安心できる人4
「空舞さん、これから行ってみませんか?」
「いいけど、足は大丈夫なの?」
「ゆっくり歩けば問題ないです。ごめんなさい、ノロくて迷惑かけると思いますが」
「人間がノロいのは元からじゃない。慣れてるわ」
これは空舞さんなりの優しさだと、解釈した。
右足を庇いながら地下鉄まで向かったが、意外と歩ける事に気づいた。
昨日の冷却スプレーと湿布のおかげだろうか。
早坂さんの車のトランクには、病院かと思うくらいありとあらゆる救急用品が積まれている。
そのおかげで今わたしの家には、3年分くらいの湿布が積み重なっている。
ああ──気づいたと同時に、思い出した。
今日、"絶対"病院に行くって約束してたんだっけ。これは、オカンモードが発動するのが見える。でも、こういう事情だからわかってくれるはずだ。いや、それよりも1人で行った事を怒られるか?でも、空舞さんもいるし、事実1人ではないよね。
「何をぶつぶつ言ってるの?」
「え?あ、いや、今日病院に・・・」言いかけて、ハッとした。隣に座っていた女性と目が合い、咳払いをして誤魔化す。
「空舞さん、電車では話しかけないでって言ったじゃないですか」肩にいる空舞さんに小声で囁いた。
「誰も聞いてないわよ」
「隣のおばさまとバッチリ目合いましたからッ」
マスクをしてきて良かった。独り言だと思われずに済む。
「別にいいじゃない。1人で喋りながら歩いてる人をよく見るわよ」
「・・・わたしはしないので」
まさか、空舞さんも一緒に地下鉄に乗るとは思わなかった。窮屈なのを1番嫌がるのに。
「こんなに人間同士が密着した乗り物によく乗るわね」
「一応、わたしも人間なので。これでもマシなほうですよ。休日の地下鉄なんて地獄絵図ですから」
「雪音、あなたも人混みは嫌いでしょう?」
「はい、出来れば乗りたくはないですね。や、絶対」
「遊里みたいに車を持てばいいじゃない」
「簡単に言いますけどね・・・車はお金がかかるんですよ。保険とか税金とか、ガソリン代、駐車場代、メンテナンス・・・」言葉にして、わたしには絶対無理だと確信した。
隣のおばさまが、またチラリとわたしを見た。
これ以上、喋らないでおこう。
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