安心できる人14



「良かった。じゃあ、明日また来るからね」


また来るという言葉に喜んでいるのは、泳斗くんの表情でわかった。


「明日!待ってる!」


「うん、そうだね」


また頭に触れようと手を伸ばすと、今度はすんなり受け入れてくれた。よしよしと撫でると、泳斗くんは気持ちよさそうに目を細めた。


正直、泳斗くんを1人残して去るのは心が痛んだ。何度も振り返ったが、泳斗くんはポツンとそこに立ち、しばらくこちらを見ていた。わたしが手を振ると、寂しそうに手を振り返す。引き返したい衝動を必死に抑えた。



「何度振り返れば気が済むの?」


言い方にトゲがあるのは、わたしが振り返るたびに頭にいる空舞さんもそちらを向くからだ。


「スミマセン・・・」


「置いて行きたくないのよね。あたし達がいなければ引き返してるわ」


「うっ・・・」 たぶん、その通りだ。「でもあの子、不思議な妖怪ですよね・・・喋れるし、人間ぽいし」


「あら、それを言うなら財前さんと美麗ちゃんだってそうじゃない?」


「そうですけど、泳斗くんの場合はなんていうか・・・」その先を、言葉で説明する事が出来ない。あの子を見た時からあるこの妙な違和感は何処から来るんだ?


「妖怪みたいな、人間?」


言ったのは早坂さんで、納得したのはわたしだ。


「ッ・・・そう!それだ!」


言葉で説明するなら、今早坂さんが言った事が1番近い。そう、あの子に対する違和感の正体はソレだったんだ。見た目は誰が見ても妖怪なのに、それ以上にあの子には"人間"を強く感じてしまうんだ。


「でも、それは何でだろ・・・」


「あなた、今頭の中でまとめたわね」


「えっ、あ、ごめんなさい。早坂さん天才ですね」


「あら、褒められちゃったわ」


「そうなんですよね、泳斗くんはどっちかというと人間みたいで・・・」


「雪音ちゃん、中に何か着てる?」


「・・・はい?」


「その服の中」


「・・・え、あ、はい。中はTシャツですけど」薄手のパーカーの中は、昨日寝る時に着ていた物だ。


「そう、じゃあ脱いで」


「はい?」


早坂さんは自分が着ていた黒いトレーナーを脱ぎ始めた。チラリとお腹が見えて、まさか、裸に!?──と思ったが、中にはシッカリと白いTシャツを纏っている。

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