安心できる人12
泳斗くんは照れたように俯いた。それが可愛いったら。
「最初は水太郎って言ってたわよ」
「空舞さんシャラップ。それで、どう思いますか?前に川で見た妖怪と似てるなって思ったんですけど・・・」
「そうねぇ、目と耳は同じように見えるけど、アレとはちょっと違うわね」
ちょっとどころか、アレとは一緒にしてほしくない。
「人間に害を与えるようには思えないんですけど、どうするべきですか・・・?」
早坂さんは柵に肘をかけて身を乗り出した。「ねえ泳斗くん、あなたそこから出て歩いたことはある?」
「あるよ。ダメなの?」
「ダメじゃないわ。人間に近づいたことはある?」
泳斗くんはすぐに首を横に振った。「ボクがここから出るのは人間がいなくなってから」
「そう。ここから出て何をしてるの?」
「走るの!人間みたいに!」
「今やってみてって言ったら、できる?」
「できるよ!」嬉しそうに言うと、泳斗くんはチャポンと池にダイブした。
それから動きはなく、水面が静かになる。どこに行ったんだろう。早坂さんの隣から池を覗き込んだその時、バシャッ!と水しぶきが上がった。
「ギャーッ!」
そして次の瞬間には、泳斗くんが目の前の柵にしがみついていた。驚いて退いた分、水の被害は最小限にとどめられた。
「ビッ、ビックリした・・・」
「凄いジャンプ力ね」早坂さんは冷静だ。
泳斗くんは手足を使って器用に柵をよじ登り、わたしの前に着地した。
至近距離で見る泳斗くんは、とても小さかった。身長は100センチ前後だろうか。人間で言ったら3、4歳といったところだ。
泳斗くんはまじまじとわたしを見上げた。この距離といい、さっきまでの警戒心はだいぶ薄れたようだ。驚かせないようにゆっくりとしゃがむ。いつもなら早坂さんが動きを見せるが、今日は黙っている。こちらもそこまで警戒する必要はないということか。
目線を合わせ、手を伸ばす。泳斗くんの大きな目に、わたしが映っている。
「握手。わかるかな?」
泳斗くんは首を傾げたが、すぐにわたしの手を取った。ヒレのある小さな手はとてもヒンヤリしている。
「ユキネ」泳斗くんが言った。
「そう。わたしはユキネ、だよ」
次に、空舞さんを指差す。「アム!」
空舞さんにこれといって反応はない。そして早坂さんを見上げる。
「ハヤサカユーリ!」
早坂さんは片眉を上げてニヤッと笑った。
「頭が良いのね。ユーリでいいわよ」
「ユーリ!」泳斗くんが復唱した。
「凄いね。泳斗くん、わたしより頭いいよ」
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