鎮魂

 圭は数日の間、休みをもらった。西園寺警部に事情を話すまでもなかった。すでに警部の耳に入っていたのだ。



つよしが……あいつが、死んだなんて信じたくない。だが、あいつも覚悟していたに違いない。独自でマッドグリーンを調べていたからな。デカの血が騒いんだんだ」一息入れると西園寺警部が続ける。


「圭、お前だけが責任を負う必要はない。私にも責任はある。奴の情報を話してしまったからな」西園寺警部の声にはいつもの力強さがなかった。





 皮肉なことに、父さんが亡くなったことは、結果的に氷室先輩の容疑を晴らすことになった。なぜなら、自宅謹慎中に父さんが殺されたのだから。本当なら、このような形で疑いが晴らされるべきではなかった。氷室先輩には何も非がなかったのだから。





 久しぶりに署に出ると、氷室先輩が「よっ」と声をかけてくる。顔を見るのはいつぶりだろうか。手を挙げて返事をする。



 圭そして氷室先輩が入れ違いでいなくなった期間は西園寺警部に大きく負担をかけたに違いない。もともと寂しい白髪はさらに少なくなっていた。



「それで、今後はどうしますか? マッドグリーンについて分かっている情報はこうです。犯行予告などは緑色で書かれていること。マザー・グースに見立てて殺人を重ねていること。山手線の内側に住んでいて、小さいころに虐待された可能性が高いこと。それから――」圭はここで詰まってしまった。



「――それから、昼夜問わずに犯行を重ねている点から、勤め人でない可能性が高いことです」最後の推測は、父さんのものだった。読書の余裕があるから、お金持ちの可能性が高いと示してくれた。これは大きな前進だった。



「私はこのヤマにデカとしての命をかける。それが、剛に出来る唯一の弔いだからな」西園寺警部の声が部屋にこだまする。



 それは西園寺警部だけではない。圭も同じ気持ちだった。父さん、母さんそして刹那に手を出したマッドグリーンは生かしておけない。必ず白日はくじつの下に晒し、この手で復讐を遂げてみせる。自身の手を血で染めてでも。

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