」





 後ほど確認するとスタッフの男性にはアリバイがあった。盗聴するタイミングがなかったのだ。マッドグリーンはスタッフの一瞬の隙をついて、盗聴器を仕掛けたに違いない。





「惜しかったな。少なくとも、奴は来ていたんだ。あと一歩だったのに」刹那は舌打ちをして、テーブルを叩く。シーンとした部屋に大きく響き渡る。



「いつまでもここにいても仕方ありません。次の策を立てましょう」寛の言う通りだ。未練がましく居座っても何にもならない。





 外に出ると夜風が涼しかった。夏にしては珍しい。今夜は頭を冷やして、明日、もう一度考え直すしかない。



「そう言えば――」先を続けようとした瞬間に、眩しい光が圭たちを照らし出す。それは、大型トラックのものだった。危ない! そう思って道の脇に退くが、トラックはこちらに向かって突っ込んでくる。まさか、運転手は――。



 次の瞬間、圭たちは真夏の闇夜に宙に舞った。

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