安心できる人11



「何してるの?」


一瞬、背筋が寒くなった。


「・・・怒らないって約束してくれます?」


「怒られるような事なのね」電話の向こうから溜め息が聞こえた。「何をしたの?」


「え──、今日は朝方、空舞さんに起こされまして・・・」


それから今に至るまでの経緯を説明する間、早坂さんは何も言わず黙って聞いていた。泳斗くんの事もわかっている事は全て伝え、話し終えたところで、──呻くような溜め息が1度。


「いや、その、早坂さんに電話しようと思ったところに、早坂さんから電話がありまして」


我ながら、言い訳じみている。


「思うのが遅いのよ」


「うっ・・・スミマセン」


「何処の公園?」


「え?っと・・・」公園の名前と最寄りの駅を伝えると、了解とだけ言い、通話が切断された。


来ーる!きっと来る!頭の中であるテーマ音が流れた。


「なんだって?」


「たぶん、今から来ます。ぜったい」



それから15分も経たずして、早坂さんはやって来た。向こうから歩いてくる姿が炎をまとっているように見えて、思わず逃げ出しそうになった。やたらゆっくりなのも逆に怖い。

目の前まで来た時、もはやわたしの目は泳ぎまくっていた。


「こんにちは。いいお天気ですね」


「曇ってるわよ」


目を合わせられないわたしの顎を掴み、早坂さんは自分に向かせた。

真っ直ぐに見つめられ、わたしの目はそれから逃れようと勝手に閉じる。


「なに、キスして欲しいの?」


「違います!」


早坂さんは溜め息を吐き、わたしの頭に手を置いた。


「足の怪我はどう?」


いつもの優しい口調だ。すぐに説教タイムが始まるかと思ったのだが。


「大丈夫です。ここまで来れたので」


「病院には?」


「・・・こーゆう事情だったので。それに行くまででもないので大丈夫です」


「それはあなたが決める事じゃないわ。まったく、大丈夫しか言わないんだから」


今のわたしに反論できる余地はない。


「早坂さん、1人ですか?」


「ええ、瀬野は連絡つかないからメールだけ入れといたわ。それで──この子が例の子ね」


早坂さんは岩場にちょこんと座ってる泳斗くんを見た。


「泳斗くんです。泳斗くん、この人は早坂遊里さんだよ。身体は大きいけど怖くないからね」


「あらあら、ずいぶん可愛らしいのね。色んな意味で」


早坂さんは泳斗くんの全身をまじまじと見た。とくに、下の方を。


「ですよね。わたしもビックリしました」


「泳斗くん、ね。ずいぶん良い名前をつけてもらったじゃない」




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